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ネイの魔法  作者: 詠城カンナ
第二章 Calamitas virtutis occasio est
26/26

23 ハーレムの貴公子(1)

とても久しぶりな投稿になります。

これを書きためていたのが2013年11月と記録されておりました…(笑)

少し手を付けくわえての投稿になります。


 揺れる、揺れる。

 水面に揺れ、漂い、たゆたう。


(――ん?)


 潮の匂いが鼻孔をつつき、ヴィーはうっすらと目をあけた。

「痛っ」

 首を起こそうとして、腕が痺れていることに気づく。視線を彷徨わせると、まるで磔にされているかのように、腕を横に広げた形で縛られ捕えられていた。

 わけがわからない。

 手首は白い布でぎっちりと縛られているが、足首には分厚い鉄の錠がはめられ、上げることすらままならない。

(落ち着け)

 鈍った頭を振り、目を走らせる。

 そこは知らない部屋だった。

 磔にされたヴィーの横には大きなサイズのベッドがあり、目の前にはこれまた大きな四角いテーブルが設置されている。椅子は二脚だが、ひとつはなんら飾り気のない木の椅子だが、もうひとつは紅い上等な布を使って覆われている上品な椅子。

 床には薄手の絨毯が引かれ、とてもではないが庶民の暮らせる空間ではない。

 視界の横に映ったベッドも、壁にかかる絵画も、今は使われていない暖炉も、テーブルも椅子も、すべてが上等な品物であることは明白だった。

(つまりあたしは、金持ちの家に捕えられているってこと……?)

 カーテンの隙間から射す光は眩しく、時は朝になっていることを告げる。

(趣味悪いわ)

 牢屋につながれなかっただけマシと取るべきか、このような趣向に顔を引きつけるべきか本気で迷った。


 昨夜は海賊たちの宴に参加し、酒を買いに行ったハノンについて飲み物の調達に向かったはず。そのあと、異国風のハーレム集団と出くわし……ハノンはどうやら知り合いのようであった。

 おそらく、例の男に連れてこられたのだろう。首筋がじんじんと痛むし、気を失わせられてこの豪華な部屋に運びこまれたにちがいない。

 さてどうしたものか、と思案しはじめたヴィーだったが、すぐに思考を遮られる。

 部屋の扉が開かれたのだ。

 びっくりして、そのまま入ってきた人物を見つめる。その人物もまた、目をぱちくりさせてヴィーを見つめ返してきた。

 やがて。

「リューさまぁあ? これはいったいどういう趣味をしていらっしゃりやがるのですかぁあ!」

 と、叫んだ。

 入ってきたのは男。ハノンと同じくらいの年齢だろうか。手には太く平べったい刃の剣をもっている。

 部屋の外から大爆笑が響いていた。男のものと、数人の女の笑い声がする。

「笑い事じゃありませんよ。どーすんですかコレ。というか、何なんですかコレ」

「あっはは。そう怒るな。余興ではないか」

「どこが余興ですか。部屋に不審者がいるっていうから剣を携えて来てみれば……」

「驚いたであろう? あの磔はユハナの好みだ」

 扉から外へ顔を出して男は呆れ声を出している。それに答えたのは昨夜のハーレム男であろうとヴィーは見当をつけた。

 部屋の外で二、三言葉を交わし、改めて部屋に入ってきたのは先ほどの男とハーレム男だ。

 はじめに入ってきた男は手の剣を鞘に納め、やや困惑した表情のままヴィーとハーレム男を交互に見やる。

「リューさま、こちらの方は?」

 リューと呼ばれたのはハーレム男だ。即座にヴィーのブラックリストに彼の名が刻み込まれた。

「ニック、そなたはハノンを連れてこい。こやつは奴の女だ」

「ハノン殿のっ? か、彼は何処へ……」

「女部屋に放り込んでやった。今頃お楽しみの最中なんじゃないか」

 ヴィーに近づきつつ、ハーレム男もといリューは余裕の笑みを浮かべてそう言った。

 内心、めまぐるしくヴィーの思考は荒れるが、相手に悟られぬよう表情には出さない。これも王宮で培った『秘儀・父王の真似』の賜物であろうか。

 ニックと呼ばれた男は憐みのまなざしをヴィーに向け、静かに頭を下げて部屋を後にした。

(まさかの、ふたりきり)

 ばくばくと心臓が煩い。背中には脂汗がわき出てくる。

 ふーん、と目を細め、男はじろじろとヴィーを観察した。


(なんなの、この人)


 リューと呼ばれた彼は、カスパルニアでは見かけない日に焼けた小麦色の肌をしており、長く伸ばされたブロンドの髪は、片方を捻じり編み込んでいる。細かく編み込まれた髪の一部は赤みがかった黒色だ。

 右の前髪が長く、額から瞼までを覆い隠しており、その右目の下から頬にかけて《蔓の絡まる剣》の文様が紅色で刻まれていた。

 耳には金の輪っかや赤い丸いピアスなどの耳飾り、手には指輪、衣装と揃えた腕輪など、身体のいたるところにアクセサリーを散りばめ、歩くたびにじゃらじゃらと音が鳴る。

 ハーレムの美女らと同様に、彼自身も上半身は裸同然で、ターコイズ色の布を申し訳程度に身に着けている。下もハーレムパンツにヒップスカーフを巻いているが、どうにも腰回りは際どく、全体的に露出が多い。服装も褐色肌と同様にカスパルニア国内では決して見ない風体だった。

 くつり、と声をたてて、ややつり目気味の目を細めて男――リューは笑った。右目の下にあるホクロが彼の艶やかさを際立てている。


(なんなのよ、この人は)


 抑えられぬ彼の色香は壮絶で、なるほど、美女に囲まれるだけのことはある顔立ちだ。

 しかし、ヴィーのなかの怖いという気持ちは、次第に怒りに変わりはじめる。

 負けじと彼をにらみ返し――おや、と首を捻る。

 昨夜の暗がりで見た彼の瞳は、ヴィーの父王と同じ明るい青に見えたのに、今目の前にいる男の瞳はブルートパーズの色だ。


(なあんだ)


 無意識に張っていた肩の力が抜ける。

「余裕だな、娘」

「そんなこと、ない……ですわ」

 第一声は大事である。貴婦人然とした口調でなんとか答えた。

 ほう、と顎に手をやり、男は面白そうに唸る。

「そなたは、ハノンの女にしておくには勿体ないな。予に物怖じをせず見返してくる」

(あなたの周りにいる美女たちのほうが物怖じなんて欠片もしていないと思うんですけれど)

 ちょっとばかし遠い目をしてしまった。

 ――と、男の手がヴィーの肌に触れる。びくりと縮み「ひっ」と拒絶の声を出したにも関わらず、彼はそのままうつくしい色合いの眼を細めてヴィーの髪、頬、首筋を撫で上げた。

 手つきはいやにやさしく、変な気分になる。リューはうっとりするほど色香を出した笑みを見せた。

「どうだ? そなた、予の女にならないか」

 どくりと心臓がざわめく。

 彼は徐々に顔を近づけてきたが、ヴィーは身動きできず逃げられない。

「ハノンには予から上手く言っておこう。そなたは気兼ねせずともよいのだ――予の女になれ」

 猛禽類がごとく鋭い視線に甘美な色をのせ、くっつきそうなほど近づいて男は命じる。

 ヴィーは息を呑んだ。

 まるで父に命じられたかのように逆らえない――逆らわせない雰囲気がある。否、と首を振れば即刻命はないだろう……むしろ、自ら首を振ってしまいたくなるほどの威圧もある。

 飴と鞭を同時に使われたような、そんな感覚。

 けれど――

「お断りいたします」

 ヴィーは自分でも驚くほどきっぱりと答えていた。

 ぽかんと間抜け面をさらしたリューは、しばしなにも言えずに呆けているようだった。

 溜飲が下がる。

 鼻持ちならぬ男は、しかしすぐに己を取り戻して口をひらく。

「今、なんと申した? 予が赦すのは一回きりだぞ」

「何度でもいいます。あたし、あなたの女になんて、なりたくない!」

 だんだん腹が立ってきて、語尾が強くなる。

 何様のつもりなのか。勝手に攫っておいてこの高慢な言いよう、まるで暴君のようではないか。

 キッとにらみつけてやると、リューは再度呆然としてから、ゆっくりと口角を引き上げた。

「そうか――小娘、そちは口のきき方を知らぬようだな」

「ぐっ」

 いきなり顎をつかまれ、痛いくらい強い力で上を向かされた。

 そのまま彼の指は無遠慮にヴィーの唇をなぞる。

「だが、そろそろ従順な女にも飽き飽きしていたところだ。よかったなぁ、女」

 片手でヴィーの拘束を解きながら、なおも笑みをたたえたままリューはつづける。

「その生意気な目が屈辱に染まる様はさぞ愉快であろうな」

「なに、する――」

 皆まで言わせぬまま、容易く捕えていた拘束具をはずし、リューは乱暴にヴィーの腕を引いてベッドへ投げた。

 上半身を起こすことも叶わず、ヴィーは馬乗りになった男の重みと力に呻いた。そうしてわけが分からず動揺を隠すことさえできぬうちに、再度戒められる。

 ぎしり、とベッドが音をたてた。

「ハハ。見ものだな。これから連れてこられるハノンは、どんな表情カオをするのだろうなぁ?」

「や、めて……」

「やめぬ」

 ヴィーの衣服に手をかけ、やわやわとした手つきで触れてくる。

「結構な大きさではないか」

 やはりハノンになどは勿体ない、と含み笑い、男の手はヴィーの胸をひと撫でする。


 ――怖い。


 けれど、それ以上に。


「って……いつ、まで……」

「ん? なにか申したか」

「だから、いつまで触ってんのよ変態っ!」

 叫び、拘束されていた手をそのまま、肘だけで男の顎に向かって殴り掛かった。

「おっと」

「避けないでよ変態」

 間一髪にところで避けられ、歯ぎしりする。

 緩まった拘束に、思い切り暴れた。じゃじゃ馬姫のあだ名は伊達ではない。

 とうとう男の拘束から逃れ、ヴィーは崩れた衣服を整えて男から距離を取りにらみつけた。

 目の前の変態よりも、ニックと呼ばれていた男のほうが常識はあるように思う。はやく帰ってこないかと願わずにはいられない。

 リューは余裕綽々の表情のまま、世の女性を魅了して止まないであろう瞳をうっとりと細め、唇の端を器用に引き上げる。まるで獲物を狙う猛禽類のような光を帯びた瞳だけが、らんらんと奇妙な熱をはらんでいた。

「女、今にそんな態度はとれなくなるぞ」

「どういうこと……?」

 ヴィーが困惑につぶやいたとほぼ同時に、部屋がノックされる。男の口角がさらに引きあがった。



登場人物にリューとエリザベスと謎の男を追加。

まだリューに関しては詳細ははぶいていたり。

また、リューのイメージイラストを追加させていただきました。

いろいろ要望に応えていただけて、妄想以上のかっこいいハーレム男を描いていただけたので、是非一見!笑

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