03
「朝からこんなに大きなチキンだなんて、胃もたれしてしまいますわ。キャシーのことをなんだと思っているの!」
サンドイッチのパンをフォークでめくって顔をしかめる。
「そのくらい食べれるって」
諭すミリル
「無理すれば食べられることくらい分かってます。」
ミリルの言葉には耳を貸さずにプリプリとまくし立てる。
「そうじゃなくて、これが淑女に対する対応なのかってこと。ジョンにまかせるといつもこう」
「めんどくさー」
ミリルがはき捨てるように呟くのを見て、飛鳥が口を挟む。
「あんたなにもわかってない。もっとお野菜を増やしてほしいわけよ」
「そう、そうですわ」
まるで、ようやく味方を得たとでもいうようにキャシーの声が一段明るくなる。
「それにもう少しおしゃれな感じで。」
「小鳥遊君。ジョンさんにも言い分があると思うんだ。」
あたしの追い打ちに先輩が反応した。
「先輩もあっち側の人間ですか?」
先輩のフォローをあたしは冷たくあしらった。
「僕はおいしそうにいっぱい食べてくれる子、いいと思うけどなあ」
「もてませんよ?」
なおも食い下がる先輩にもう一撃入れておく。
「えー、そんなぁ」
先輩は悲しそうな声を最後に引き下がった。
「飛鳥はそのままでいいってさ、良かったじゃん」
しかし、ミリルがあとを引き継いたようだった。
「やかましい」
ヘッドロックを入れて黙らせる。
「ねえ、あたしたち捨てられてたフィルムに入ってない?」
先ほどから感じていた違和感を口にする。
「よくぞお気づきで。飛鳥もやるようになったではないか」
ミリルが偉そうな態度で肯定する。
「なんでかしら?」
「はて、なんでかのぉ?」
あたしの疑問にミリルが首を大きくかしげる。
「ミリルにもわからないの?」
「こんなん初めてたい」
あんた九州の人だったの?
「いや、そげんことなか。また時間がほつれているらしかね。
どうやら、ここは1950年代のヨーロッパのオリエント急行みたいじゃ」
「ねね、ミリルさー。九州に縁もゆかりも無いから普通の言葉に戻してもいい?」
「早く戻しなさいよ。誰も求めてないから!」
「このいままいくと、ミリルたちはカットされたフィルムの終点にいきついて、時間が修了しちゃう。早くゆがみを見つけるのよ。」
「そんな切羽詰まった状態でよくふざけていたわね」
「ふーーんだ」
そっぽを向いてしまったメリルを睨みつける。
「このいざこざの原因は彼氏がノンデリだったってことでしょ。ふん縛って改心させたら終わるくない?」
あたしの考察に、しかし物言いがでた。先輩だ。
「小鳥遊君、それは早計だよ。この2人の問題はそれでもいいかもしれないけど、ゆがみとは別問題かもしれない」
「そうそう、分かってるじゃない。さあ、速く違和感を探しちゃって」
「なあ、テーブルの上ちょっとおかしくないかい?」
先輩の指摘にテーブルの上を注視してみると、いつの間にか全部折り紙になってる。
「ええ、ミリルの朝ごはんが。いったいどうして。でも確かにフォークもカップも全部折り紙だ。しかし不正解。これはゆがみではありませんー」
「何でよ」
「先生からメッセージが来てる。『卑しい子にはお仕置きだ。折り紙に変えておくから、これでも食べるのならばご自由に。』だってー」
「それはご愁傷さまね。じゃあ、何が正解なのよ」
「む、何奴。」
「先輩どうしたの?」
「ドアの外に気配がある」
引き戸になっている扉を開けると小太りの男性が頼りない笑顔を浮かべて立っていた。
「ジョン?」
キャシーが驚きの声を上げる。
「まさか、ジョンが折り紙になってる?」
「そんなわけないでしょ。」
ミリルのボケにツッコミを入れて黙らせる。
「それはいいけど、なんでフライトジャケット?」
そこそこお高い列車旅でしょう?もっとフォーマルな格好が普通じゃない?
「なんで、いつの間に!15年ほど前のものだよ。懐かしいな。当時は20歳くらいだったかな、僕は哨戒任務でワイルドキャットに乗っていたんだ。」
「!!」
それを聞いた先輩の顔が強ばる。
「僕の曽祖父は輸送機乗りだったんだけどワイルドキャットに追い回されてひどい目にあったって言ってた」
時間が巻き戻った。
「それじゃあ、朝食はクラブハウスサンドでお願いします。」
ちょうど、ジョンが朝食のオーダーをしている場面だった。
これが本来の姿なのだろう。さっきまでとは違い、スーツのズボンにベストというこざっぱりした格好をしている
ウエイトレスが一礼して去っていく。
「ちょっとあんた、何やってんのよ」
すかさず飛鳥が食って掛かる。「突然になんだ?君は何者だ?!」
突然の声に訝しげに応える。
「面倒だから省くけど、あたしはキャシーの味方よ」
我ながら酷い説明だとは思うが仕方がない。説明のしようがないのだ。
しかし、ジョンはしっかりと丸め込まれている。最愛の人の名前を出して味方と言われては邪険にできないのだろう。
「で、だ。何が問題なんだい?」
「女性に朝からこんなに大きなクラブハウスサンドってどうかしてるわよ!」
きっぱりと問題点を叩きつける。
「キャシーの事をどう思っているの?」
「そうだな。天性の大食いオバケ。かな」
少しばかり考えて、ひねり出した答えが酷かった。
へ?何を言ってるのよ。
予想に反する返答に戸惑う。
あのか細いキャシーが?大食いオバケ?
何を 言っているんだ?
とはいえ、さっき出会ったばかりで名前くらいしか知らないというのも事実。
「実際にそこにいるから見てくれよ」
ジョンが困り果てた顔で懇願する。
「もうおしまいですの?全然足りませんわ。おかわりを持ってきなさい。」
戸の奥からキャシーの声が響く。
本当だ。本当にヤバかった。
キャシーの怒りは収まらない。飛鳥はそっと声のする部屋をドアの小さな窓から中を覗き見た。
先ほどと同様のテーブルと向かい合ったベンチシート。その奥に大きな窓があって、外には大な麦畑が広がる車窓風景が流れていく。
「ミリルはまだ食べてないのよ。せめてもう一つサンドイッチを持ってきなさい」
え?今なんて?
テーブルの上で、小さなそれこそジャンガリアンハムスターサイズのゴスロリウサギたちがキャシーを応援している。
「てっへー。バレちった?」
「せっかくのクラブハウスサンドなのに、それが選択されなかった未来だったなんて。悔しくて悔しくて!!」
それで干渉して未来を捻じ曲げた、と?」
「結局ミリルが摘み取っちゃうから問題無いと思ったんだよー」
「その時間線途絶えるのに問題ないわけないじゃない。
うまい事セーフティが働けば、さっきみたいに分岐前に戻れるわよ」
「働かなかったら?」
「その場で時停止で終了ー」
「おバカ!そんな賭けするんじゃないの!」
それに、だ。
「サンドイッチ選んでも、結局食べられなかったじゃない。もう諦めなさいよ」
「諦めきれるっかい!」
「食べ物の恨みぃー」
「逆恨みじゃないのよ」
「えいっ」
ポポポン。
気合いの声と共に膝丈サイズのちびミリル召喚!
「やっておしまい。ミリルファードエルエド・ファルサラドエルト ジュニアたち!!
略してしてJ・F・ケネディ ジュニアたち!!」
「もうそれは良いっ!」
出てきたゴスロリウサギに強めのツッコミを入れる。
「ふぎゃ」
「みぎゃ」
「へにゃ」
すると、よろけて転倒する。その際に隣のちびミリルを押して転倒させる。チビたちは次々とドミノ倒しに転倒していって、せっかく登場したちびミリルは綺麗さっぱり全滅した。
「すごいじゃないか、小鳥遊君」
こんなところを先輩に褒められても微妙なのだ。
「うっきー!なんでミリルの邪魔ばかりするのよー!!」
召喚したチビ達があっさり全滅したのを見てミリルが切れた。
「あんたが時間の流れを遮ってるんじゃない。少しは自覚してよ」
飛鳥が諭してみるが、効果は無い。
「さっきも今回もミリルが原因なのよ」
「そんな事ないもん。だってほら。」
ジョンを指差す。いつの間にかフライトジャケット姿になっていた。
「懐かしいぜ。あの時も海上で日本軍の大物を追い回していたんだ。」
ジョンは遠くを見つめているようで、飛鳥たちのことは視界にはいっていないようだった。
そんなこんなで物語も中盤です次回で完結予定。よろしければ評価をお願いします。




