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殿下の真実の愛は、殿下の嘘を許しませんでした  作者: 九葉(くずは)


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7/12

殿下の真実の愛は……殿下の嘘を、許せませんでした

数えてみると、嘘は一つではなかった。


ロザリンドが婚約者の存在を知ってから、三週間が過ぎていた。その三週間で、ロザリンドは自分とフィリベールの半年間をもう一度辿り直していた。一つずつ、記憶を開いて確かめるように。記憶は宝石箱に似ている。蓋を開ければ光って見えるが、裏返すと留め具が歪んでいたりする。ロザリンドの記憶は、裏返すたびに歪みが見つかった。


「今日は会議が長引いて」と断られた午後。けれど同じ日の夕方、殿下は中庭で別の令嬢と談笑していた。使用人の噂で知った。会議はなかった。


「君が初めてだ」と言った東屋の午後。けれどセレスティーヌ嬢への態度には、初めての相手に向ける緊張がなかった。慣れた距離の取り方だった。二年間、隣にいた人への距離感。あれは、隣に誰かがいた人間の立ち方だ。ロザリンドが気づかなかったのは、気づきたくなかったからだろう。好きな人の嘘を、人は見たくない。


「君のことを一番大切に思っている」と囁いた夜。けれど翌朝の殿下は、何事もなかったかのように公務に戻り、ロザリンドの名前を一度も口にしなかった。側近たちの前では、まるでロザリンドという存在が不在であるかのように振る舞う。大切だと囁いた相手を、翌朝には存在しないもののように扱える。それは婚約者に対しても同じだったのだろう。大切な人間を、必要なときだけ存在させ、不要なときに消す。殿下のそういう癖を、ロザリンドはようやく理解した。


嘘は一つではなかった。婚約者の存在を隠したのは、嘘の中の一つに過ぎない。殿下は必要なときに必要な嘘をつける人で、どの嘘も滑らかで、どの嘘も優しい顔をしていた。


三週間をかけて、ロザリンドは半年分の記憶をすべて開き直した。開くたびに、どこかが少しだけ歪んでいた。完璧に見えた思い出の裏に、薄い嘘の層が張り付いている。剥がすと、その下にはもう一枚、別の嘘がある。


何枚剥がしても、本当の殿下に辿り着けなかった。


三週間かけて、ロザリンドは決心した。泣くのは後でいい。今は、この人の前に立って、自分の言葉で終わらせる。


庭園で待っていた。殿下が午後の散策に出てくることは分かっている。使用人に聞いたわけではない。半年間の習慣を、体が覚えている。


フィリベールが庭園の小径を歩いてくる姿が見えた。グスタフが少し離れた場所に控えている。


ロザリンドは立ち上がった。


「殿下」


フィリベールはロザリンドを見て、少し驚いた顔をした。先日の訪問で冷たくされたことが気になっていたのだろう。けれどすぐに笑顔を作り直す。この切り替えの速さを、以前は「余裕がある」と思っていた。今は違うものが見える。嘘をつき慣れた人間の、表情の筋肉の動かし方。


「ロザリンド。今日は気分が良くなったのか。庭に出られるなら、一緒に歩こう」


声は柔らかい。半年前と同じ柔らかさ。だが今のロザリンドには、柔らかい声が何も保証しないことが分かっている。


「殿下に一つ、お尋ねしたいことがあります」


フィリベールの笑顔がわずかに硬くなる。「なんだ」と言いながら、もう構えている。こういう場面で身を固くすることに、この人は慣れている。何度もこういう場面をくぐってきた人間の構え方。婚約者にも、同じ構えを見せたのだろうか。


「殿下は、私以外の方にも嘘をおつきになりましたか」


庭園の空気が止まった。木の葉が揺れる音だけが聞こえる。


フィリベールは答えなかった。正確には、答えようとしたが、最初の一語が出なかった。口が動く。けれど声にならない。否定するにも肯定するにも、どちらの言葉にも嘘が混じることを、この人自身が分かっている。


沈黙が長い。以前なら、殿下の沈黙は余裕に見えた。けれどもう、そうは見えない。言葉を探して見つけられない人間の沈黙だ。嘘の引き出しを開けて、ちょうどいい嘘が見つからないときの沈黙。


その沈黙で十分だった。


ロザリンドはもう、答えを聞く必要がない。この人は嘘をつける人だった。婚約者に嘘をつき、恋人に嘘をつき、そしておそらく自分自身にも嘘をついている。「真実の愛」という言葉すら、嘘を包む布にしか見えなくなっていた。


「ロザリンド、聞いてくれ。俺は確かに間違えた。だが君への気持ちは本物だ。セレスティーヌのことは……」


言葉が長い。また長くなっている。嘘を重ねるとき、殿下の言葉は長くなる。真実を語るときは短い。「婚約者はいない」の一言で済ませたように。本当のことを言うときだけ、殿下は短く語れる。嘘には説明が要る。


「殿下」


ロザリンドはフィリベールの言葉を遮った。この人の言葉を最後まで聞いてはいけない。最後まで聞けば、また信じてしまうかもしれない。この人の嘘は上手だから。優しい声で、優しい顔で、聞いている人間が信じたくなるような嘘をつくから。


「殿下の真実の愛は——殿下の嘘を、許せませんでした。」


声が震えなかったことに、自分で驚いた。涙も出なかった。悲しみはある。半年間の恋が嘘の上に建っていたという事実は、胸の真ん中を圧迫する。けれど痛みよりも先に来たのは、明瞭さだった。霧が晴れるように、視界が急に開ける。


この人の隣にいてはいけない。この人の言葉を信じ続けてはいけない。それだけが、はっきりと分かる。


フィリベールの顔が見えた。固まっている。笑顔を作り直すことも、言い訳を並べることもできないまま、ただ立っている。初めて見る顔だった。嘘の引き出しが空になった人の顔。


ロザリンドは一歩下がり、礼をした。深い礼ではない。浅い、社交の礼。恋人に向ける礼ではなく、もう関わりのなくなった相手に向ける最後の形式。


「お元気で」


それだけ言って、背を向けた。


フィリベールが何か言っている。「待ってくれ」か「聞いてくれ」か、声が重なって聞き取れない。追いかけてはこない。声だけで引き止められると思っている。半年前の自分なら、この声で足を止めただろう。あの柔らかい声に、名前を呼ばれるだけで。


今は止まらない。止まる理由がもうない。庭園の小径を歩く。白い花の咲く植え込みの横を通り過ぎる。以前はこの花を摘んで胸元につけていた。殿下が好きだと言ったから。殿下のために美しくありたかったから。今日は手を伸ばさない。花に罪はないが、この庭の花を身につける理由が、もうなかった。


植え込みの向こうに、グスタフの姿が見える。ロザリンドが通り過ぎるのを見て、小さく頭を下げた。いつもの「何か言いたそうで言わない」顔ではなかった。今日のグスタフの目には、覚悟がある。


庭園を出るとき、背後でグスタフの声が聞こえた。低く、静かな声。フィリベールに向けられた声。


「殿下」


フィリベールはまだ立ち尽くしているのだろう。ロザリンドが去った小径を見つめたまま。グスタフの声が、その背中に届く。


「殿下は嘘をお一つつかれました。その一つが、すべてを壊しました。」


グスタフの声は震えていなかった。長い間、言いたくて言えなかった言葉は、こういう声で出る。押し殺すのではなく、ようやく解き放たれた言葉の、静かな重さ。セレスティーヌ嬢がいた頃から、グスタフはこの言葉を飲み込んでいたのだろう。二度も三度も、言いかけて止めていたあの沈黙が、今、言葉になった。


フィリベールは何も返さなかったのだろう。ロザリンドは門をくぐりながら、背後の沈黙を聞いていた。いつもは言い訳が先に出る人が、今は黙っている。初めて、取り繕えない場所に立たされている。言い訳の材料が一つもない場所に。


庭園の門の外には、夕方の光が広がっていた。長い影が石畳に伸びている。ロザリンドはその光の中に踏み出した。


振り返りたい気持ちが、一瞬だけあった。殿下がどんな顔をしているか、見たいと思った。けれど振り返れば、あの人の顔を見れば、また優しい嘘を信じたくなるかもしれない。だから振り返らない。


殿下の隣にいた半年間は、嘘の上に建っていた。美しく、楽しく、けれど土台が嘘だった。土台が崩れれば、その上に載っていたものは全部崩れる。美しさも楽しさも、「真実の愛」という名前も。


嘘の上に建てた恋は、嘘から崩れた。殿下の庭に、花はもうなかった。

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