88 第二王女の途中退出
「ジョアンヌ様、視察はただ楽しいだけの旅行ではありませんよ」
ニックが嗜めると、「分かっていますわ。これも公務ですもの」と、理解しているような答えが返ってくる。だけど、先ほどの発言からして、ジョアンヌが視察を行う意味を正しく理解しているとは、考えられなかった。
「既に数回に渡って視察を行っていただきましたが、旅行気分で取り組まれているようですので、今後、ジョアンヌ様に視察を割り振ることはできません」
ニックが告げると、ジョアンヌが、ガタッと椅子から立ち上がった。
「なっ!? わたくしは王女よ! 貴方に何の権限があってそんなことっ!!」
「視察にもお金が掛かるのですよ。遊びで参加されては困ります。この件は国王陛下のお耳にも入れさせていただきます」
「私を視察から外すことをお父様がお認めになるはずがないわ!」
「それはどうでしょう? ジョアンヌ様の視察先は再視察になることが多いですから、国王陛下も異論はないでしょう」
「そんなことをしたら、視察公務をお姉さまに偏らせているって、お母様と抗議しますわ!」
尚も食い下がるジョアンヌは怒りで顔を赤くしている。だが、対するニックは冷静に言葉を返していた。
「でしたら、その他の公務もシャンテル様に偏っていますので、全て均等になるよう割り振らせていただきます」
「わたくしの仕事を増やすと言うの!?」
「えぇ。今まで国王陛下は自らの案件をシャンテル様に任されるばかりでしたが、今後はジョアンヌ様にもお任せするようお伝えします」
ニックがにこりと笑みを浮かべる。
あぁ、これはかなり怒っているな……と、その場にいるジョアンヌ以外の誰もが思っていた。
「お父様のお仕事なんて、やったこともないのに! わたくしにできるわけないじゃない!!」
「視察も始める前はそうでしたよね?」
「っ、それは……っ! ニック、酷いわ!」
ジョアンヌが急にぽろぽろと涙を溢し始める。だけど、この場に彼女の涙に騙される者は一人もいない。唯一、第三騎士団の副団長が、後で味方しなかったことを責められそうだとハラハラしていた。
「言いたいことが以上であれば、この部屋から出ていただけますか? 今後、視察に同行しない貴女をこれ以上会議に参加させるわけにはいきませんので」
淡々と告げたニックがパンパンッと手を叩く。
すると、部屋の外に立っていた、第一騎士団の騎士が入ってきた。
「ジョアンヌ様を自室へお連れしてください。第三騎士団の副団長は、会議が終わるまで彼女の付き添いをお願いします」
その言葉には、会議が終わるまでジョアンヌを見張っているように、という意図が含まれていた。
第一騎士団の騎士と第三騎士団の副団長がジョアンヌに退出を促す。だが、彼女は「嫌よ。動かないわ」と頑なに出ていこうとしない。
「ジョアンヌ様、失礼いたします」
しびれを切らした騎士がジョアンヌの腕を掴んで副団長と共に扉の方へ力づくで誘導する。
「離しなさいっ! わたくしに逆らうなんて、許しませんわ!」
ジョアンヌは最後まで喚きながら部屋の外へと連れ出された。
徐々に静けさを取り戻した室内に、その場にいた全員が小さく息を漏らす。
「やっと静かになりましたね」
ニックの呟きにシャンテルは申し訳ない気持ちになる。
「皆さま、会議を中断させてしまって、申し訳ありません」
「シャンテル様が謝ることではありません」
「そうです。これは、ジョアンヌ様が招いた結果なのですから」
官僚たちが気遣うように声を掛けてくれる。
「話が脱線してしまいましたが、会議を続けましょう」
ニックが仕切り直して会議は再開された。そして、一通り議論を終えて会議も終盤に差し掛かる。
「では、他に何もなければ、これにて終了とします」
そういえば、依頼していたセレナルドとタールムの件はどうなったのかしら?
議題に上らなかったことを不思議に思ったシャンテルは、「あの」と手を上げる。
「この前、ニックにお願いしていた件はどうなったかしら?」
「その件については、このあとご説明させていただきます。申し訳ありませんが、シャンテル様は残っていただけますか?」
「分かったわ」
官僚たちが退出する中、シャンテルは部屋に残った。ニックの部下も四名ほど残っており、他の官僚たちが部屋を出たのを確認すると、ニックは「さて」と声を上げる。
「シャンテル様から先行調査をお願いされていた件に関して、途中経過をお伝えします」
そう話を切り出すと、彼は詳細を語り始めた。




