87 視察の報告会会議
今回はお堅い(?)会議中のお話です!
「これより、会議を始めます」
そんなニックの一声で室内に少しの緊張感が生まれた。
会議にはルベリオ王国の官僚たちとジョアンヌ、それから、視察に参加した騎士の代表としてカールと第三騎士団の副団長が参加していた。
視察の参加者の報告書は事前に共有されている。そのため、それぞれの報告書をまとめた資料を基に会議は進んだ。
まずは、国費を費やした日照りや干ばつ対策と被災地の復興具合の報告が行われた。
「前回の視察に引き続き、日照りの被害はほぼ確認されていません。干ばつに関しても、用水路がしっかり機能しているようです。雨量も安定していることから危険は完全に去ったと考えられます」
視察に参加していた官僚の一人が各々の報告書をまとめた資料を読み上げていく。
「では、国による視察は今回で終了し、来年からは該当地域の領主に管理を任せるということで異論はありませんか」
ニックの問い掛けに異論を唱えるものはいない。
「では次です」
その後も会議は順調に進み、貧民に関する報告へ突入する。今回の視察でも裏路地に座り込んでいた貧困者や孤児に声を掛けて、受け入れてくれる施設を紹介したこと。その際、どの町でも前回と比べて声を掛けた人数が多かったことが報告された。
それは、町ごとに規模は異なるものの、貧民が増えていることを指している。
「このまま単純に保護を続けても根本は解決しない」
「貧民を減らす対策を講じなければ、いずれ孤児院や教会が人で溢れてしまいます」
「増税後に貧民が増加しているんだ。いっそ税金を元に戻すのはどうだ?」
「国防費確保のために、引き上げを検討するよう各領主に呼び掛けたのですぞ。税収から納められる国費の財源確保はどうするのです?」
「増税前も貧民は増加傾向だったんだ。減税だけで劇的な変化が見られるとは考えにくいのではないか?」
次々繰り出される官僚たちの意見に、シャンテルは「私もそう思います」と頷く。
「仮に各領主に『もう増税の必要はない』と宣言したとしても、どのタイミングでどれだけ引き下げるかは各領主の采配に委ねられています。現行の税収を維持しようとする領主が殆どじゃないかしら」
「シャンテル様の仰る通りです。各領主の采配に委ねられている限り、あまり効果は期待できないでしょう」
ニックがそう言うと、他の官僚たちも頷いた。
「税収を調整するのではなく、何か仕組みを作るのはどうかしら?」
「仕組みですか?」
「えぇ。例えば今は教会にお任せしてしまっているけれど、国営で行き場のない方たちに住む場所を提供したり、仕事を紹介するのはどうかしら?」
シャンテルが提案すると、官僚の一人が訝しげに顎に手を当てる。
「国営……それはそれで国のお金が必要ということですよね?」
声には出さなかったが、シャンテルは一瞬言葉に詰まった。
「例えですから、それにこだわる必要はありません」
「この件はすぐに良い案が浮かぶようなものでもないでしょう。各々、次に集まるまでに何か考えてきてください」
ニックがそう話をまとめた時、「そんなこと、考えるだけ無駄ではなくて?」とジョアンヌの声がした。
その一言で、ニックが彼女に視線を向ける。
「ジョアンヌ様は無駄と思われるのですか?」
「えぇ。国費が変わらず納められるのなら、貧民が少し増えるくらい仕方ないと割り切ればいいだけですわ」
国民の生活を蔑ろにする発言に場の空気が変わった。
会議に出席している全員の視線がジョアンヌに向けられる。だが、第二王女に下手な発言をすれば、どんな難癖をつけられるか分からず、殆どの官僚たちは黙り込んでいた。そんな中、ニックが口を開く。
「貧しい国民が増えれば我が国全体が貧しくなります。逆に、国民から貧民が減れば、我が国全体が豊かになっていくのですよ」
「そうかしら? わたくしは今の状況が増税前と変わったと感じたことがありませんわ」
それを聞いて、本気でそう思っているか確かめるため、シャンテルは質問をぶつける。
「ジョアンヌは視察で買い物をしていたでしょう? 物の値段が上がっているのを感じなかった?」
「いつも侍女が支払ってくれますから、値段なんて気にしたことがありませんわ。仮に値段が上がっていたとしても、大した額でありませんもの。そんなことで騒ぐなんて信じられませんわ」
「な……」
その発言に場がざわついた。
視察で買い物をする目的には、そういった変化を知ることも含まれているのだが、ジョアンヌは何も考えず、ただ欲しいものを買っていただけのようだ。
道理で彼女の報告書は稚拙なものになるわけだと、納得させられる。
今回の報告書も時間を掛けて提出した割には、婚約者候補と過ごしたことに関する内容が殆どだった。
「ジョアンヌ、今回の視察で貴女は一体何を見てきたの?」
「何って、勿論この国の街を見てきましたわ! 今回は婚約者候補の方々とご一緒でしたし、いつもより楽しい旅でした! あ、そうですわ!! 次回もどなたかお招きしましょう! きっと、とても楽しい旅になりますわ!!」
瞳を輝かせるジョアンヌに誰もが唖然として言葉を失った。
元々、ジョアンヌの視察は彼女が癇癪を起こさないために設けられたもので、彼女が城の外へ出ることを楽しみにしていたのも分かっていた。
それが視察で城下へ出て、買い物を楽しむためだったとしても、王女として国民の生活を目にすれば、彼女がこの国の現状に気付いていくのではないかという期待もあった。
だが、ジョアンヌがこれほど甘い考えで視察に臨んでいたことは、この場にいる者たちの想像をはるかに超えていた。
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