86 第一王女の憂鬱な事
お話の都合上、短めの回となります。
「────ル様、シャンテル様? シャンテル様っ」
呼び掛ける声にシャンテルはハッとする。
「シャンテル様、大丈夫ですか? 少し休まれた方がよろしいのでは?」
気が付くと、シャンテルの視界には心配そうに顔を覗き込むダレンが映っていた。
少し前から素振りをしていたはずだが、いつの間にか剣を振り下ろしたまま固まっている。隣で訓練していた彼がそれに気付いてくれたようだ。
訓練中にぼーっとするなんて、今まではなかったし、それはあってはいけない。最悪の場合、大怪我に繋がるからだ。
騎士たちはここ数日、シャンテルの元気がないことに気付いている。それが始まったのは、ジョセフにプロポーズされた少し後のため、理由にも検討は付いていた。
それでも、彼らは敢えてそれを口にせず、普段通りに過ごしている。
「……ごめんなさい。集中を切らしてしまったみたい。少し休ませてもらうわね」
シャンテルはそう断って小陰に入る。そして、第二騎士団の訓練をぼんやり眺めた。
シャンテルが訓練中に上の空になることは、今まではなかった。そのため、誰もが内心は彼女を心配していた。
シャンテル自身、みんなに気を遣わせてしまっている自覚があるため、申し訳なく感じる。だから、いつまでもこのままではいけない。
悩みの種であるジョセフとのことをなるべく早く解決する必要がある。
だけど、シャンテルは昨日今日で、ロルフとホルストからそれぞれお茶の誘いを受けていた。
以前までのように手紙一通で二人から誘われたわけではなく、今回は個別に手紙が送られてきた。つまり二人揃ってではなく、一対一のお茶会を希望していることになる。
ホルストは視察の終盤に、シャンテルを夕方の街に誘いに来てくれた。だが、エドマンドが強引に断ってしまい、それきりだ。
先にホルスト王子、ロルフ王子の順でお茶をして、その後にジョセフ様とのお約束を取り付けようかしら……
ホルスト王子は視察の時からお待たせしているようなものだし、彼を優先すべきよね?
そうやって、思考が憂鬱なことを後回しにしようとする。 だが、できるだけ早く話す機会を設けてほしいとジョセフは言っていた。
先にセオ国の王子たちを優先すれば、ジョセフは後回しにされたと思うだろう。それに、シャンテルは昨日から食事会も欠席しているため、避けていると思われているかもしれない。
いけない。休ませてもらっているとはいえ、訓練中にまた考え事なんて……ちゃんと集中しなきゃ!
今日はこの後、視察を終えての報告会会議もあるんだから切り替えないと!
会議ではニックに先行調査をお願いしていたセレナルドとタールムの街の件について、何か報告があるだろう。
視察後の会議はいつもなら帰城後、一週間程で行われるが、国王とアンジェラの婚約式があったため、婚約式の翌々日に設定されていた。だが、ジョアンヌの報告書の提出が遅れていたことで、その予定が更に延長になっているのだ。
いつまでもぼうっとしてはいられないため、シャンテルは一度大きく息を吸う。
そうして気持ちを切り替えると、訓練に戻った。




