85 第一王女の中での評価
「シャンテル様! どうか、もう一度私の話を聞いてください!!」
シャンテルを見つけて駆けてきたジョセフは、微かに息を切らしていた。従者を振り切ってきたのか、それとも黙って出てきたのか。彼の側には誰も付いていない。
必死な様子のジョセフは、とても冷静には見えなかった。
そんな彼をエドマンドとカールが警戒する。エドマンドは前に出ると、それ以上シャンテルに近付けないように立ち塞がった。
「エドマンド皇子、そこを通してください! シャンテル様に話があるのです!」
「悪いが、それは聞けない。今の公子は冷静さを欠いている」
「っ!」
エドマンドは冷ややかな視線をジョセフに送る。途端に彼の表情に悔しさと苛立ちが滲んだ。
「ジョセフ様」
シャンテルが名前を呼ぶと、彼と視線が合う。
「気持ちが落ち着いた頃に改めてご都合を教えてくださるよう、従者を通してお伝えしているはずです」
「はい。そのように聞いています。先日は取り乱してしまいましたが、もう問題ありません。ですから、今からお話しませんか!?」
何故かは分からないが、急な提案をしてくるほどジョセフは焦っているようだ。この場にいる誰もがそれを感じていた。
それでも、シャンテルは数日前の出来事が頭を過り、彼の申し出を了承することができなかった。
「申し訳ありませんが、お約束もなしに今からと仰られても、ご対応できません」
「歩きながらでも構いません!」
「ジョセフ公子、申し訳ありませんがシャンテル様は執務がありますので、日をお改めください」
食い気味のジョセフにカールが落ち着いた声で伝える。
「でしたら、近々お話しする場を設けていただけませんか? できるだけ早急に!」
そう言われては、受け入れるしかない。気は進まないが、シャンテルは渋々了承した。
「……では、検討してニックを通してお伝えします。ですので、この場は通していただけますか」
「分かりました。お返事をお待ちしています」
シャンテルの返事に満足したらしく、ジョセフはようやく道を開けた。
その後、自身の執務室にたどり着いたシャンテルは、先ほどまでの喧騒から解放されたことと、室内にカールしかいない安心感で机に座った途端、深い息が漏れた。
「お疲れのようですね。執務に取り掛かる前に少し休憩されてはいかがですか?」
普段見せないシャンテルの様子にカールが気遣うように尋ねる。
確かに、今の状態のまま書類に目を通しても集中できないだろう。
「そうねぇ……」
「部屋の外にはエドマンド皇子がいてくださっていることですし、侍女たちを呼んできますよ」
「……お願いしていいかしら?」
「勿論です」
シャンテルを気遣うように笑顔を見せたあと、カールが一度執務室から出た。暫くして戻ってくると、その少し後にサリーとアンナがティーセットを運んできてくれる。
「アンジェラ様とのお茶会の後ですから、紅茶ではなく落ち着くハーブティーをご用意しました」
「ありがとう」
二人の手によって、ささやかな量のクッキーと共にハーブティーが机に並べられる。
さっそくティーカップを持ち上げると、ふわっとハーブティーの香りが鼻腔を擽る。それだけで、シャンテルは詰まっていた息が軽くなった気がした。そのまま一口飲むと、ようやく身体から余計な力が抜ける。
少し休んだら、夕食まで頑張れそうだわ。だけど……
ジョセフに会うのが気まずい。
それどころか、苦手意識が芽生えてきて、シャンテルは彼に会うのを憂鬱に思い始めていた。
以前は、婚約者候補の中ではジョセフとセオ国の王子たちとの婚約を前向きに考えていた。
だけど今のシャンテルはそうではない。寧ろ、ジョセフを婚約者に望む気持ちはアルツールやエドマンドよりも後ろに下がっている。
駄目よ。まだ結論を出すのは早いわ。ジョセフ様の様子がおかしかったから、きっと彼には婚約を焦る事情があるのよ。
そう自分に言い聞かせるけれど、芽生えた感情がシャンテルの考えを邪魔するように、思考にちらついては気分を憂鬱にさせる。
いけない。せっかくサリーとアンナがハーブティーを用意してくれたのに。今はジョセフ様のことを考えるのは止めましょう。
シャンテルは再びハーブティーに口を付けると、憂鬱な気分ごと喉に流し込んだ。
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次回は7/10更新予定です。




