101 ロマーフ公国に要求すること
「よりによって、こんな重大なことを任されるなんて……」
「我々官僚一同がサポートいたします」
謁見の間から執務室に戻ったシャンテルが弱音を吐くと、ニックが頼もしい言葉を掛けてくれる。
「頼りにしているわ。宰相様は動いてくださらないだろうから」
そう、宰相がちゃんと仕事をしてくれていれば、今までもシャンテルがここまで苦労することはなかったはずだ。
「まぁ使節団との会談には同席してくださるそうですから、一応彼にも情報は共有しておきましょう。今回は珍しく口を挟む程には驚かれたようですし」
「そうね……」
私が王になったら、口だけ上手い今の宰相様は解任しましょう。
シャンテルはそう心に決めた。
それはさておき、ロマーフ公国から知らせが届くまでに、こちら側の要求を纏めなくてはいけない。
忙しくなる予感しかない。お陰でロルフやホルストとの個別の交流が更に伸びることが確定してしまった。
食事会の時に謝らなくちゃと思いながら、シャンテルは早速仕事に取りかかる。
まだ今日の書類は終わっていないが、横に避けて一旦見なかったことにする。そして、まっさらな紙を取り出すと、箇条書きで思い付くことを書き出してみることにした。
暫く頭を捻りながら書き出していると、まっさらだった紙は考え出した要望とそれに関するメモ書きで埋まっていた。
「……こんなところかしら?」
シャンテルは呟いて、書き出した一覧を眺める。
元々、ロマーフ公国は二百年前にルベリオ王国と同盟国の関係を保つことを条件に独立が認められた国だ。
それを理不尽な方法で一方的に脅かそうとしたとなると、ルベリオ王国としてはそれなりの制裁を求める必要がある。しかも、王族殺しを企んでいたのだから、かなり罪深い。
それでも、なるべく血は流したくない。
シャンテルの頭には大前提としてそれがあった。だけど、ロマーフ公を公国側が決めた幽閉のみで許すことは、国としては甘い判断だろう。
「……」
まだ、結論が出せないシャンテルは、他のことから考えることにした。
まず一つ目は、現公爵から次期公爵のジョナサン公子への継承だ。現公爵が幽閉されることが決まった以上、早急に次の公爵を決める必要がある。既に公国側が決めていることかもしれないが、ルベリオ王国としても代替わりは必須条件だった。
二つ目に、ロマーフ公国の大臣や官僚の入れ替え。これは、幽閉された現ロマーフ公に近い者や、彼に味方する者たちの入れ替えを目的にしている。ロマーフ公に再び権力を握らせないための措置だった。
基本的にはジョナサン公子の選別でいいとシャンテルは考えているが、ルベリオ王国が人選に問題はないか確認する形になるだろう。
三つ目に、ジョセフ公子の処遇だ。ジョナサン公子はジョセフ公子の身を案じていた。だが、王族殺しは未遂でも重罪に当たる。
計画は実行されてはいないが、加担していたジョセフの身柄はルベリオ王国が拘束している。
あの優しいジョセフのことだ。彼はロマーフ公に命令されて仕方なく手を貸そうとしていたにすぎないのだろう。だが、シャンテル以外の王族の命乞いをしなかったことを踏まえると、擁護するのは難しい。廃嫡はまず免れない。ジョナサンもそこは分かっているだろう。
今回の件を企てた人物をルベリオ王国の貴族や国民に置き換えるなら、間違いなく処刑になる。
身柄がこちらにあることも踏まえると、ルベリオ王国の法に則って処刑するのが自然な流れだろう。それに合わせると、ロマーフ公に関しても身柄を引き渡してもらって処刑するのが妥当だ。
残酷だけど、それがこの国の、この世界の常識だった。
一滴の血も流さない、というのは難しい。少なくとも、ロマーフ公を許すわけにいかないからだ。
シャンテルはこれまでのジョセフとのことを思い返す。
最近のシャンテルはジョセフが何を考えているか分からなくて、彼を怖いと思っていた。だが、それはロマーフ公との板挟みでジョセフが焦って行動に出たせいだと分かった。
それ以前は、視察中に一緒に出掛けたり、花束を貰ったり、一緒に庭園を回ったり、おしゃべりしたりとジョセフとの楽しかった思い出がたくさんある。
少なくとも、花畑に行ったあの日のシャンテルはジョセフを異性として意識した。
それくらいには、シャンテルもジョセフに心を許して接していたし、彼も楽しそうに見えた。
ジョセフはシャンテルを助けたいと思ったからこそ、命乞いをしたのだろう。
けれど、どうして私だけ助けようと思ったのかしら?
ふと、そんな疑問がシャンテルの頭を過った。それと同時にまだ彼にプロポーズの返事をしていないことも思い出す。
シャンテルがジョセフにプロポーズされた噂も、きっとこのまま終息するだろう。だけど、シャンテルはこのまま終わりにしてしまえば、この先ずっと心に小さなモヤモヤを残すような気がした。
「行かなきゃ……」
だけど、その前に今日の分の仕事を終わらせないとね。
シャンテルは書き出していた一覧を一旦片付けると、横に避けて後回しにしていた書類に手をつけ始めた。
◆◆◆◆◆
ちょうどその頃、社交界ではロマーフ公国が国の乗っ取りを企てていたことが早速噂されていた。
「ロマーフ公国のお話、聞きまして?」
「えぇ。もうビックリですわ!」
「何のお話ですの?」
話の輪に入っていた夫人の一人は興奮気味に頷き、何も知らないらしいもう一人は首を傾げている。
「お父様経由で耳にしましたの。ルベリオ王国を乗っ取る企てをされていたそうよ」
怖いですわねぇと、口々に言い合う。
そんな会話を耳にして興味を引かれた夫人が数名話の輪に加わった。そして、暫くすると別のグループでもその話題がなされ、ロマーフ公国の噂は確実に広がり始めていた。
いつもお読みくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、リアクション、など励みになっております!!
遂に100話目に到達しました。
これも読んでくださっている皆さまのお陰です。
こちらのお話はまだまだ続きますので、これからも応援よろしくお願いします!




