第七話:侍はファンクラブ?の成立に戸惑う
ミルレット侯爵令嬢とは「後日、改めた時間を……」と言ったはずなのだが、学園の授業が再開されると、彼女は何事もなかったかのように平然と俺へ接触してきた。
親しげに挨拶を交わしてきたかと思えば、なぜか俺の隣の席を陣取り、積極的に話しかけてくる。 俺は学園内では未だ『口数の少ない令嬢アンジェリカ』を演じているため、愛想笑い以外の返答ができん。
(……こやつはいったい何を考えておるのだ)
取り巻きの令嬢たちも、俺の隣にすっかり定位置のように居座るミルレット侯爵令嬢に対し、戸惑いと密かな嫉妬心を募らせているようだ。俺は内心で静かに溜め息を吐くと、再び彼女を連れて面談室へと移動した。 今度はマリーたち侍女陣も一緒だ。
「お主……何を考えておるのだ」
「ええ~? だって、生の明治維新の話とか超興味あるんだもん! もっとお話ししたい気持ちが抑えられなくて~」
「語尾を伸ばすな。お主、俺よりも年上だったはずだろう。なんだその体たらくは」
「うっ……そう言われると反論できないけどさ……でも好奇心が抑えられないの! 定期的に一緒にお茶してお話ししましょ?」
「お主は童かッ!」
はぁ〜。俺は思わず額を押さえて頭を抱えた。
「三十路を越えた女人の振る舞いとは思えんぞ」
「令和の時代はみんな長生きだから、精神的にも幼さが残ってるのよ~! ちゃんと仕事もしてたし、三十過ぎてからの出産だって普通なんだから」
「なんだと? 三十路を過ぎてからの出産など、命の危険があろうに……」
「そこが違うの! 三十過ぎの出産で命を落とす人なんてほぼゼロだし、平均寿命は85歳とかだよ? 100歳を超えて元気なおじいちゃん、おばあちゃんも山ほどいるんだから」
「なっ……!? 100歳だと!? そんな長生き……いや待て、いまはそんな話をしておらん!」
「私はそういう雑談も含めて、アンジェリカとお話ししたいの!」
くそ……完全に理解不能な生き物と遭遇した気分だ。 この世界に降り立って以来、俺は初めて真底頭を抱えるハメになった。
「それにさ、私とおしゃべりしておけば、ゲームやシナリオの基礎知識が自然と頭に入るでしょ? 前提条件を楽しくすり合わせながら話そうよ」
「……」
こやつは本当にタチが悪い。 頭のタガが外れた童かと思えば、急にこちらの欲しい『一番の核心』を的確に突いてくる。
「……アンジェリカ様。お断りしても、この様子では永遠に付きまとわれるかと存じます。いっそ定期的にお茶会の機会を設けられた方が、かえって効率的かと」
マリーが半ば呆れ顔で助言すると、ミルレット侯爵家の侍女も諦め顔で頷き、後に続いた。
「我が家のお嬢様は、一度こうと言い出したら絶対に諦めません。しつこく何度も何度も押しかけ、最終的に相手が折れるまでやり通すのが常でございます……」
それを聞き、俺は目の前のミルレット侯爵令嬢を睨みつけた。ヘラヘラと無邪気に微笑んでいる顔が無性にイラッとする。
「……お主、前世の出自については隠しておったのではなかったのか?」
「え? アンジェリカ様が『家族に伝えるのが常識』って言ってたから、一昨日の夜、お父様とお母様と侍女たちに言っちゃった!」
(かるッ!!)
「……思い切りの良い方でございますね」とマリーが引きつった笑みを見せると、相手の侍女が「単なる猪(単細胞)なだけでございます」と即座に切り捨てる。 普段からこんな調子らしい。侍女殿の筆舌に尽くしがたい苦労が忍ばれるようだ。
俺は観念し、ここで腹を括って手の内を晒すことにした。 道理の通じぬ愚者も厄介だが、こうした『地頭の良いバカ(欲望に忠実な猪)』こそが最も手強いのだと、俺は前世の経験から嫌というほど知っているのだ。
公爵家に伝令を出し、ミルレット侯爵令嬢との交流を公式に始めることとなった。
だが、アンジェリカ殿にかけられた『呪い』の件については、まだ外部へ明かすわけにはいかん。
しかし、何の脈絡もなく公爵家とミルレット侯爵家が急速に接近すれば、周囲からは「巨大派閥同士が手を組んだ」と映り、社交界や王家に予期せぬ警戒感を与えてしまう恐れがあった。
マリーや取り巻きの令嬢たちからもその懸念を指摘され、俺が腕組みをして思考を巡らせていたところ――あの天然娘が、またニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「ねえアンジェリカ。あなた前世は侍だったのよね? お家ではヒラヒラしたドレスなんて着てないでしょ? それに毎日剣術の稽古もしてるよね?」
(……こやつ、また妙なことを思いつきおったな。そして指摘がいちいち芯を食っておるのが妙に腹立たしい)
「……『だった』とは何だ。俺は今でも一人の武士だ」
「ふふん。軍務派閥のトップである我が家が、公爵家と仲を深める大義名分なら簡単よ。――両家の騎士を集めて『公開模擬戦』を開催しましょう! お付き合いのある貴族たちもたくさん招いてね!」
『「「それは名案ですわ!!」」』
取り巻きの令嬢三人衆が、待ち望んでいたと言わんばかりに揃って歓声を上げた。
「は? なぜそうなる?」
「いえ、アンジェリカ様、これは実に見事な名案でございます。ミルレット騎士団は王国屈指の腕利き揃い。そして、そこでアンジェリカ様の圧倒的な剣技と、その凛々しいお姿を披露したならば……」
なんとマリーまでもが、目を爛々と輝かせて同意しているではないか。
「そう! ファンにはたまらない最高のご褒美イベントよ! 観戦に訪れたご令嬢たちなんて、一発でアンジェリカ様の虜になっちゃうんだから!」
天然娘が興奮気味に拳を握り締め、天高く突き上げた。
「『アンジェリカ様ファンクラブ』の誕生よ! 学園どころか社交界でも最大派閥になること間違いなし!」
……ファンクラブ……? 最大派閥……??
俺の頭の上に巨大な疑問符が浮かぶ。
「会場の手配とお食事のご準備は、我がミルレット侯爵家にお任せくださいませ。公爵家への事前の打診と報告につきましても、こちらで速やかに進めさせていただきます」
……おい待て、ミルレット侯爵家の侍女殿。お前まで一緒になってノリノリで取り仕切るな。
こうして、俺の理解の及ばん領域で女衆が恐ろしい熱量で盛り上がり、予定よりも大幅に時期を早めた『学園・社交界への大規模攻勢』が仕掛けられる羽目となったのだった。
敵が勝手に減り、味方が増えるのは兵法として悪くないのだが……。
どうにも、己の知らぬところで外堀が完璧に埋められていくやるせなさが拭えん俺であった。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




