表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の中身の侍はシナリオを斬る  作者: あらたまのみこと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/26

第八話:侍は交流戦で実力を見せる

秋も深まり、季節が冬へと向かう肌寒い時期――。

エバーランド公爵家とミルレット侯爵家による『両家合同・騎士交流会』が、盛大に催されることとなった。

折しも社交シーズンと重なったこともあり、公爵閣下と侯爵閣下の呼びかけによって高位貴族から騎士関係者まで名だたる面々が顔を揃えることとなった。この交流会は今期の社交界において「国王陛下主催の夜会」に次ぐ、最大の規模の催しとなっているらしい。


そして俺はというと――両家の侍女たち数十人に完全包囲され、髪の先から衣装の皺一つに至るまで、徹底的に身だしなみを整えられていた。


「……ダメ、尊すぎて鼻血が出そう……!」


「耐えなさい! 本番はこれからよ!」


「ああ……もう死んでもいいわ……」


「神は……神はこの地に降臨しておられたのですね……!」


「絵師! 早く、早くそのお姿をキャンバスに収めなさい!」


「複写を! 複写の予約をお願いしますわ!」


「私も!」「私もよ!」「私は二枚お願いします!」「ずるい、ずるいですわ!」


控え室に飛び交う黄色い悲鳴と熱狂の嵐に、俺はあまりのかしましさに意識が遠のきそうになりながら、


(……武家の奥方様や姫様方も、お召しかえの折にはこのような筆舌に尽くしがたい思いをしておられたのだろうか……)


と、なかば遠い目をして現実逃避を決め込んでいたのだった。


やがてようやく支度が整い、マリーの案内で会場へと向かう。

本日のメインである模擬戦は野外の訓練場で行われるが、まずは『主役のお披露目』とやらを行うため、貴族たちは大広間に集まって歓談しているのだという。

重厚な大扉の前に立つと、司会を務める従者の朗々とした声が室内に響き渡った。


『――本日の主役、アンジェリカ様のご入室です!』


合図とともに扉が左右に開かれ、俺は堂々とした足取りで室内へと足を踏み入れた。


「……まあ……ッ」


誰かが漏らした小さく繊細な息を呑む音が、部屋中にくっきりと響き渡る。

先ほどまで無数の歓談とグラスの音で賑わっていた大広間が、まるで時が止まったかのように一瞬で静まり返ったのだった。


俺が身に纏うのは、余計な装飾を削ぎ落とした紺青の立襟上衣と、黒の細身ズボン。ドレスの装飾を排し、肩から足元まで完璧な動きやすさを追求した機能美あふれる仕立てだ。

胸元の革ベルトや襟元の繊細な銀糸刺繍が公爵家の気品を保ちつつ、腰元には装飾を省いた実戦用の剣が斜めに深く挿されている。


機能美を極めた男装と武士の凛とした佇まい、そしてアンジェリカ本来の美貌が融合したその姿は、見る者すべての心を一瞬で撃ち抜いていた。

静まり返る大広間を見回し、俺は鋭い眼光のまま、朗々と音声を響かせた。


「本日の剣術交流会の主役を務めさせてもらう、アンジェリカだ。この場には、後の模擬戦に参加する者もおろう。――だが、女だからと舐めてかかれば痛い目を見ると心得よ。恥をかきたくなければ、全力をもって挑まれよ」


俺は居並ぶ貴族たちに向かい、堂々と挨拶を言い放つ。

そうだ、もはや無口で弱々しい『令嬢アンジェリカ』を演じる必要などどこにもない。


「ほう……言ってくれるではないか、アンジェリカ嬢」


前に進み出たのは、ミルレット侯爵本人だった。


(ほう……軍務の頂点に立つだけあって、実戦の匂いを含んだ良い気配を纏う御仁だ)


「ははは! 生意気な小娘だと高を括っていると、手痛い目に遭うぞ侯爵。アンジェリカは我が公爵家一の腕前だ。騎士団全員でかかってもあしらわれるほどでな」


公爵閣下が誇らしげに間に割って入る。


「それは……さすがに買い被りが過ぎるのでは……?」


笑い飛ばそうとした侯爵だったが、俺の眼光と一切の隙がない立ち姿を改めて視界に収めると、ただならぬ気配を感じ取ったのか、急に言葉を濁した。


「真偽のほどは、実戦を見ればすぐに明らかになりましょう。せいぜいお楽しみくだされ」


俺は不敵な笑みを侯爵へ向けて告げた。


「……なるほど。これは大いに楽しみだ」


こうして両陣営の頭目から『確かな強者』として認識された俺は、短時間のご歓談を終え、屋外の演習場へと足を進めた。

演習場には立派な観覧席が設けられ、貴族やその従者たちが腰を下ろし、ミルレット侯爵家の供する豪勢な料理に舌鼓を打っている。ワインは公爵家から提供された極上品らしく、すでにいい心地で出来上がっている御仁も散見された。


公爵家と侯爵家の平騎士たちによる前座の模擬戦はすでに終了しており、いよいよ本日の真打――俺の出番となる。


対戦相手は両家から選り抜かれた精鋭騎士五名。 公爵家からは、俺の地獄の稽古を生き抜いた騎士団長と副騎士団長。 侯爵家からは、騎士団長と二名の副騎士団長だ。

俺が演習場の中央へ足を踏み入れると、大広間の再現のように場内が一瞬で静まり返った。 先ほどと違うのは、互いに立ち昇らせるピリッとした闘気が空気を緊張させている点だ。 だが、俺が堂々と歩を進めると、観覧席の令嬢たちが頬を朱に染めながら熱い視線を投げかけてきて、妙に熱量の高い雰囲気が広がっていく。


「……お待たせした」


すでに待機していた騎士たちへ声をかける。 公爵家の騎士団長が俺の隣へ歩み寄り、ミルレット騎士団の面々へ朗々と自己紹介した。


「我が公爵家の長女にして、当代無双の剣術の遣い手――アンジェリカ様だ。決して女と侮るなよ? 我ら公爵家騎士団は、このお方に徹底的に叩きのめされ、鍛え直されたのだからな」


うむ、あの夏休みの間に容赦なく揉んでやった甲斐があり、この騎士団長は実戦の剣術を身につけて格段に強くなっている。元より素養のあった男だ、成長も著しい。


「……ならば気合を入れねばな。先ほどのお言葉、しかと聞き及んでおります。手加減なしで参らせていただく! マクベ副騎士団長、先鋒を務めよ!」


「はっ!」


前へ出たのは年若い青年だった。若手の筆頭といったところだろう。 観客たちも俺の模擬戦が始まると知り、演習場の周囲を埋め尽くすように集まってきた。なんとも派手な大催しになったものだ。

立会人を務めるのは、なんとミルレット侯爵閣下その人であった。


「これより、アンジェリカ嬢と両家精鋭騎士五名による連続模擬戦を執り行う! ……一見すれば舐め切った対戦形式だが、これぞ貴族令嬢の望みに他ならん。口先だけでないことを見せてもらうぞ!」


はは、愉快な御仁だ。確かに傍から見れば無謀な舐たように見えるだろうが――決してそうではないことを、いまからその目に焼き付けていただこう。


「――双方、構え!」


侯爵閣下が手を挙げる。俺と若き副騎士団長が木剣を中段に構えた。


「……はじめッ!」


合図と同時に、副騎士団長は一気に間合いを詰めてきた。 なるほど、最初から俺の出方を封じるよう打ち合わせていたな。並の相手なら意表を突かれたやもしれんが……甘い。


相手が剣を振りかぶった絶妙の瞬間、俺はすっと重心を落として懐へ滑り込み、すれ違いざまに横凪で脇腹を打った。 木刀とはいえ、体重の乗った一撃を肋骨の隙間に叩き込まれ、若い副騎士団長は息を詰まらせてガクりと膝を折った。


「さ、それまでッ!!」


侯爵閣下が驚愕のあまり目を見開いたまま、仕合の終了を告げる。 一拍の静寂の後、地鳴りのような歓声と拍手が爆発した。


『アンジェリカ様ーーッ! 素敵ですわーーッ!!』


アナスタシアや取り巻きの令嬢たち、そして両家の侍女軍団から黄色い悲鳴が届く。 観客席からも「なんという速さだ」「あれが本当にアンジェリカ様か!?」「お美しい……そして強い!」と、驚嘆と賛美の声が飛び交った。

俺は倒れた青年に手を差し伸べる。


「衝撃を逃がして軽く当てただけだ。骨まではいっておらんと思うが、立てるか?」


「あ……はい、問題ありません……! 完敗でございます」


手を取って立ち上がらせ、礼を交わして一戦目が終わる。


二戦目は公爵家の副団長。日頃から稽古で揉んでやっているため、俺の反撃を恐れて易々と攻めてこない。俺は左右へステップを踏んで意識を散らし、上段からの大振りを見せかけると、ガードを上げた瞬間に軌道を滑らかに変え、小手を打って剣を弾き飛ばした。


三戦目は侯爵家のベテラン副団長。真っ向勝負を挑んできたが、一撃離脱の前後の揺さぶりで崩し、一瞬の隙を突いて足を払い、地べたへ転がしてやった。


『キャーッ! あの勝ち誇ったドヤ顔のアンジェリカ様、最高に尊いですわーッ!』


天然娘が何か叫んでいるが無視だ、無視。

立て続けに精鋭三名を子供扱いしてあしらう姿に、会場全体が絶句し、もはや言葉もない雰囲気に包まれていた。


四戦目は、公爵家の騎士団長。こやつは夏の稽古でかなり腕を上げている、油断はできん。


「……胸をお借りします」


最初に対戦した時と同じ言葉を口にする。だが、今回は本気で勝ちにくる眼光だ。実に結構。

お互いにじりじりと間合いを計る、静かな立ち上がり。円を描くように位置を変え、俺は構えを中段から『脇構え』に変え、半身に切って剣を後ろへ隠した。


騎士団長が一瞬「何の構えだ?」と困惑した、その隙。 俺は前傾姿勢で爆発的に踏み込んだ。急接近する俺に対し、騎士団長は咄嗟に中段から剣を振り下ろす。だが、初手の一歩で軌道をわずかに横へずらしていた俺は、頭上を通過する剛剣の横をすり抜け、下から斜め上への逆袈裟で胸元を擦り上げた。


「……お見事」


「うむ、良い間合いであったぞ」


「そ、それまでッ!」


侯爵閣下が手を挙げ、仕合の終わりを告げる。 騎士団とて誇りがある。だが、精鋭四名が完敗した今、圧倒的な武の領域を見せつけられた彼らの瞳に宿るのは、屈辱ではなく『絶対的な畏怖』であった。


「さて……お主が最後だな」


俺は最後の相手、ミルレット侯爵家の騎士団長と向き合う。


「凄まじい剣術を見せていただきました。ですが我らにも武門の矜持がある。王国の軍務を預かる騎士団の長として、全身全霊でお相手仕る!」


「それでこそだ。参られよ」


最終戦が始まる。 が……ふと、俺の中に小さな悪戯心が芽生えてしまった。 こやつの実力は公爵家の団長と同等。であれば、同じ戦い方では能がない。


「――はじめッ!」


合図とともに、俺はスッとその場に膝をつき、鞘に見立てた左手の脇へ剣を収める動作(居合の構え)を取った。 相手が「舐められたか!?」と一歩踏み込んできた――その瞬間。

鋭い一閃が走り、気がついた時には、俺の木剣の先が騎士団長の喉元を寸分違わず捉えていた。


「……ッ!? ……参り、ました。私の負けです……」


騎士団長が敗北を認めた瞬間、演習場は割れんばかりの大歓声と興奮の坩堝へと化した!


「最後のは一体何だ!?」「剣筋が全く見えなかったぞ!」「五人抜き……! 一つも攻撃を寄せ付けなかった!」「神々しすぎる……!」「おい、すぐに釣書を送れ!」「バカ言え、うちは娘しかおらん!」「もはや性別などどうでもいいだろッ!」


男たちが大騒ぎする一方で、観覧席の女衆はというと――。


「大変! お嬢様が尊さのあまり気絶されたわ!」「こっちの令嬢もよ! 誰か気付け薬を!」「涙でせっかくのお化粧が……っ」「ドレスルームへご案内して!」「鼻血が……ハンカチじゃ止まりませんわ!」「上を向いて! 落ち着いて息を吐いて!」


……なぜか演習場の一角が『野戦病棟』のような有様を呈していた。


「いやはや参りました! 手も足も出ないとはこのことですな!」

侯爵家の騎士団長が、爽やかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。


「最後の技はいったい何なのですか? 踏み込んだ瞬間、すでに喉元に剣がありました」 「そうそれだ! 横で見ていた私にも剣筋が見えんかったぞ!」


侯爵閣下まで興奮冷めやらぬ様子で駆け寄ってきた。負けた騎士たちも集まり、種明かしを欲しがっている。


「『居合いあい』という技でな。剣を体で隠すことで相手に間合いを誤認させる。腰の捻り、腕の振り、手首の返しを一致させて抜刀速度を極限まで引き上げ、相手が間合いに入った刹那に斬り落とすのだ」


おお……と騎士たちが感嘆のどよめきを上げる。


「我が国の剣術には存在せぬ理だ……いったいどこの流派なのだ!?」


侯爵閣下が身を乗り出して詳しく食い下がってきたが、公爵閣下がパンパンと手を叩いて間に入ってくれた。


「そこまでにしてもらいましょうか、侯爵。我が娘の奥義をそう簡単に探られては困りますな」


「つれないことを言わないでください公爵閣下! これも交流会ではありませんか! ぜひ朝まで語り明かそうではありませんか!」


「そうですわお父様! ぜひとも末永ーーくお付き合いしましょう!」


……出たな、天然娘。そして侯爵閣下も「うむうむ!」と満足そうに頷くな。まったく似たもの親子だな。

俺と公爵閣下は顔を見合わせ、呆れ混じりの苦笑いを交わしたのだった。

こうして、ミルレット侯爵家との合同交流会は、大盛況と一部の騒乱のうちに幕を閉じたのだった。


評価・レビュー等は受け付けておりますが、返信できない場合が多いので、ご承知おきくださいmm


----

AI利用状況設定については、設定にて「補助的利用(アイデア出し・資料調査・誤字脱字のスペルチェックなど、補助的な利用)」にチェックして投稿しています。

補助的利用については、「この設定は公開されません。※ただし、コンテストに参加されている場合や、商業化等で作品へのお問い合わせがあった場合など、関係する企業に伝達することがあります」

とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。

----

本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。

基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ