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悪役令嬢の中身の侍はシナリオを斬る  作者: あらたまのみこと


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第四話:侍は王妃とのお茶会で陰謀に対応す

離宮で行われる王妃殿下主催のお茶会ともなれば、それ相応の準備を整えねばならぬという。

しかし、俺は内心不満たらたらであった。


(……おいおい、公爵閣下からの婚約者候補の辞退はどうなっているのだ。そもそも辞退する身なのだから、無駄に気合を入れて着飾る必要などなかろうに)


と、何気なく口にしてしまったのが運の尽きであった。

途端にマリーどころか、公爵邸の侍女たちが一斉に目を三角にして俺を詰め寄ってきたのだ。


「そもそも、榊原様はお嬢様のお姿を些か蔑ろにしすぎておられます!」


「左様です! 王妃殿下主催のお茶会に、みっともない格好で参加させるなど断じてあり得ません!」


「これまで『お嬢様を可愛らしく着飾りたい』という私たちの楽しみをことごとく奪っておきながら、そのご発言は絶対に許せませんわ!」


口々に責め立てられ、俺は呆然と両手を挙げた。……降参だ。

幾多の修羅場を潜り抜けてきた俺だが、理性を投げ打って結束した女たちの前では、男に勝ち目など万に一つもないことくらい重々知っている。


――まあ、言われてみれば俺自身はまるで頓着していなかったが、アンジェリカ殿の容姿というのは客観的に見ても相当なものだ。

光を弾くプラチナブロンドの艶やかな長い髪に、引き込まれそうな深い泉のごとき紺の瞳。やや切れ長ではあるが、凛とした気品が漂う極上の美貌である。


それを当の俺といえば、公爵邸にいる間はお化粧の類を一切拒否し、自慢の長い髪は邪魔だからと後ろで大雑把に一纏めに縛り、動きやすい乗馬服のようなズボン姿で悠々と過ごしていたのだ。

侍女たちにしてみれば、宝の持ち腐れどころか焦燥とフラストレーションが限界まで溜まっていたのだろう。今回のお茶会の招待状が、彼女たちの導火線に火をつけて爆発してしまったらしい。


「……分かった、好きにしろ」


腹をくくった俺の一言に、侍女たちが「着せ替え人形(公爵令嬢)を完璧に仕上げる」べく、爛々と目を輝かせて群がってきたのだった。


そうして出来上がったのは――

普段は大雑把に後ろで縛っていたプラチナブロンドの長い髪が丁寧に梳き上げられ、絹のような艶を放ちながらゆるやかなウェーブを描いて背へと流れる姿であった。サイドの髪は優美に編み込まれ、公爵家の紋章を模した銀とサファイアの小ぶりな髪飾りが静かに輝いている。


化粧は派手すぎず、素肌の美しさを際立たせる透き通るような白磁の仕上がりだ。凛とした切れ長の目元にはうっすらと藍色の輪郭が引き立てられ、俺(侍)の持つ「目力の強さ」が、恐怖ではなく「高貴な気品」へと見事に見立て変えられていた。


身に纏うのは、アンジェリカ殿の瞳と同じインディゴブルーを基調とした、離宮のお茶会にふさわしい最高級シルクのドレス。

胸元から袖にかけては繊細な白銀のレースと銀糸の刺繍が施されており、派手な装飾を削ぎ落とした洗練されたデザインが、かえって立ち姿の美しさを際立たせている。スカートの裾は優美なラインを描いて広がり、一歩踏み出すたびに重厚で上品な陰影を生み出していた。


侍女たちは「どうだ参ったか」と言わんばかりの、満足そうな瞳で俺を見てくる。


「……うーむ、重い。そして息が苦しい」


「大変お美しゅうございます、お嬢様!」


「……美しいのはわかる。お主らの見事なお手前だというのも認める。……だが、この『コルセット』とやらはいらぬ。これではいざという時に身動きが取れん」


「そんな! コルセットは淑女の嗜みでございますわ!」


侍女が抗議の声を上げるが、俺は静かに、だが鋭い眼光で彼女たちを見据えた。


「そうかもしれんが、アンジェリカの使命を忘れてはならん。万が一、離宮で何かが起きた時、俺が動けなければ意味がないのだ。……『嗜み』のために命を落とすなど、本末転倒であってはならん」


俺の重々しい一言に、はしゃいでいた侍女たちの気持ちが一瞬で冷め、ハッと息を呑んだ。

彼女たちは思い出したのだ。この可憐なお嬢様の中身は、公爵家と自らを守るための圧倒的な『覚悟』を秘めた人物であることを。


「――そもそも、俺が日頃から鍛え上げたこの身体だ。コルセットなどで無理に締め上げる必要など最初からなかろう」


「「「は、はい……っ!」」」


そうして、俺たちはコルセットを外し、動きやすさを確保した上でドレスを着替え直したのであった。



時はすぐさま過ぎ去り、ついにお茶会当日となった。

案内されるがまま離宮の庭園に足を踏み入れた俺は、この国に来て何度目かになる驚きと呆れを覚えていた。


(……この国の財力は、日ノ本(幕府)を大きく凌駕しておるのか? それとも単なる浪費家か?)


無駄にだだっ広い土地、そしてそれを維持するためだけに注ぎ込まれる莫大な維持費。あからさまに無駄な場所へ金を投じ、権力を威圧するように見せつけるこのやり口……。


かつて歴史書で読んだ、太閤殿(豊臣秀吉)の豪華絢爛なやりようを思い出さずにはいられない。

広大すぎる庭園の奥深くへと案内されると、一本の見事な大樫の木の下に、ぽつんとちんまりテーブルと椅子が置かれていた。


(……ふむ、『侘び寂び』などという奥ゆかしい言葉は、この国では生涯流行ることもあるまいな)


その贅を尽くしたテーブルには、すでに王妃殿下と、着飾った三人の令嬢が腰掛けていた。

どうやら俺が最後の客だったらしい。


「遅れてしまいましたようで、大変申し訳ございません。エバーランド公爵家が娘、アンジェリカにございます」


俺は深く静かに頭を下げ、完璧な所作で美しいカーテシーを披露して謝罪を口にした。

視線はまっすぐ足元へ落とし、主の許しを待つ。


「まあ、アンジェリカ様。王妃殿下をお待たせするなど、あまりに失礼ではございませんこと?」


その時、同席していた令嬢の誰かから、待ってましたとばかりに甲高い非難の声が浴びせられた。


「……」


「っ……聞いていらっしゃいますの!?」


「……」


「なっ……ちょっと!」


女は俺に完全に無視されたと思い込み、キーキーと声を荒らげて騒ぎ立てるが――浅はかな奴め。

まだ主である王妃殿下から、俺の謝罪に対する返事をいただいておらんのだ。

これはこの国でも日ノ本でも同じ道理。目上の者に(こうべ)を垂れた以上、主のお言葉を得るまで軽々しく(おもて)を上げることも、横から口を挟む雑魚に応じることも許されるはずがない。


騒ぎ立てた女の声が周囲に空虚に響き渡る。

だが俺は地を見つめたまま、微動だにせず許しの言葉を待ち続けた。


(……どういう意図かは知らんが、この沈黙は長すぎる。何か思うところがあるのかもしれんな)


理由はどうあれ、主である王妃殿下から許しが出ない以上、こちらから動くわけにはいかん。

だが、俺があまりにも微動だにせず平伏を続けるものだから、場には不自然な沈黙が落ちていた。

痺れを切らしたのか、虐めが失敗したと諦めたのか、王妃殿下が「許します」と返事をして、俺は頭を上げた。

赤髪の巻き髪の女が、ハッとした顔で居たので、己の失敗を悟ったのだろう。


「着席を」


と王妃殿下に言われ、俺は黙って席についた。

思惑が外れて白けてしまったのか、それともこれ以上引っ張るのは自らの威信に関わると判断したのか。

王妃殿下は深く息を吐くと、どこか冷ややかな声で告げた。


「……頭をお上げなさい。許します」


「は」


俺は静かに頭を上げた。

そこで初めて視線を正面へ戻すと、席についていた赤髪の華やかな縦巻き髪の女と目が合った。


女はハッとした顔で固まり、急速に顔色を失っていく。

主の許しも出ぬうちに勝手に騒ぎ立て、結果として王妃の面目を潰す不細工な振る舞いをしてしまったことに、俺の静かな視線を受けてようやく気づいたのだろう。


(……己の浅はかさを悟ったか。青いな)


心の中で冷ややかに評した俺だったが、ふと、王妃に視線を移すと、背筋に冷や汗が伝うような違和感を覚えた。王妃の俺を写す瞳には、俺を憎悪する感情がこもっていた。


「着席を」


王妃殿下のどこか不機嫌そうな声が響く。

俺は顔色一つ変えず無言で一礼すると、示された席へと腰を下ろしたのだった。

この茶会は、王太子の婚約者候補となる令嬢たちの『人となり』を、王妃殿下が直接見極めるために催されたものだそうだ。


王妃が順に令嬢たちへ質問を投げかけ、それに対して各々が答えていく形で進んでいく。

だが、王妃殿下は俺にだけは一切質問を振ってこない。見事なまでにスルーしている。


(……ふむ。もし公爵家が本気で王太子への嫁入りを狙っていたなら、これは実に効果的で嫌みな嫌がらせだな)


心の中でそう思いつつも、こちらとしては願ったり叶ったりであった。さっさと辞退したい身としては、余計な発言をして藪蛇になるのを防げるため、むしろ非常に助かっている。

こうして俺を除く全員がひと通り言葉を交わし終えた頃、給仕が新しい茶の注ぎ足しを持ってやってきた。


「こちらは、エバーランド公爵家より贈られた茶葉でございます」


そう口にしながら、給仕が俺のカップへと茶を注ごうとした――その瞬間。

俺は電光石火の手つきで、そいつの腕を固く掴み上げていた。


「なっ……! 何をなさるのです、アンジェリカ様!?」


突如として繰り出された武人のごとき動きに、王妃も令嬢たちも言葉を失い、あまりの事態に目を見開いている。

俺は給仕の腕を掴んだまま、冷徹な眼光でそいつを射抜いた。


「――私はこのお茶会に、茶など贈っておらん。公爵邸から茶を贈ったという報告も、一切受けておらんぞ」


「ひッ……! し、しかし、お屋敷の使用人の方がお持ちになったと……」


「尚更だ。公爵家の代表として参加している私の知らぬところでやり取りされた茶など、口にできるはずがなかろう」


俺の言葉に、給仕の顔から血の気が引いていく。

その直後――周囲の植え込みや給仕の影から、複数人が密かに動こうとする気配を感じた。

腹の底から練り上げた裂帛の気合とともに、俺は大音声で声を張り上げた。


「全員、動くではないッ!!」


庭園全体を揺るがすような怒号が響き渡る。


「今この瞬間に動いた者は、公爵家を(かた)りし罪人として即座に処理する!!」


腹の底から放たれた俺の気迫に呑まれ、周囲の給仕も護衛も、全員がその場で凍りついたように動きを止めた。


「まず問う。エバーランド家の使用人を騙ったのは誰だ。誰から聞いた」


「じ、侍女のマリアンヌ様から……」


「この場にそのマリアンヌはおるか? おらぬのであれば……そこの騎士。侍女のマリアンヌを連れて来い」


呆然と立ち尽くしていた騎士の一人は、俺に指名されたことでビクリと肩を跳ねさせ、戸惑いながら俺を見た。


「わ、私共は王妃殿下の護衛でして……」


その言葉を聞き、俺はゆっくりと王妃へ視線を向けた。


「王妃殿下。このように騎士は申しておりますが……私にご協力はいただけませんでしょうか」


「いったい、何を……」


語りかける最中、俺は王妃の微細な変化に気がついた。

先ほどまで俺に向けて投げつけられていた、あの刺さるような強烈な『憎悪』が……綺麗に消えているのだ。


(……これはもしや、女神の言っておった『呪い』と何か関係があるのかもしれぬな)


だが、いまは現実的な事態の収拾が先決だ。


「王妃殿下のお茶会において、参加者の家を騙り、当人の知らぬ茶が出されたのです。……もし、この茶に毒でも仕込まれていたらどうなりますか? 私が王妃殿下を毒殺しようとした極悪人に仕立て上げられるか、あるいは自身が飲んで倒れ『他者を排除しようとして無能にも失敗した』と世からそしられることになりましょう」


俺は王妃を見据え、揺るぎない信念を込めて告げた。


「これは我がエバーランド公爵家の名誉に関わる大事。……ぜひとも、ご協力をお願い申し上げます」


ここで王妃が協力を拒めば、王家の威信は地に落ちる。周囲には有力貴族の令嬢たちが揃っているのだ。彼女たちにとっても、この出来事は決して他人事ではない。

王妃を含め全員がグルであればお手上げだが……さて、どう出る。


「……そこの者。マリアンヌを連れてきなさい」


王妃が騎士へ命令を下した。どうやら、状況の危うさは正しく見えているようで何よりだ。

やがて、マリアンヌと思われる侍女の女が騎士に引き連れられて戻ってきた。


「そこの給仕が、お前から『エバーランド家から贈られた茶だ』と渡されたと聞いている」


突然引っ張り出され、張り詰めた空気の中で女は戸惑いながら答えた。


「は、はい……確かにお渡しいたしました」


「私はエバーランド公爵家のアンジェリカだが……我が家がそのような茶を贈ったなど、一切聞いておらんぞ」


「そんな! 私は確かに……」


「では誰に聞いた」


「こ、公爵家の従者の方に……」


「どのような従者だ。顔に見覚えはあるか? 髪の色は? 背丈は? どのような身なりをしていた!?」


俺が矢継ぎ早に質問をすると、王妃が止めに入った。


「おやめなさい! これではまるで尋問ではないですか! 私の侍女に勝手な真似を……!」


「勝手、でございますか?」


「少なくとも離宮は王家の管轄です!」


王妃の言葉を受け、俺はすっと追撃の手を引いた。だが、管轄を盾にするというのであれば、責任の所在をはっきりと告げてやらねばならん。


「……なるほど。では、王家の方で全責任を持っていただきましょう。我が家の名を騙り、王妃の茶会に主人の知らぬ茶を手配した不審人物。そして、それほど怪しげな品を軽々と通した離宮の警備の者たち、ひいてはそれらを管轄する管理者の方々に……後ほど詳細な報告と、正式な謝罪を頂戴いたしたく存じます」


「ア、アンジェリカ様! 正気でございますか!?」


同席していた別の令嬢が、驚愕のあまり悲鳴のような声を上げた。王家に責任と謝罪を要求するという俺の発言に対する動揺だろう。


「正気であるとも。……他人事のように言うが、もしこれを見過ごせば、お主たちとて『いつ、どこで、誰が持ち込んだかもわからぬ異物』を、知らずに口へ運ぶことを容認することになるのだぞ?」


俺に言われ、令嬢たちは顔を青くして固まり、言葉を失った。


「――では王妃殿下。私はこれにて失礼いたします。ご報告をお待ちしております」


一礼してみせると、俺は未練なく離宮を後にしたのだった。


(……さて。この件、一刻も早く公爵閣下と直接膝を突き合わせて話し合わねばならんな)


評価・レビュー等は受け付けておりますが、返信できない場合が多いので、ご承知おきくださいmm


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AI利用状況設定については、設定にて「補助的利用(アイデア出し・資料調査・誤字脱字のスペルチェックなど、補助的な利用)」にチェックして投稿しています。

補助的利用については、「この設定は公開されません。※ただし、コンテストに参加されている場合や、商業化等で作品へのお問い合わせがあった場合など、関係する企業に伝達することがあります」

とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。

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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。

基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。

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