二十二話:侍は王太子の暴挙を制圧する
「私の妃には、男爵令嬢であり、私の最愛であるカレン・フォン・アンダーソンこそが相応しい! ここにカレンを私の正式な婚約者とすることを宣言する!」
「「「お、おおっ……!」」」
王太子の取り巻きから弱々しい歓声が上がるも、会場の大部分を占める他の貴族たちは冷ややかな無言を貫いている。
「アンジェリカさん。婚約者候補の辞退がようやく認められて、本当によろしゅうございましたね」
アナスタシアが、俺の背後から語りかけるように声を張った。当然、王太子への嫌味と皮肉を込めた物言いである。妙に格式張った冷徹な響きに、こちらまで寒気を覚えそうだ。
「そうだな。たかが婚約者候補の辞退承認に半年もかかるとは、夢にも思わなんだぞ」
「これでわたくしも、晴れて王太子の婚約者候補という重責から外れましたわ。……ちょうど良い機会ですので、皆様にご報告いたしますね。アナスタシア・フォン・ミルレットは、婚約者候補を辞退したことに伴い、エバーランド公爵家へ嫁ぐことがすでに決定しております」
「「「な……なんだと!?」」」「まさか公爵家へ……!」「だとすると、王太子の言葉は……」
カレンを婚約者と宣言した時の冷ややかな静寂とは打って変わり、会場全体から驚愕とどよめきの声が沸き起こる。 続いてマリーベルも、扇の陰から優雅に宣言した。
「では、わたくしも……。マリーベル・フォン・ブルレアは、北部伯爵家へ嫁ぐことがすでに決まっておりますの」
さらにジョアンナが清々しい声で畳みかける。
「私におきましても、隣国の辺境伯家との正式な縁談が進んでおりますわ」
「なんと……!」「辞退の手続きも次の縁談も、すでに完了していたのか!?」「ではあの『権利剥奪』とは一体……?」
招待客である貴族たちが、王太子の威勢の良い『婚約者剥奪宣言』の滑稽さに気づき、ひそひそと困惑のざわめきを広げ始める。 自身の面目を丸潰された王太子は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「き、貴様ら勝手な妄言を吐くな!! 私は婚約者候補の権利をすべて剥奪し、王国からの『国外追放処分』を命じたのだぞ!? 勝手に国内で縁談を進めて逃げられると思うな!!」
その見苦しい怒号に対し、アナスタシアは至極冷静に、氷のように冷たい正論を言い返した。
「あら? これらの縁談はすべて、すでに正式に貴族議会を承認通過している決定事項ですけれど? 王太子閣下に、法的にこれを覆す否定材料がおありでして? ……それに、閣下の仰るその『国外追放処分』とやらは、果たして貴族議会の承認を通されておられるのですか? 国王陛下はご存知なのですか?」
……本当に、アナスタシアの口はよく回る。 (おいおい……俺ではなく、お前の方がよほど『悪役令嬢』らしく見えないか?)
容赦のない正論の口撃によって王太子の逃げ道を完全に塞ぎ、おそらく扇の陰で勝ち誇った「ドヤ顔」をしているであろうアナスタシアの姿が目に浮かび、俺は思わず口元を緩めて苦笑した。
その微笑みを見逃さず、追い詰められた王太子が俺を指さして叫んだ。
「な……何がおかしい!! アンジェリカッ!!!!」
アナスタシアに向けた苦笑がどうやら尺に障ったようで、王太子から青筋を立ててのお叱りが飛んできた。
「いやなに、婚約者候補の権利剥奪をようやっと認めていただき、感謝申し上げる。散々辞退の申し込みを出していたのでな、ようやく話が通じて助かりました。これで後ろの若い三人も新たな道へ進めるというもの。卒業生もまた新たな歩みを始め、今日は誠に目出度き日ですな」
せっかくの祝宴だ。俺は口元を歪め、大広間全体に響き渡る声で朗らかに笑い飛ばしてやった。
「貴様……! 私を馬鹿にしているのか!!」
激昂した王太子が血管を浮き上がらせて叫ぶ。――だが、その見苦しい甲高い悲鳴を瞬時に掻き消すほどの威圧と気迫を込め、俺は雷鳴の如く一喝を叩きつけた。
「――この愚か者めが!!!!!!」
ドスンッ、と空気を揺らす重圧。 俺がかつて幾多の修羅場で練り上げてきた本物の『気迫』が大広間に充満し、居並ぶ貴族たちの肌をビリビリと突き刺す。会場の誰もが息を呑み、言葉を失った。
俺は堂々と一歩前へ踏み出し、壇上の道化を見下ろすように冷徹な視線を浴びせる。
「この会場はそもそも、本日晴れて卒業する先輩方を心から祝い、送り出すための目出度き催しの場だ。そこに身勝手な婚約破棄だの、手続も経ぬ国外追放だの、天下の法度を弁えぬ妄言の数々……実に聞くに耐えん!」
俺は十手を秘めた腰元に静かに手を掛け、言葉を一音一音、重厚に叩き込んでいく。
「王には王の、貴族には貴族の、平民庶民にはそれぞれの守るべき『法』と『道』がある。先ほど貴様が口にした伝統とは、そうした法の遵守と人の道が含まれておるのだ。だというのに、貴様は己の狭隘な感情と私欲に任せ、公衆の面前で我らを断罪せしめんとした……!」
これだけは、この国の治安と秩序を預かる公爵家の者として、明確に突きつけておかねばならぬ。
俺の放った裂帛の気迫を正面から浴び、王太子は顔を真っ白に引きつらせたまま、金魚のように口をパクパクと開閉させるばかりで言葉が出てこない。
だがその時、王太子の側近であり、王国騎士団長の子息である男が一歩前へ躍り出た。
「貴様こそ、次期国王たる王太子殿下に向かって不敬であるぞ! この場にて成敗してくれる!!」
騎士団長子息は怒りに任せて腰の儀礼剣を抜刀し、俺めがけて一直線に突きかかってきた。 その大振りな突進を見届けると、俺は腰元からスラリと『ミスリル飾り十手』を抜き放ち、冷ややかに吐き捨てた。
「――この阿呆が」
頭上から振り下ろされた刃を、半歩だけ横へ滑るように交わす。 そのすれ違いざま、無防備に伸び切った男の後頭部めがけて、ミスリル十手の重厚な棒身を容赦なく叩き落とした。
ゴッ!
鈍い打撃音とともに、騎士団長子息は声もなく白目をむき、そのまま床へ無造作に崩れ落ちて倒れた。
手塩にかけた側近が一瞬で叩き伏せられた凄惨な光景を目の当たりにし、王太子はハッと我に返ると、狂乱したように悲鳴を張り上げた。
「は、反乱だ!! アンジェリカによる反乱だぁっ!! 者共であえ! アンジェリカを……あの化物を即刻討伐せよ!!!!」
やはりこうなったか。
「アナスタシア、皆を下がらせよ」
「はい」
珍しく茶々を入れず、アナスタシアは素早く周囲の生徒や令嬢たちを誘導して退避させた。このあたりの立ち回りは事前に打ち合わせていたこともあり、マリーベルやジョアンナたちも手際よく協力し、俺の周囲からは瞬く間に人の気配が消えた。
そこへ、四方から二人ずつ、計八名の近衛騎士が俺を包囲しようと距離を詰めてくる。 ――が、そう易々と意図通りの陣を組ませるつもりはない。
倒れている騎士団長子息の側にいた二人組が、転がる身内を避けようと足元に一瞬の迷いを生じさせた――その絶妙のタイミングで、こちらから間合いを詰める。
倒れた男の身体を軽やかに飛び越えると、すれ違いざまに一人目の右手首へミスリル十手を鋭く叩きつけ、小手を打って剣を叩き落とす。激痛に腕を庇った刹那の隙を見逃さず、鳩尾へ容赦ない突きを叩き込んだ。
倒れ込む一人目の沈下を確認することもなく、慌てて体制を直そうとした二人目の騎士へ肉薄。上段から躊躇なく十手を振り下ろし、肩口を叩いて鎖骨を砕く。
これで、まずは二人。
急ぎ包囲を縮めようとする残りの騎士たちだったが、すでに一角を崩されているため間合いの均等さが完全に瓦解している。
俺は即座に左側から斬りかかってきた三人目の懐へ潜り込み、柄元の鈎で相手の剣身を捕らえた。そのまま斜め下へと滑らせて刃を殺し、前傾姿勢に崩れた顎下へ、右肘の打ち下ろしを叩き込む。三人目が崩れ去る。
その倒れ込む体を遮蔽物(盾)として利用し、追撃をためらった四人目の胴へ十手の棒身を突き刺す。痛みに悶えて蹲ったところへ、後頭部へ正確な一撃を叩き叩き込んで気絶させた。
これで、早くも半数の四人が沈んだ。
残るは四人。 さすがに相手も無策ではなく、一旦間合いを取り直そうと足を引く。その瞬間――背後に不穏な熱気と気配を察知した。
壇上に控えていた王太子の側近――魔法省長官の子息が、無防備な俺の背中を狙って灼熱の火炎魔法を放ったのだ。
背後に迫る熱圧を肌で感じ取り、俺は即座に右側にいた五人目の騎士に向かって地を蹴った。
ドカァンッ!!
俺が直前までいた場所に火炎が炸裂し、炸裂音と爆風が皮肉にも騎士たちの連携を完全に阻害する形となった。
そのまま、困惑する五人目の剣筋を紙一重ですり抜け、横一文字に振るった十手で顎を狩る。 間髪入れずに躍りかかってきた六人目の剣を、十手の鍔と鈎で巧みに受け流して威力を殺すと、旋回するようにその背後へと回り込み、十手の棒身を首元に回して一気に締め上げた。
残り二人の騎士が武器を構えて対峙するが、締め上げられて肉の壁と化した同僚が邪魔になり、迂闊に剣を振ることができない。やがて膝から崩れ落ち、完全に力の抜けた六人目を放り捨てると、対立する騎士はついに最後のアディショナル二名のみとなった。
その時、再び壇上から激しい魔法の起動気配が立ち上る。 ――が、今度は俺が動くまでもなかった。
「――『氷陣』!」「――『風槌』!」「――『縛鎖』!」
アナスタシア、マリーベル、ジョアンナの三人が完璧な連携で詠唱を重ね、壇上で二撃目を構えていた魔法省長官の子息へ怒涛の攻撃を叩き込んだのだ。
「ぐわぁっ!?」と無様に倒れる側近の悲鳴。 その一瞬の余波と隙を、俺は見逃さなかった。
残された騎士二名の懐、その真ん中の死角へ跳躍。 お互いの間合いが近すぎて剣の振りが中途半端になったところを見切り、左側のスネへ十手の一撃を撃ち込む。激痛にバランスを崩した男が隣の騎士へと倒れ込み、体勢を立て直そうともがく右側の騎士の足首をすばやく掴むと、そのまま上方へ力任せに跳ね上げた。
二人の体が重なり合うようにして派手に床へ転がったところへ、間髪入れずに十手を叩きつけ、八人目の近衛を昏倒させた。
間髪入れず、最初に腹を突いて蹲っていた男と、鎖骨を割られて喘いでいた男の後頭部を順番に打突し、これで襲いかかってきた騎士たち全員を完全に沈め、制圧を完了した。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




