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悪役令嬢の中身の侍はシナリオを斬る  作者: あらたまのみこと


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第二十一話:侍は先輩方の卒業パーティーに参加する

課外実習における一連の虚飾と隠蔽については、後に貴族会議での紛糾にまで発展したと聞いている。


エバーランド公爵令嬢たる俺、ならびに公爵家寄子の貴族たち。王太子らと行動を共にしていたミルレット侯爵令嬢と派遣騎士、東側に配備されていた冒険者たち、さらには追撃してきたAランク冒険者パーティ――。 この膨大な関係者たちが「王家の公式発表は不徳な虚偽である」と口を揃えて証言したのだ。


その揺るぎない裏付けとして、東側キャンプ地に亜竜の巨体が確かに放置されていたこと。そして一撃のもとに頭蓋を粉砕されて死に至っており、それを成したのが公爵令嬢アンジェリカであるという複数の目撃証言。さらには討伐現場に他の大規模な戦闘痕跡が存在しないことから、冒険者ギルド側も「証言内容に相違なし」との正式な見解を提出した。


これに対し貴族議会から信を問われた王家であったが、その対応は一貫して「黙秘」であった。


一方の貴族たちの反応はといえば――「静観・様子見」の一言に尽きた。 現場にいた学生や護衛たちにとっても、事の真相自体は藪の中である。しかし、これほど明確な証拠と目撃者が揃っているにもかかわらず、王家の発表がデタラメ極まりないものであったため、「何か別の大いなる意図や政変の企みがあるのではないか」と勘ぐったのだ。


下手に深追いして内乱にでも発展しては目も当てられない。 何より、「ここ最近の王家は何かがおかしい」と、多くの貴族が不気味な異変を感じ始めていたからでもある。


もちろん公爵家の内部でも議論が重ねられたが、王家の虚栄も亜竜の討伐実績の有無などもはやどうでもよく、果たすべき誠実な対応は「討伐した亜竜の権利を、約束通り冒険者たちへ譲渡すること」だけであった。


「まあ、王家の異常行動があの『呪い(強制力)』によるものなら、いちいち反発するだけ時間と労力の無駄というもの。私たちは卒業パーティーに向けた検分と準備を進めるだけよ」


アナスタシアの言う通り、俺たちは目前に迫る卒業パーティー(決戦の場)へ向けた仕度を開始した。

もっとも、準備の大部分は俺の「衣装」に関するものであったが……。


どのような準備が必要かと言えば――刃物厳禁の式典会場に持ち込むための『合法的な武装化』についてだ。 礼装となる着物や袴、ブーツのデザインは義母上様や侍女たちへ一任するとして、問題はいかにして武器を仕込むかであった。


そこで俺が考案したのが、『ミスリル製の飾り十手じって』の調達である。

ほんのり青みがかった高純度ミスリルの棒身ぼうしんを少し長めに打たせ、上部には白い繊細なレース網のカバーを走力(装飾)としてあしらう。そのレース地には細かな宝石を幾重にも編み込み、高位貴族の持ち物にふさわしい豪奢な美しさを演出させた。 持ち手には鮮やかな朱色の紐を厳重に巻き付け、柄頭からは房飾りと小さな銀鈴を垂らした。鈴の音には古来より邪気や災厄を祓う清めの効果がある。此度の不気味な呪いを打ち払う差配としては、まさに打って付けであろう。


単なる飾りに留まらず、棒身の素材や重心のバランスにも十全の一工夫を加え、絢爛豪華でありながら、いつでも叩き伏せられる極めて実戦的な装備を完成させていったのだ。


――そして、運命の卒業パーティー当日を迎えた。



卒業パーティーは、王城の威容を誇る大広間にて催される。 普段は立ち入れぬ最高峰の意匠が凝らされた空間であり、低位貴族や奨学生として通う平民の生徒たちにとっては、生涯で最初で最後の経験になるやもしれぬ晴れ舞台として大変に喜ばれるのだという。


通常、王族の卒業時には国王陛下夫妻も直々にご臨席されるという由緒正しき祝宴なのだとか。 今回は王太子殿下自身の卒業年ではないため、国王夫妻が会場へ足を運ぶことはないはずだが――公爵令嬢アンジェリカを完全に排斥・処断せんとするならば、事の重大さからして急遽臨席してくる可能性も十二分に考えられた。


その場合、こちらの立ち回り次第では王国最精鋭たる「近衛隊長」自らと直に刃を交える事態すら想定せねばならん。


事前の予想通り、王太子殿下は婚約者候補の令嬢たちの誰ひとりとしてエスコートを申し込むことはなかった。 会場入りを果たした俺とアナスタシア、マリーベル、ジョアンナの婚約者候補四人は自然と合流し、軽く言葉を交わしていた。 ――いや、正確に言えば俺が会場に足を踏み入れるや否や、見咎めた令嬢たちに次々と取り囲まれて身動きが取れなくなり、それをアナスタシアたちが少し離れた場所から愉しそうに眺めている、というのが正しい図式であったが。


ちなみに学園内には、ひとつ興味深い変化が生じていた。 かの課外実習にて俺と同じ東側班に配属され、俺の戦いぶりと差配を目の当たりにした男子貴族たちが、進んで俺に声をかけてくるようになったのだ。 結果として今の会場内は、俺を支持する実戦派の集団、アナスタシアたち高位貴族のグループ、そして頑なな王家派閥という「三つの勢力」に緩やかに分かれていた。


やがて最終学年の卒業生たちが一堂に入場を完了し、司会進行の朗々たる声によって卒業パーティーの開会が告げられた。 壇上へ歩み出でてきたのは、卒業生たちへ向けて送辞を述べる役目を担う王太子殿下であった。


「……はじまるわよ」


アナスタシアの囁くような小さな制止の声を耳にし、俺は静かに頷いて視線を壇上へと向けた。


「在校生を代表し、本日この輝かしい門出を迎えられた卒業生の先輩方に、心からの祝辞を述べさせていただこう。 先輩方がこの王立学園にて築き上げられた数々の偉大な功績は、実に素晴らしいものであった。今後も王国の威信と貴族としての品位を忘れず、それぞれの道を歩んで行っていただきたい。 我ら在校生一同、先輩方が去られた後の学園をしっかりと守り、その誇り高き伝統を次代へと引き継いでいくことを、次期国王たる私、ならびに在校生一同の誓いといたします」


朗々と響き渡る送辞。その終幕とともに、一拍の静寂が降り降りた。 舞台の上の王太子の視線が、ゆるやかに――しかし明確な意図をもって俺たちへとし向けられる。


「――しかしながら。その品位を穢し、伝統を引き継ぐに到底値しない者どもが存在する。……アンジェリカ・フォン・エバーランド! アナスタシア・フォン・ミルレット! マリーベル・フォン・ブルレア! ジョアンナ・フォン・グリンウッド!」


堂々と名を呼ばれ、大広間の空気が一瞬にして凍りついた。 王太子は壇上から俺に向けて不躾に指を突きつけ、卑屈な欲望の透けて見える、いやらしい笑みを浮かべた。


「この私、次期国王たる王太子の婚約者候補という立場に胡坐をかき、学園内で繰り広げてきた傲慢極まりない振る舞いの数々……さらには王家に取って代わろうとする身の程をわきまえぬ暴挙! 特にアンジェリカ・フォン・エバーランドに至っては、庇護なき平民出身のカレン嬢を虐げ、周囲の貴族たちへ過剰な暴力を見せつけて力で配下に従えるなど、もはや国家反逆罪にも相当する不法行為である!」


大広間にどよめきが広がるが、王太子は意気揚々と声を張り上げ、宣言を叩きつけた。

俺を先頭に、アナスタシア、マリーベル、ジョアンナが横一列に並んでいたが、背後から『バサリ』と美しく揃った絹の擦れ合う音が響いた。俺を除く三人が、一寸の乱れもなく一斉に扇を広げて口元を隠したのだ。


(見事に揃っておるな……。扇の影で、きっと底冷えするような冷酷な目をしているのだろう)


周囲の威圧など気にも留めず、王太子は意気揚々と演説を続けた。


「私の妃には、男爵令嬢であり、私の最愛であるカレン・フォン・アンダーソンこそが相応しい! ここにカレンを私の正式な婚約者とすることを宣言する!」


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