第二十話:侍は決戦への道筋を見る
森からの撤退作業には、結局あのアルスという冒険者もついてきた。 ひとつのパーティ程度の人手ではあの巨体の解体も運搬も不可能なため、一度ギルドへ戻って人手を集めるしかないのだという。
行軍の道中、俺は彼から中央陣営(王太子たち)で何が起きていたのかを聞き出した。
「……あのデカ物が崖から落っこちてきた時、王太子様ご一行がパニックを起こしてなぁ。近衛兵どもに命じて大量の魔物避けを炊かせやがったんだよ。こっちにゃ腕の立つ冒険者も揃ってたってのに、煙を炊くわ、俺たちが追撃しようとしたら『王子の警備が薄くなる』とかビビり散らして引き止めるわで、もう散々だったさ。なんとか振り切って俺たちだけで追ってきたんだが……まさか到着した時には一撃で仕留められてるなんて思わねぇよ……」
呆れ果てたように愚痴るアルスは、その後もしつこく「どうやってあの森土竜を倒したのか」を尋ねてきた。 俺はカパルに向かい、
『あの魔物の素材と売却益はすべて貴様たちにやる。だからその男の口を黙らせろ』
と告げて余計な詮索を禁じた。 完璧な臨時収入を得たことで未練は消えたようだったが、それでもアルスは未だ信じられない様子で、会話の端々で俺の立ち回りを探ろうとしてくる。
噂のAランク冒険者ということで腕は立つのだろうが、好奇心が強すぎる。武家社会にはあまり存在せぬ、実に厄介な種類の男であった。
「アルスの旦那ぁ! 姉さんを困らせるのはいい加減にしてくだせぇ! あの魔物の売却益は俺たちにも山分けされるんすからね! 姉さんの機嫌を損ねて取りやめにでもなったら、一生恨みますよ!」
カパルは格上のアルスに気を使いつつも、魔物を譲り受けると知るや否や態度を豹変させ、俺への呼び方を
「お嬢」から「姉さん」へと鞍替えしていた。
まったく、現金な奴らだ。
こうして冒険者たちの迅速な協力もあり、俺たちは何らの損害も出すことなく無事に森からの脱出に成功したのだった。 学園の課外授業は、俺たち公爵家派閥のグループにとっては、ただの「行軍の体力教練」に近い形で幕を閉じることとなったのである。
◇
後日、学園側から発表された公式の説明は、実に都合よく捻曲されたものであった。
『森の北側に聳える山脈から、大型の亜竜が獲物を追い求めて迷い込み、運悪く生徒たちの滞在場所へと転落。これに対し近衛は王太子殿下を十全に護衛すべく、魔物避けの煙を用いて見事に大型魔物を撃退せしめた』
……と、破綻した言い訳が周知されたのだ。
これに激怒したのは、我が公爵家に連なる貴族たちであった。 王太子たちの身勝手な魔物避けによって魔物を東へ押し付けられ、もしもアンジェリカが立ち塞がって処断せねば何人の犠牲者が出たか分からぬ状況であったのだ。その事実を隠蔽されたばかりか、魔物撃退の功績まで王家に横取りされた形となったのだから当然である。
「うちのお父様も大激怒よ。『近衛、侯爵騎士団の精鋭、さらには高ランク冒険者まで揃えておきながら、亜竜の討伐すらなさず、守るべき臣下へ怪物を押し付けた挙句に手柄を横取りするなど……武家の名誉もへちまもない!』ってね」
課外授業を終えた後日、情報のすり合わせを行うためアナスタシアをお茶会へ招き、森での一転語を打ち明けていた。
「まあ、王家の腐り切った対応など今更だ。それよりもアナスタシア、今回の件でひとつ聞きたいことがある。あの森土竜という魔物……姿を現すやいなや、周囲の人間には目もくれず、一直線に俺を敵と定めて襲いかかってきおった」
俺は机の縁を指先でトン、と軽く叩いて言葉を継ぐ。
「……俺は『この世界』から、不要な異物として物理的に排除されようとしているのではないか? そんな気配を感じたのだ。悪役令嬢アンジェリカとしてではなく、異物としてな……」
「んー……どうなんだろう。本来のシナリオであれば、亜竜の討伐は王太子殿下たちが力を合わせて活躍する見せ場だったから……」
「だが、奴らは戦いすら放棄して逃げ惑ったのだろう?」
「私が直接見ていたわけじゃないから確証はないけれど、王太子殿下に付けた騎士たちからは『亜竜だと判明した瞬間に即座に魔物避けを使った』と報告を受けているわ。そうなると……榊原さんという『異物』を排除するためにシナリオが歪んだという説も、完全には否定できないのよね……」
アナスタシアは困惑を隠しきれず、頭を抱えて唸り声を上げる。 だが――俺はふっと不敵に口元を緩めた。
「……ふっ、だが俺は、これを良い傾向だと見ているぞ」
「え……?」
「物理的に排除せねばならんほど、向こう(シナリオの強制力)も追い詰められたということだ。だとすれば――次の『卒業パーティー』という断罪の舞台においても、向こうは言葉や道理ではなく『物理的な力』で直接仕掛けてくるということになる。理由を捏造されるより、よほど分かりやすくて好都合ではないか」
「え? あ……理屈はわかるけど、舞台は王城のホールよ? 王太子の護衛として最精鋭の人員が配置されるはずだし……だとしたら、相手になるのは……」
「ああ。王国近衛騎士団が束になって相手になると踏んでいる」
本来のシナリオ通りであれば、権力と数の正義でアンジェリカを精神的に追い詰めるはずの舞台。しかし今のアンジェリカには権力の圧力など通用せず、取り巻きの数も削がれ、個人の武力では到底敵わない。とすれば、今回のように「ハメて力ずくで殺す」のが向こうにとっても一番確実なはずだ。
卒業パーティーの前に暗殺や毒殺を試みる手段も考えられるが、アンジェリカという存在そのものが消えてしまっては物語(断罪イベント)の成立条件を満たせない。 その流れで思い返せば、あの亜竜もアンジェリカ(俺)を殺しきらぬよう、手加減されていた可能性すらある。もしアンジェリカが軽傷で済み、周囲の派閥貴族たちだけが全滅させられていたなら、味方を失ったアンジェリカは完全に孤立していたはずなのだからな。
物語の幕を引くためには、せめて舞台の上に「立っているアンジェリカ」が必要なのだろう。
だとすれば――卒業パーティーの場では味方が手出しできぬ状況が強制的に作られ、俺が戦うには圧倒的に不利な条件下で、向こうの最高戦力がぶつけられることになるはずだ。
「……本当に大丈夫なの、榊原さん?」
思考をすでに未来の卒業パーティーへと飛ばしている俺を見て、アナスタシアが実に心配そうな声をかけてくる。
「さてな……。未来というものは、往々にして己の力量では及び得ぬ範疇にある。俺はこの世界でそれをつくづく思い知らされたよ。アナスタシアの語る日ノ本の未来も、アンジェリカ殿の辿るはずだった未来というものもな……。ならば――今はこの己の腕と刀の冴えに懸けるほかあるまい」
「それはそうなんだけど……心配なものは心配なのよ」
「ははっ、そのような顔を見ると、アナスタシアも俺より年上の姉の如く見えてくるな」
俺が笑い飛ばすと、アナスタシアも「もう!」と苦笑いを漏らした。
舞台は整った。 いや――すでに仕組まれていた舞台へ、いよいよ上がる刻が来たのだ。
だがしかし、お仕着せの演目通りに踊ってやるつもりなど毛頭ない。 俺は歌舞伎役者でも何でもない。ただひとりの――己の道を行く侍なのだからな。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




