一話:侍は少女の家族に挨拶する
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
豪奢な天蓋付きのベッドで、少女は目を覚ました。
むくりと起き上がると、横でうたた寝していた女が、びくりとしてこちらを見た。
「お嬢様!目が覚めたのですか?」
お嬢様?ああ、そうか女子の身体に入ったのか。
「お嬢様がお目覚めになりました。旦那様と奥様にご連絡を!」
横にいた女が扉に向かい叫ぶと、扉の向こうの気配が動いた。護衛でもいたのであろうか?
「お嬢様。大丈夫ですか?どこか痛いところや違和感などありませんか?」
女に言われて、身体を動かす。
グッ、身体が固まっておるな。
あと、喉が渇いた。
「水を」
女の声だ。己が発した言葉の音が違う。俺は、手を前に出し見る。
女の手だ。それも細く美しい。剣だこなどない綺麗な手だ。
身体も細い。これが俺の身体か。
「お嬢様、お水でございます」
「おお、すまんな」
付き添ってくれている女から、器を受け取り、水を飲む。
「ふぅ…しみるな」
「お嬢様?」
「おう、俺が気になるか。しかし、まずはこの娘のご尊親に、伝えねばならんことだ。しばし待て」
ここまで来ると、控えていた侍女は、自分が支えている少女が、少女でないことに気がついた。
やがて、バタバタと騒々しい足音が近づき、部屋に二人の男と一人の女が現れた。
「アンジェリカ! 目覚めたのか!」
「アンジェリカ、良かった……本当によかった……」
安堵の表情を浮かべ寄ってくるのは、この身体の両親と思しき人物だ。
俺は布団をはねのけると、ベッドの上でスッと背筋を伸ばし、凛とした姿勢で正座した。そして、まっすぐに二人を見据えて口を開く。
「初めてご尊顔を拝します。某は日ノ本が幕臣、榊原直之と申す者。女神様の思し召しにより、この娘ごに天寿を全うさせるべく、此方へ罷り越しました」
「…アンジェリカ?」
「ご母堂。身体はアンジェリカ殿に相違ございません。されど、中身は榊原直之でございます」
「女神の思し召し……と言ったか?」
「はい。某も未だ知らぬことが多いゆえ、女神様から聞き及んだ話をそのままお伝えいたしますと……この娘子は、呪いにより死しても時が戻り、心が先に壊れてしまったのだと。輪廻の輪に戻り新たな生を得るには、肉体も天寿を全うせねばならぬ。ゆえに俺がこの娘子に入り、天寿を全うさせることが使命にございます」
「呪い……? 時が戻ると言ったのか!?」
「伝聞ではございますが、娘ごは何度も何度も殺されたのだと、女神様はおっしゃられました」
「で……では……娘はもう……っ」
「魂は、いまは女神様のもとでお休みになられております」
あああ、とご母堂様は泣き崩れ、床に伏してしまわれた。
ずっと黙って話を聞いていたもう一人の男が、俺を鋭い眼光で射抜きながら問う。どうやら兄君のようだ。
「……何度もとは、どういうことだ」
「わかりかねますが……俺が『この時・この地』に呼ばれたということは、娘ごは以前の生でもこの時期からやり直しを重ねていた、と推測されるのではないでしょうか」
部屋には沈黙が満ちる。
アンジェリカのご尊父は、はぁーと息を吐き、そして俺を見据えた。
「貴方は榊原直之殿」
「然り」
「アンジェリカではない」
「然り」
「アンジェリカは女神様の元に」
「然り」
「アンジェリカの代わりに貴方が生きる」
「娘子の天寿を全うさせまする」
「そうか…そうか…」
ご尊父は、手のひらを顔に被せ、諦めたように呟いた。その手からは涙が零れ落ちる。
「そうかぁ」
「慰めにはならぬでしょうが……娘子に何があったかは知らぬものの、武士に二言はござらん。女神様と交わしたアンジェリカ殿の『天寿の全う』を果たし、無事に輪廻の輪へとお戻しできるよう、この命を賭しまする」
そう告げると、俺は彼らに向けて深く深く、平伏した。
◇
この娘子の名前はアンジェリカ・フォン・エバーランドと言うようだ。舌を噛みそうな長い名である。
エバーランド公爵家という、幕府で言う「御三家」のような高い位の家の長女であるそうだ。
その後、場所を移し、ご尊父殿と今後の打ち合わせをした。
俺はアンジェリカ殿として生きるが、彼女の行動や思考を完璧に模倣することはせず、あくまで『榊原直之』として振る舞うことに了承を得た。
ただ、女子の作法など俺が知るはずもない。そのあたりは、先ほど水を運んできた侍女(女中)のマリー殿が助けてくれることとなった。ありがたいことに、アンジェリカ殿の身体が所作を覚えているようで、指定された動き自体はすぐにこなせたのは助かった。
とりあえず、一年後に入学する『貴族学園』なる場所へ通う準備を進めてほしいとのこと。
だがこれが難題で、貴族の決まり事や学問の内容がさっぱりわからん。食事の際も『ナイフとフォーク』なる道具を渡されて仰天した。とりあえず、職人に頼んで『箸』を作ってもらうようお願いしておいた。
あとは、身体の鍛錬だ。
榊原直之の元の肉体とまではいかぬが、刀を振り抜ける筋力は欲しい。
一年でどこまで身体を作れるか……と懸念していたのだが、『魔法』とやらで身体能力を向上させられると知り、これまた仰天した。
かくして、貴族マナー、学問、剣術鍛錬、魔法と、学ぶべき課題が一気に増えてしまったのだ。
日々を過ごすうち、周りの人間とも徐々に馴染んできた。
貴族マナーの所作自体は身体が覚えているもので問題ない。
しかし、口調ばかりはどうしようもなく、侍女のマリーから「……お嬢様、もう喋らないようにいたしましょう」と半ば諦め顔で告げられたため、早々に『無口な令嬢』という立ち位置に収まった。
勉学もアンジェリカ殿の記憶が残っているらしく、暗記物は問題ない。算術には自作の『算盤』を用いたのだが、この王国には存在しない道具だったらしく、ご尊父殿が「これは素晴らしい」と商売に利用するそうだ。
一方で、芸術や音楽は全滅であった。試しに歌ってみたものの、どうにもならん。楽器などの扱い方はアンジェリカ殿の身体が覚えているようなのだが、俺の知る『唄』とアンジェリカ殿の『歌』が違いすぎるのだろう。
一番進んでいるのは剣術と魔法だ。魔法は肉体強化が主だが、『放出系』と呼ばれる術も、昔読んだ忍法書の記述と通じるものがあり、比較的早く習得できた。とはいえ、こちらの世界の放出系とは少々効果が異なるらしく、それをアンジェリカ殿の兄上殿が面白がって見にくる。
こうして目まぐるしく過密な毎日を過ごすうちに、いよいよ俺が王都へ向かう日が近づいてきたのである。
早朝の鍛錬を済ませて自室の前に戻ると、ご母堂殿が佇んでおられた。
「榊原様、どうか娘のこと、よろしくお願いします」
隙のない綺麗な所作で、深々と頭を下げられる。
俺を受け入れてくれた公爵家の皆だが、ご母堂殿だけは今まであまり顔を見せなかった。無理もない、愛娘の身体の中にいるのが俺なのだから……。
それでも、こうして俺に対して頭を下げてくださる。俺は無言のまま、ご母堂殿に向かい深く深く頭を下げ、礼を返した。
アンジェリカ殿がこれからどのような殺され方や災厄に見舞われるかはわからんが、我が御家のため、公爵家の皆のため、そして何よりアンジェリカ殿のために、いよいよ気合を入れねばいかん。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




