第十六話:侍は課外授業の支度をする
学園内におけるアンジェリカへの不自然な悪意は、日に日に増大し続けていた。
俺の姿を遠目に見かけるや否や、生徒たちはコソコソと陰口を叩き合い、アンジェリカという存在がいかに冷酷で悪質であるかを吹き込み合っている。
アナスタシアいわく、それこそが彼女の知る「ゲームの筋書き(シナリオ)」通りの展開なのだという。
だが――すべてが物語通りに動いているわけではなかった。
かつて俺との真剣勝負や一喝(仕合)を直接その身に浴びた者たちは、周囲の熱狂に流されることもなく、アンジェリカを不当に憎むこともなく日常を過ごしていたのだ。 これにより、俺とアナスタシアが立てた仮説――「直之の真の気迫と剣気を直接体感した者は、呪い(認知汚染)の再発を免れる」という法則が正しかったことが証明された。
もっとも、正気に戻った彼らは彼らで、周囲の生徒たちが「アンジェリカ憎し」の狂気で団結している中、ひとり醒めた目で過ごさねばならず、かなり居心地の悪い思いをしているようだったが……。
「……しかし、なぜ俺の気迫を浴びた者だけは、あの不気味な呪いが再発せぬのだろうな?」
「今のところ、その『再発防止の手段』が存在すると分かっただけでも良しとするしかないわね……」
この根本的な仕組みに関しては、さすがのアナスタシアもお手上げのようだった。
まあ、そもそもが武士である俺の魂がこの地に宿り、三枝静香という女子がアナスタシアとして転生しているような世界だ。異界の理や因果のカラクリなど、俺たち人間が理解できるはずもない。もはや神仏の領域の話であろう。
ならば――俺たちにできる検分と手回しを、ひとつひとつ愚直に積み重ねていくほかないのだ。
◇
そんな不確かで不気味な学園生活を送っていたある日、学園の公式行事として『対魔物訓練実習』が実施されることとなった。
王都近郊の森へ騎士科の生徒を中心に遠征し、実際に徘徊する魔物を討伐・間引きするという演習である。 騎士科以外の生徒であっても、将来国を背負う貴族として「魔物との実戦とはどういうものか」を実体験しておくための課外授業となっており、戦闘能力の皆無な一部の令嬢を除き、大半の貴族が出席を義務付けられている行事のようだ。
特に高位貴族への参加義務は厳格であり、王太子はもちろんのこと、アンジェリカを含む婚約者候補の令嬢たちも勢揃いで参加することとなっていた。
「……ゲームのイベントとしてはね、アンジェリカがカレンを事故に見せかけて排除するために、普段は森の奥深くにしかいない強力な魔物を仕掛け(放ち)て襲わせるのよ。でも、王太子たちとカレンが力を合わせて見事にその魔物を撃破して、絆を深める……そして『こんな危険な魔物を放った悪役令嬢アンジェリカを排除する』ために、王太子たちが証拠集めを開始するっていう重大なターニングポイントなの」
事前にアナスタシアから、この課外実習における「筋書き」のあらましを説明してもらう。
「なるほどな。俺がそんな手配などしておらぬにもかかわらず、その深層の魔物が現れたとすれば――『シナリオの強制力(呪い)』の存在は確定と見なしてよいだろうな。そして仮に、その凄惨な魔物を俺が返り討ちにして倒したところで、物語の流れとしては『手下が暴走した下手人』として俺が疑われるハメになる、と」
「……そこも心配だけど、そもそも榊原さんは大丈夫なの? 対人戦なら人間離れした強さだけど……強力な『魔物』を相手に戦えるの?」
アナスタシアが、不安そうに俺の顔を覗き込んできた。 だが――甘く見てもらっては困る。
「……ふっ、俺とてこの地で遊んでいたわけではないぞ。年末の交流会や稽古で学びを得ていたのは、何もあやつら(騎士たち)ばかりではないのだからな」
俺は不敵に口元を吊り上げ、ニヤリと笑って答えるのであった。
課外授業において行動を共にする班の編成は、見知った者同士で構成されるのが基本となる。
そのため実習の班分けは、高位貴族とその縁者を中心に組まれることになっていた。つまり、俺自身の班を含め、公爵家派閥に属する生徒たちの人員選定は、すべてアンジェリカ(俺)が差配せねばならないのだ。
俺は、前日まで参加者名簿に目を皿のようにして通し、マリーたちとも密に相談を重ねながら決定していった。
これには明確な理由がある。高位貴族を擁する班へ安易に別派閥の人員を混ぜてしまえば、不測の事態が起きた際に背後を脅かされかねない。また連携が取れずに足乱れが生じれば、リスクばかりが増大するからだ。
お互いの気性を熟知しており、土壇場で連携が取れる程度に意志疎通ができ、かつ全員の安全を確保しながら戦力を過不足なく配分する――。普段、派閥の人事などに大して関心を持ってこなかった俺にとって、これはなかなか骨の折れる仕事であった。
苦心してメンバー選定を終え、いよいよ課外授業の本番当日を迎えた。
俺が直属の班として同行させるのは、側近のマリアンヌ、カリス、アーリサの三人のみに絞った。彼女たちは防御魔法に長けており、実家での狩猟経験もあるという。俺自身に護衛など不要であり、ならば貴重な騎士科の生徒(戦力)は他班へ回し、公爵家派閥の生徒たちの安全確保を最優先とすべきだという判断による差配であった。
何より、俺の側に仕える彼女たち三人は「アンジェリカの取り巻き」として周囲の不自然な悪意や嫌がらせに最も晒されやすい立場にある。万が一の事態が起きた際、他の生徒では彼女たちを守りきれぬ恐れがあったため、俺の目の届く手元に置いて保護するのが一番確実だったのだ。
公爵家派閥の主要メンバーへ編成案を伝える際にも、「可能な限り公爵家の身内で固まって行動せよ」と厳重に伝達しておいた。
――さて、恐らくはアナスタシアの言う「ゲームの筋書き」通り、普段はこの森に生息せぬ大物の魔物が現れるはずだ。
今後の観点から言えば、そいつは王太子らではなく、俺の手で仕留めてしまうのが最も都合が良い。
ゲームの魔物は王太子たちの前に出現することになっているという。ならば――奴らの獲物をいかにして横からかっさらい、叩き潰すか。問題はただその一点のみであった。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




