第十五話:侍は事件の報告をする
後日、先日の一件を話すために、学園の応接室に婚約者候補の四名を集めた。
集まったのは、アナスタシア、マリーベル、ジョアンナの三人と、彼女たちに仕えるそれぞれの側近たちだ。 テーブルの上には、マリーが丁寧に淹れた紅茶からかすかな湯気が立ち上っている。だが、場に漂う空気は決して穏やかな茶会のものではなかった。
俺は背筋を真っ直ぐに伸ばし、公爵令嬢としての最低限の作法を保ちつつ、重々しく口を開いた。先日起きた、騎士科の生徒たちによる襲撃未遂——その事案に関する検分結果を報告する。
「……以上が、あの場での一部始終と、その後の聞き取りの結果だ」
俺が話を区切ると、真っ先に反応したのはアナスタシアだった。彼女は身を乗り出し、目を輝かせながらテーブル越しにこちらを覗き込んでくる。
「で、結局アンジェリカ様は、その不心得な騎士たちをどうしたの?」
好奇心でいっぱいの、実に彼女らしい問いかけだ。俺は手元のお茶に一口だけ口をつけ、素っ気なく答えた。
「そのまま放免してやった。元はといえば、暴発するように言葉で仕向けたのは俺だからな。武士の情けというわけではないが、引き金を引いた側に一切の責任がないとは言えん」
「武士……?」とジョアンナが小首をかしげかけたが、俺はわざとらしく咳払いをして誤魔化した。 すると、俺の斜め後ろに控えていたアーリサが、当時の凄まじい光景を思い出したのか、口元に手を当てて楽しそうに苦笑いを漏らした。
「ふふ、陰で控えて聞いている私たちが、ヒヤヒヤして生きた心地がしませんでしたものねぇ~。相手の自尊心を木端微塵に打ち砕くような、凄まじい挑発と酷い言葉攻めでしたもの」
「本当に。普段はお口数の少ないアンジェリカ様があんなにも饒舌になられるなんて、とても珍しいものを見せていただきましたわ」
カリスも同調するように、クスリと品良く笑う。 二人の言葉に、今度はマリアンヌが「待ってました」と言わんばかりに熱っぽく語り始めた。
「それに、何と言ってもあの見事な立ち回りですわ! 騎士候補の男四人を相手に、魔法も剣も使わず、素手であっという間に薙ぎ倒されて……! ……私、あの凄絶で美しいお姿が目に焼き付いて、その日は興奮して夜も眠れませんでしたの!」
「「うんうん!」」
マリアンヌの興奮冷めやらぬ熱弁に、カリスとアーリサも深々と頷いている。どうやら彼女たちの間で、俺の立ち回りは妙な尾ひれがついて語り継がれているらしい。令嬢の身でありながら男を素手で投げ飛ばす姿が、彼女たちのツボに入ったようだ。
「ええ~っ!? いいなぁいいなぁ! 私もアンジェリカちゃんの無双シーン、生で見たかったー! なんで私を呼んでくれなかったのよー!」
アナスタシアが実に羨ましそうに地踏みをし、テーブルをバシバシと力任せに叩く。
「アナスタシア様、お行儀がよろしくありませんわ」
「お気持ちは分かりますけれど……もう少しお声を控えなさってください」
ジョアンナとマリーベルが苦笑しながら嗜めるが、一度火がついたマリアンヌたちの興奮はなかなか冷めそうにない。これ以上脱線されると話が進まないため、俺はゴホンとひとつ、わざとらしく大きめの咳払いをしてみせた。
一同の視線が再び俺集まったのを確認し、俺は低い声で本題へと引き戻す。
「……脱線した。話を戻そう。叩きのめした騎士科の連中だが、俺がのしてやると途端に大人しくなってな。『公爵令嬢に手を上げてしまった、もう自分はお終いだ』と、まるで憑き物が落ちたように真っ青な顔で怯えておった。……その瞳には、もはや俺に対する憎悪のかけらも宿っておらなかったのだ」
俺の言葉を受け、マリーが静かな動作で俺のカップにお茶を淹れ直しながら、穏やかに頷いた。
「はい。その後、私も影から様子を観察しておりましたが、お嬢様が近くをお通りになっても、小さくなって怯えるばかりでございます。以前のような、刺すような敵意や嫌悪感を見せる態度は一切ございませんでした」
「叩いて直るというのであれば、武力での制圧も選択肢としては否定せん。……だが、学園中の全生徒をいちいち一人ずつ叩きのめして歩くのは、さすがに現実的とは言えぬからな。腕がいくつあっても足りん」
俺が呆れ気味に言うと、アナスタシアが「うーん」と首をひねり、腕を組んで目を閉じた。しばしの思考の後、彼女はゆっくりと目を開ける。
「……ねえ。実はうちの遠縁の者が、あの場にいた騎士候補の一人と知り合いでね。気になって直接尋ねてみたのよ。そうしたら彼、こう言っていたわ。アンジェリカ様の一喝を受けた瞬間に、頭にかかっていた霧が晴れて『自分はなんでこんなことをしようとしていたんだ?』って、正気に戻って凄く驚いたんですって」
「ほほう……?」
「で、自分のしでかそうとしたことの恐ろしさに青ざめて、わけが分からないまま、アレよアレよという間に叩きのめされた……と」
「ああ……あれかな? 『この阿呆共が!』とお叱りになった時かも……」
カリスが当時の記憶を手繰り寄せるように言った。
「確かに、あの時奴らの動きが一瞬鈍ったな。女相手に手を上げるのを躊躇したのかと思っていたのだが……」
「恐ろしいお話ですわね……下手をすれば家ごと潰れかねないのですから……」
マリアンヌが己の肩を抱き、身震いするように呟く。
確かに、低位貴族が高位貴族へ暴力を振るえば問答無用で重罪だ。今回は特に、騎士候補の男が高位貴族の女子へ拳を振るったのだから、本人の爵位・位階剥奪は免れず、実家には莫大な慰謝料と賠償が請求され、一族の信用は完全に失墜する。
没落は間違いなし――そのような破滅的リスクを、本人の強い意思ではなく、正体不明の『呪い(洗脳)』によって踏まさせられるとなれば、恐ろしいどころの話ではない。
「でね。もしかしたら『物理的に叩き潰したら呪いが解ける』のではなくて、アンジェリカ様のあの圧倒的な『気迫』?とか『闘気』?とか『剣気』?のような影響で、呪いが吹き飛んでるんじゃないかしら?」
「……何か思いついたのか?」
「気になってうちの騎士団に調査させたんだけど、ミルレット家の見習い騎士の中でアンジェリカ様に批判的な奴らを洗ってみたら、全員『年末の交流会に出ていなかった奴ら』だったのよ」
「なるほど。公爵家の騎士たちは俺が定期的に稽古で扱いているから反発する者がおらんのかもな。話の筋道は通るか…」
「でね! うちの見習い騎士たちを使って、ちょっと実験してみない?」
アナスタシアが実に楽しそうな、悪い笑みを浮かべて俺に提案してきた。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




