第十二話:侍は味方を増やす
「……ふふ、実はね、私も王太子妃候補からは降りるつもりでいたの。招待状も、エバーランド公爵家の辞退の動きに合わせて、同じタイミングで辞退を叩きつけたいと考えていたからなのよ」
ブルレア辺境伯令嬢がうっとりと微笑みながら衝撃の告白をし、それを聞いたグリンウッド侯爵令嬢が「まあ……!」と驚愕に目を見張った。
「おっと、そう来ましたか! じゃあ、残る候補者はグリンウッド侯爵令嬢ただ一人になっちゃうわけね」
アナスタシアがニヤリと悪だくみをする顔になった。
「アナスタシア、お主……心の声と性根(素の顔)が漏れているぞ」
俺が苦笑交じりに指摘すると、アナスタシアは「テヘッ」と舌を出してだらしなく笑った。
「まあまあ、ここまで腹を割ったんだから正直に行きましょうよ! グリンウッド侯爵令嬢は、本当に王太子妃になりたいと思ってるの?」
アナスタシアが直球で切り込むと、ブルレア辺境伯令嬢も興味深そうにグリンウッド侯爵令嬢へ視線を注ぐ。二人の視線を一身に受けたジョアンナは、観念したように肩の力を抜き、苦笑いを漏らした。
「……お父様は大変乗り気ですので、軽々に辞退と言い出すわけには参りませんけれど……正気な話、最近の王太子殿下って……『あれ』でしょう?」
『『あー……“あれ”ねぇ……』』
令嬢たちの深いため息と、生温かい苦笑が大広間に広がった。
彼女たちが言う「あれ」とは、以前アナスタシアが言っていた「げえむ」のシナリオとやらに登場する『ヒロイン』なる人物に纏わる話らしい。
学園入学と同時に知り合ったという低位貴族の少女――カレン・フォン・アンダーソン。 彼女は地方の弱小子爵家に過ぎぬ身でありながら、王太子と知り合うや否や、あちら側から急速に距離を縮められ、挙句には王太子の側近である『騎士団長の子息』『宰相の子息』『魔法省長官の子息』といった錚々たる面々とも親交を深めているという。
頻繁に共に食事を摂り、校外へ遊びに出かける。カレンの傍らには常に王太子かその側近の誰かしらが付き従っており、今や学園内では半ば「特別扱いされる姫君」のようになっているのだとか。
当然ながら、学園内における評判はすこぶる悪い。
王太子は正式な婚約者候補たちとの交流を完全に放棄し、側近とカレン以外の生徒とは一切の関わりを絶ち、生徒の模範となるべき学園内の取りまとめすら投げ出している。
当のカレンも、身分を弁えぬ馴々しい身体的接触が多く、他の貴族への礼節を欠き、勉学においても取り立てて目立つ成績を残しているわけでもない。
見かねた良識ある貴族たちが、王太子には「他の諸侯の子弟とも交流をお持ちになるべきです」、カレンには「未婚の男女がみだりに肌を触れ合うものではありません」と忠告に赴いたこともあったそうだが、ことごとく馬耳東風。全く聞く耳を持たなかったという。
婚約者候補の三人も早々に「これは下手に近づけば火傷をする」と察知し、遠巻きに噂を集める程度にとどめていたらしい。
「……話にならんな。一国の後継たる者がそれほどの体たらくでは、家門そのものが諸侯から軽んじられるぞ。そもそも、其奴らの目付役や見張り役の年長者は一体何をしておるのだ?」
俺があきれ果てて問い詰めると、アナスタシアが肩をすくめた。
「それを本来なら『側近』たちがやるはずなんだけどねぇ」
「その側近とやらも、青二才(王太子)と同世代の若造ばかりだろう? 普通は家老や年配の付け人が目付として脇を固めるものではないのか?」
「ごめん、この国の学園システムではそこまで考慮されてないみたい。私も知らないや」
ブルレア辺境伯令嬢とグリンウッド侯爵令嬢へ視線を向けてみると、二人とも申し訳なさそうに首を横に振った。
「……呆れて物も言えんわ」
「まあねぇ。あの王太子殿下、唯一良いところと言えば『顔だけ』なのよねぇ」
アナスタシアが身も蓋もない暴言を吐くと、ブルレア辺境伯令嬢とグリンウッド侯爵令嬢は開いた扇で口元を覆い、肩をプルプルと震わせ始めた。 どうやら笑いのツボに入ってしまったらしい。
「ご、ごめんなさい……お二人の飾らないやり取りがあまりに可笑しくて……」
「ええ、私も不敬ながら……吹き出しそうになってしまいましたわ」
必死に笑いを噛み殺す二人を見て、アナスタシアの目がニヤリと妖しく光った。
(……あ、こやつまた妙なことを思いつきおったな)
俺が半眼で睨みつけると、アナスタシアは気に留める風もなくパンと手を打った。
「ねえねえ! 私たち、いっそのこと本当の『お友達』にならない? 政治的なしがらみで敵対する理由もないし、王太子妃の座を狙う可能性があるのもジョアンナ様のご実家くらいでしょ? 問題なんて何もないじゃない!」
「それは構いませんけれど……」
「ええ、ですが急にどうしてですの?」
唐突な提案に、マリーベルとジョアンナは少々警戒感を滲ませて問い返す。
「先日の王妃殿下のお茶会での対応……おかしいと思いませんでした? 明らかにエバーランド公爵家に一方的に喧嘩を売るようなやり口だったでしょう?」
アナスタシアが真剣な面持ちで語りかけると、二人はハッと何かに気づいたように頷いた。
「……確かに驚きました。王家と公爵家に何の確執もないと聞き及んでおりましたし、何より王太子妃筆頭はアンジェリカ様だとばかり……」
「私もですわ。王妃殿下は常々『公平公正なお人柄』と尊敬を集めていらしたのに、公爵家にだけ偽りの開始時刻を告げるだなんて……ショックでしたもの」
二人の言葉に深く頷き、アナスタシアが言葉を重ねる。
「そうなのよ。私の知る限りでも、あの王妃殿下がそんな粗雑な嫌がらせをするなんて考えにくい。実際、アンジェリカ様が席を立った後、王妃殿下は顔を青ざめさせて対応に追われていたわ。……どこかでで『何かがおかしい』のよ」
「……お主、あの時はノリノリで俺を罠に嵌めようと糾弾しておらなかったか?」
「アンジェリカちゃん! それはそれ、これはこれよ!」
緊迫した空気の中で俺が冷たく突っ込むと、アナスタシアは開き直って言い返した。そのテンポの良い掛け合いに、マリーベルとジョアンナの口元にもフッと笑みが浮かぶ。
「コホン……とにかく、アンジェリカ様の婚約者辞退の件も含めて、今の王家の対応は異常です。私たちの本来の対立軸は『王太子妃の座』だったはずですが、もはやそんなものは争う価値すらなくなっている。ならば、お互いに腹を割って協力し、情報共有できる関係を作っておいた方が絶対に安全でしょ?」
マリーベルが力強く頷いた。
「……賛成だわ。私は元より辞退を望んでいる身。無用な摩擦を避けるためにも、ぜひ仲良くさせていただきたいわ。……これからは『マリーベル』と名前で呼んでちょうだい」
「私もお願いいたしますわ。今の王家との縁組みは、あまりに危うい香りがいたします……。お父様は王太子妃の座に執着しておりますが、今のあの殿下と上手くやっていける自信など到底ございません。……もし我が家が困窮した際には、ぜひお力添えを。私のことも『ジョアンナ』とお呼びくださいな」
「私もアナスタシアで良いわよ! 何なら『アナ』って呼んでくれても一向に構わないわ!」
「……アンジェリカだ。皆、よろしく頼む」
こうして、本来であれば競合関係にあった「婚約者候補の四人」は、互いの利益と安全のために強固な結託を果たすこととなった。
「よーし! じゃあお近づきの印に、アンジェリカ様が華麗な剣の『型』を披露してくださーい!」
「はぁ!? 何を言い出すのだお主は! 当然やるわけがなかろう!」
「良いじゃないの~! 減るもんじゃなし! 義姉(仮)命令よ!」
「くっ……調子に乗りおって……!」
「ふふ、本当にアナスタシア様とアンジェリカ様は仲がおよろしいのですね」
「ええ、なんだか羨ましくなってしまう関係ですわ」
マリーベルとジョアンナが楽しそうに笑い合う。 俺としては即座に否定したかったが、反論したところでこの赤毛と不毛な言い争いになるだけだと言い聞かせ、苦虫をかみ潰したように口をつぐんだ。……またしても奴のペースに巻き込まれている自分が情けない。
結局、俺は一通りの剣術の演武(型)を披露させられる羽目になり、その流れのままアナスタシアの手によってマリーベルとジョアンナも例の『ファンクラブ』へと引きずり込まれ、秘密のお茶会は賑やかに幕を閉じたのであった。
ともあれ――これで学園内における支持基盤と情報網は盤石となった。 あとは、暴走を続ける王太子や、不可解な動きを見せる王家がどう出てくるか。
(……できれば、大事になる前に早々に決着がついてくれれば良いのだがな)
俺は男子制服の袖を軽く整えながら、静かに遠くの校舎を見やるのであった。
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




