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強化倍率∞ ~最弱足軽、《道具超強化》だけで天下を獲った男~  作者: 伝説の男前
第二部 火器転用編

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9/12

第九話「大筒の轟き」

#### 一


蛇柳影虎の本隊来襲まで、猶予はわずかしかなかった。


「鉄砲だけでは、大軍相手に限界がある。もっと大きな備えが要る」


軍議の場で、練は皆にそう告げた。頭にあったのは、堺で聞いた「大筒(おおづつ)」――大型の火器の存在だった。国崩しとも呼ばれるその兵器は、城門すら打ち破る威力を持つという。


「大筒か……。だが、そう易々と手に入るものではないぞ」


茅野が渋い顔で腕を組む。堺のボンゾウに問い合わせても、大筒そのものはよほどの大名でなければ扱えない、貴重かつ高価な代物だという返事だった。


「ワテの伝手で、一つだけ心当たりがおますわ」


文の中で、ボンゾウはそう記していた。かつて堺に出入りしていた老鍛冶師で、南蛮渡来の技術にも通じた稀代の技術者。だが今は世捨て人のように山奥に籠り、滅多に人と関わらないのだという。


「名を明石又兵衛(あかし またべえ)言いますねん。腕は確かですが、偏屈な御仁でしてなぁ。会うても、まともに話を聞いてくれるかどうか」


半信半疑のまま、練とゴンザは、その老鍛冶師を訪ねることにした。


---


#### 二


山深くにひっそりと構えられた鍛冶場は、外からは廃屋にしか見えなかった。だが中からは、絶え間なく槌音が響いている。


「――何用だ」


出迎えたのは、白髪交じりの髭を蓄えた、鋭い眼光の老人だった。全身に火傷や刃物傷の跡が刻まれており、長年鍛冶の道に生きてきた者だけが纏う独特の気配があった。


「明石又兵衛様、でしょうか。ボンゾウさんのご紹介で参りました」


「ボンゾウか。あの調子のいい男の紹介など、ろくなもんじゃなかろう」


にべもない返事に、練は怯みながらも用件を告げた。桜庭家の窮状、大筒の必要性、そして自分の持つ力について。


又兵衛はしばらく無言で聞いていたが、やがて鼻で笑った。


「道具を強くする力、だと? 世迷い言を」


「――信じてもらえないのは、当然だと思います。でも」


練は懐から、堺で強化した火縄銃を取り出し、又兵衛の前に差し出した。


「これを、見ていただけませんか」


訝しげな顔で銃を受け取った又兵衛は、しげしげとそれを検分し始めた。銃身の内側、火薬の焼け跡、照準の精密さ――職人の目で、隅々まで確かめていく。


やがて、その表情がわずかに変わった。


「……この銃身、どういう鍛え方をした」


「鍛え方は、普通の物と変わりません。俺が、その道具の理解を深めて、強くしただけです」


「馬鹿な。この精度は、南蛮の名工が心血を注いでも出せる代物ではないぞ」


---


#### 三


半信半疑ながらも、又兵衛は練に鍛冶場の中を見せることを許した。そこには、南蛮渡来の技術書や、様々な火器の部品、そして未完成の大筒が一つ、無造作に置かれていた。


「これは……」


「――昔、とある里で作っていた代物だ。だが、今となっては意味のないものよ」


又兵衛の声に、隠しきれない苦さが滲んだ。練が問いかけると、又兵衛はぽつりぽつりと、自らの過去を語り始めた。


かつて彼は、優れた工匠たちが集った隠れ里の一員だった。争いを避け、技術のみを磨き続けてきたその里は、しかしある時、周囲の大名同士の争いに巻き込まれ、跡形もなく焼き払われてしまったのだという。


「儂だけが、たまたま外に出ていて生き残った。……仲間も、技術も、里そのものも、すべて灰になった」


「それは……」


「だから儂は、もう誰の力にもなるまいと決めた。技術は、争いのために使われるだけだとな」


重い沈黙が鍛冶場に落ちる。だが練は、しばらく考えたのち、静かに口を開いた。


「――俺も、争いのために強くなりたいわけじゃありません。ただ、守りたいものがあるだけです」


「守りたいもの、か」


「桜庭の家の人たちも、隠れ里の人たちも、皆、ただ生きたいだけなんです。それを踏みにじられないために、俺は道具の力を借りたい。……それは、間違ってますか」


真っ直ぐな言葉に、又兵衛はしばらく練の顔を見つめていた。やがて、深いため息とともに、彼は口を開いた。


「――一つだけ、試させてやる。この大筒、儂が仕上げの手ほどきをしてやろう。お前がそれを、どう強くするか見せてみい」


---


#### 四


それから数日、練は又兵衛のもとで、大筒の仕組みを徹底的に学んだ。火薬の配合比、砲身の鋳造、反動の制御、命中精度を左右する砲弾の形状――又兵衛の解説は、堺のボンゾウのそれよりもさらに専門的で、深いものだった。


理解度は、日を追うごとに着実に上がっていった。


```

理解度:8% → 42% → 67%

```


「まだまだだな。お前、儂の話を聞いただけで満足しとらんか」


厳しい言葉に、練は素直に頷いた。知識を得るだけでは足りない。実際に火薬を配合し、砲身を磨き、失敗を重ねる中で、練自身の中に「理解」が深く根付いていく。


十日目、練はついに、未完成だった大筒の前に立った。


「――やってみます」


震える手で砲身に触れ、念じる。強くなれ、と。


これまでにない量の熱が、練の掌から大筒へと流れ込んでいく感覚があった。歪んでいた砲身がまっすぐに整い、鋳造の粗が消え、鈍い光を放つ金属の輝きへと変わっていく。


```

強化完了

威力:×10万

射程:×50

反動制御:完全

```


轟音とともに、練の目の前で、数値がこれまでとは桁違いの伸びを見せていた。


「――化け物か、お前は」


又兵衛が呆然と呟く。試し撃ちのため向けられた大筒は、遠くの岩山の一角を、まるで爆発したかのように吹き飛ばしていた。


「これなら……蛇柳の本隊にも、対抗できるかもしれません」


震える声で呟く練の傍らで、又兵衛は複雑な表情を浮かべながら、それでも小さく頷いた。


「儂の技術が、また誰かを守るために使われるか。……皮肉なものよ」


老鍛冶師の目には、諦観とも期待ともつかない光が揺れていた。乱世の趨勢を左右しかねない一撃を得て、練たちの戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。


(第十話「明石又兵衛の教え」へ続く)


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