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強化倍率∞ ~最弱足軽、《道具超強化》だけで天下を獲った男~  作者: 伝説の男前
第一部 覚醒編

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第六話「帰路の激突」

#### 一


堺での滞在を終え、練たちは隠れ里への帰路についた。荷駄には、ボンゾウから譲り受けた火縄銃や火薬、南蛮渡来の道具がいくつも積まれている。


「兄さん、道中気ぃつけてな。蛇柳の手の者が、あちこちに目を光らせとるいう噂やさかい」


見送りに来たボンゾウの言葉に、練は頷きながらも、正直なところ実感が湧いていなかった。堺での数日は、まるで別世界のように穏やかだったからだ。


だが、その平穏は長くは続かなかった。


隠れ里まであと半日というところで、一行は街道を外れた林道に差し掛かった。周囲の気配が、明らかに変わっているのを、護衛の若侍の一人が真っ先に察知した。


「――誰か、いるぞ」


言葉が終わるより早く、林の中から矢が飛来した。


「散れ! 荷駄を守れ!」


護衛たちが叫びながら陣形を組む間もなく、複数の人影が林から飛び出してくる。手練れの野盗、あるいは蛇柳家に雇われた乱破(らっぱ)のような者たちだった。


「くそ、囲まれてる……!」


ゴンザが荷駄の陰に練を庇いながら、忌々しげに舌打ちする。数にして七、八人。護衛の若侍たちだけでは、明らかに分が悪い数だった。


---


#### 二


矢玉が飛び交う中、練は震える手で、堺から持ち帰った火縄銃を取り出した。


――理解度、34%。


決して高くはない。だが、何もしないよりはましだ。震える指で火薬を込め、火縄に火を移す。銃の扱い自体は、道中ボンゾウの手代に教わった付け焼き刃でしかない。それでも、練の頭の中には、はっきりと選択肢が浮かんでいた。


――強化しますか?


「……やります」


念じた瞬間、銃身が淡く熱を帯びた。強化はすでに済んでいる状態だったが、この極限状況の中で、練の集中力がさらにその力を引き出していく。


```

追加強化完了

装填速度:×15 → ×40

命中精度:×20 → ×55

```


震える手で狙いをつけ、引き金を引く。轟音とともに放たれた弾丸は、驚くほどまっすぐに、襲いかかろうとしていた野盗の一人の得物を弾き飛ばした。


「なっ……!?」


命中精度の異常な高さに、野盗たちの間に動揺が走る。だが、それも一瞬のことだった。


「怯むな! たかが火縄一丁だ!」


野太い声が響いた。指揮を執っているらしい男が、覆面越しに一行を睨みつけている。その物言いには、聞き覚えのある伝法な訛りがあった。


「――その声」


練は思わず息を呑んだ。覆面の下から覗く目つき、蓮っ葉な口調。忘れもしない、かつて自分を戦場に置き去りにした、あの元同陣の足軽の姿がそこにあった。


「鬼灯……!」


---


#### 三


覆面を外した男は、にやりと下卑た笑みを浮かべた。


「よお、生きてたのか、役立たずの兄さんよ」


「お前、なんで蛇柳の手先なんかに……!」


「なんでもクソもねぇよ。桜庭なんぞ、とうに沈む船だ。乗り換えて何が悪い」


悪びれる様子もなく言い放つ鬼灯に、練の胸に怒りとも失望ともつかない感情が渦巻いた。かつて同じ陣で肩を並べていたはずの男が、こうもあっさりと寝返るものかと、現代人としての感覚がまだ拒否感を覚えている。


「お前が持ってる噂の力とやら、俺も一枚噛ませてもらうぜ。蛇柳様に売り込みゃ、俺もようやく日の目を見れる」


「――そんな理由で、仲間を襲うのか」


「仲間? 笑わせるな。三日で置き去りにするような間柄、仲間とは言わねぇよ」


吐き捨てるような言葉に、練は言い返せなかった。事実、あの時の自分たちは、決して固い絆で結ばれた仲間ではなかった。ただの寄せ集めの雑兵に過ぎなかったのだ。


だが、それでも――。


「置き去りにされたのは、悔しかったです。……でも、あんたが今、これをやってる理由にはならない」


震える声で、それでも練ははっきりと言い切った。銃を構え直し、鬼灯へと狙いを定める。


「ほう。少しはいっぱしのこと言うようになったじゃねぇか」


鬼灯が刀を抜き、地を蹴って距離を詰めてきた。その速さは、練が到底反応できるものではない。


だが、練の傍らで、それを迎え撃つ影があった。


---


#### 四


「――其方の相手は、この私だ」


割り込んできたのは、明日香だった。傷はまだ完全ではないはずなのに、彼女は迎えに出た護衛の馬を借り、密かに一行を追ってきていたのだ。


小太刀を構えた明日香が、鬼灯の刀を鮮やかに受け流す。桜庭家に伝わる剣術は、決して伊達ではなかった。


「明日香様! 何故ここに……!」


「其方一人に、任せてはおけぬだろう」


言葉少なに答えながらも、明日香の剣筋は鋭く、鬼灯を押し込んでいく。その隙に、練は震える手で銃を構え直した。


――理解しろ。この銃のことを、もっと。


必死に頭の中で、火縄銃の仕組みを、堺で学んだ知識を反芻する。火薬の配合、弾道の計算、銃身内の螺旋――理解度の数字が、じりじりと上がっていくのが分かった。


```

理解度:34% → 51%

追加強化完了

命中精度:×55 → ×120

```


「明日香様、離れて!」


叫ぶと同時に、練は引き金を引いた。轟音とともに放たれた弾丸は、鬼灯の刀を弾き飛ばし、そのまま彼の肩を掠めた。


「ぐああっ!」


鬼灯が悲鳴を上げてよろめく。他の野盗たちも、この異常な命中精度を目の当たりにし、次々と戦意を失っていった。


「――ひとまず、退くぞ!」


鬼灯の号令に、野盗たちは肩を貸し合いながら林の奥へと逃げていった。


戦いの余韻の中、練はへなへなとその場に座り込んだ。銃を握りしめた手が、まだ小刻みに震えている。


「……大丈夫か」


明日香が歩み寄り、練の肩に手を置いた。その表情には、これまでにない、確かな信頼の色が浮かんでいた。


「見事だったぞ、練」


初めて名を呼ばれ、練は驚いたように顔を上げた。恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、明日香はもう一度、はっきりと言葉を継いだ。


「其方の力は、もはや道具のせいなどではない。其方自身の力だ。……胸を張れ」


その言葉に、練は何も言い返せなかった。ただ、胸の奥に、これまで感じたことのない温かい何かが広がっていくのを感じていた。


遠くの空に、夕焼けが滲み始めている。まだ乱世の激流は続くだろう。だが、この瞬間だけは、確かな安堵と、小さな誇りが、練の胸を満たしていた。


(第七話「隠れ里の攻防」へ続く)


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