表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強化倍率∞ ~最弱足軽、《道具超強化》だけで天下を獲った男~  作者: 伝説の男前
第一部 覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/12

第三話「置き去りの陣」

#### 一


街道を避け、獣道を辿ること半日。ゴンザたち一行は、かつて練が置き去りにされた陣の跡地近くまで戻ってきていた。


「なんで、わざわざこっちに」


「馬鹿、逆だ。戦のあった場所の方が、今は却って敵の目が届かねぇ。焼け跡を漁る火事場泥棒とでも思われりゃ、それまでよ」


ゴンザの読みは的確だった。焼け焦げた旗指物や、壊れた荷駄が散乱する野営地の跡には、人の気配がほとんどなかった。だが、その静けさの中で、練はふと、うめき声のようなものを耳にした。


「……声、しませんでした?」


「気のせいじゃねぇか」


「いえ、確かに」


音を頼りに藪をかき分けると、崩れた荷駄の陰に、若い女が倒れていた。武家の娘らしい上等な小袖を纏っているが、袖も裾も泥と血で汚れている。傍らには折れた小太刀が転がっていた。


「――こ、こんなところに、なんで」


慌てて駆け寄ると、女はうっすらと目を開けた。気丈な光を宿した瞳が、練を睨むように見上げてくる。


「……足軽風情が。近寄るな」


弱々しい声のわりに、言葉には鋭い刺があった。だが、その気丈さとは裏腹に、彼女の右足には深い傷があり、まともに動ける状態ではなさそうだった。


「動くなよ、変に触ったら余計に悪くなる」


ゴンザが慣れた手つきで傷の具合を確かめる。女は歯を食いしばりながらも、抵抗する気力すら残っていないのか、大人しく身を任せた。


「儂は雑兵上がりの目利きだ。多少の手当てぐらいは分かる。だが、この傷、放っときゃ膿む。どこかで落ち着いて手当てしねぇとな」


「……お前たちに、借りを作るつもりはない」


「そう強がるな、嬢ちゃん。命あっての物種だぞ」


女はきつく唇を噛んだまま、それでも反論はしなかった。よほど痛むのだろう、額には脂汗が滲んでいる。


---


#### 二


女の名は、桜庭明日香(さくらば あすか)というらしい。この地を治めていた小さな国衆――桜庭家の一人娘だった。先の敗戦で城が落ち、逃げる途中ではぐれ、負傷したまま一人でここまで辿り着いたのだという。


「桜庭様の……」


練はその名を聞いて、はっとした。自分がかつて紛れ込んでいた足軽隊は、まさにこの桜庭家に仕えるものだった。あの敗走の混乱も、この娘の家が引き起こしたものだったのだ。


「城は落ちた。父上は討ち死にされたと聞いた。もはや……桜庭の家に、明日はない」


淡々と語る声の端に、押し殺しきれない絶望が滲んでいた。明日香は視線を逸らし、それ以上何も語ろうとしなかった。


一行は、近くにあった小さな祠に身を隠し、ひとまず休むことにした。ゴンザが手持ちの薬草で応急の手当てを施す間、練は焚き火の準備をしながら、ちらちらと明日香の様子を窺っていた。


気位が高く、決して弱音を吐かない。だがその瞳の奥には、深い孤独と焦りが見え隠れしている。練には、その気持ちが少しだけ分かる気がした。何もかもを一度に失い、頼れるものが何もなくなる恐怖――それは、この世界に放り込まれた自分自身の恐怖と、どこか重なっていた。


「――何を見ている」


視線に気づいた明日香が、鋭く睨みつけてくる。


「あ、いえ、その……大丈夫かなと」


「案ずるな。すぐに動けるようになる。そうしたら、桜庭の家を再興するために動かねばならぬ」


強がる言葉とは裏腹に、その声は弱々しく震えていた。練は何も言えず、ただ焚き火に薪を足すことしかできなかった。


---


#### 三


夜半、遠くから馬蹄の音と、松明の明かりが近づいてくるのが見えた。


「まずいぞ、敵の残党狩りだ」


ゴンザが緊張した声で告げる。桜庭家を滅ぼした側の兵たちが、生き残りを狩り出すために近隣を捜索しているのだろう。動けない明日香を抱えたまま、逃げ切れる距離ではなかった。


「隠れる場所は……」


「もう遅い。灯りに気づかれた」


祠の周囲を松明の明かりが囲み始める。数にして十人ほどの武装した兵。とても、はぐれ者の一行が太刀打ちできる相手ではない。


「儂が引き付ける。お前らはその隙に――」


ゴンザが飛び出そうとするのを、練は思わず腕を掴んで止めた。


「待ってください」


「何を悠長な」


「俺に……考えがあります」


震える声だったが、練の目には、これまでとは違う光が宿っていた。背負っていた竹束を下ろし、祠の入り口に立てかける。


「みんな、この後ろに」


「そんな竹束一枚で、何ができるってんだ」


「試させてください。……お願いします」


有無を言わさぬ練の様子に、ゴンザは戸惑いながらも、明日香を抱えて竹束の陰に身を寄せた。


やがて、兵たちの一人が祠を見つけ、槍を構えて突進してきた。松明の明かりに照らされたその穂先が、まっすぐ竹束に突き立てられる。


――ガッ、という鈍い音。


槍の穂先は、竹束の表面にわずかな傷をつけただけで、それ以上は一寸たりとも進まなかった。まるで岩に突き当たったかのように、兵は弾かれてよろめいた。


「な、なんだこの盾は……!」


---


#### 四


驚愕する兵たちを前に、練は震える足で竹束の傍らに立った。


「みんな、道具のせいにしないでください。……悪いのは、俺です。俺がこの盾を、少しだけ丈夫にしただけです」


言葉とは裏腹に、声は情けなく震えている。だがその場に踏みとどまったこと自体が、練にとっては大きな一歩だった。


兵の一人が業を煮やし、刀を抜いて斬りかかってきた。練は反射的に、腰の脇差を抜いて受け止める。金属同士がぶつかる甲高い音がして――次の瞬間、相手の刀身が根元から折れ飛んだ。


「馬鹿な……!」


理解不能な現象を前に、兵たちの間に動揺が広がった。松明の炎に照らされた練の姿は、震えながらも、確かにそこに立ち続けていた。


「もう一度言います。……道具のせいにしないでください。俺が、俺の意志で、これをやりました」


弱々しい声だったが、そこには初めて、自分自身の言葉としての強さが宿っていた。ゴンザが、そして明日香が、驚いた顔でその背中を見つめている。


しばらくの睨み合いのあと、兵の隊長らしき男が忌々しげに舌打ちした。


「……深追いは無用だ。引くぞ」


松明の明かりが遠ざかっていく。緊張の糸が切れたように、練はその場にへたり込んだ。


「大丈夫か、坊主」


ゴンザが駆け寄り、肩を支えてくれる。荒い息をつきながら、練は小さく頷いた。


少し離れた場所で、明日香がじっと練を見つめていた。その瞳には、先ほどまでの敵意ではなく、何か戸惑うような、値踏みするような色が浮かんでいた。


「……お前、何者だ」


問いかけに、練は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ただの、役立たずの足軽です。……道具のことだけは、ちょっと詳しくなりたいと思ってるだけの」


その言葉に、明日香は何も答えなかった。だが焚き火の明かりの中、その横顔には、わずかながら険しさが和らいだ色が浮かんでいた。


夜はまだ深い。だが遠くの空が、わずかに白み始めているのが見えた。


(第四話「桜庭家再興」へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ