雑歌
〘雑歌〙
『雑』とは、『さまざま』という意味である。
〘雑歌〙は、〘挽歌〙〘相聞歌〙以外の歌である。
そのため、内容が幅広く、多種多様な歌が多い。
『神に捧げる歌』
『天地の恵みに感謝する歌』
『國の彌榮を言祝ぐ歌』
『天皇を讃える歌』
『自然を慈しむ歌』
『旅の感動や孤独を詠った歌』
『人生の無常を詠った歌』
〘雑歌〙は内容が様々なので、古代の実際の生活や社会がわかる。
『山常庭 村山有等取與呂布
天乃香具山騰立
國見乎為者國原波
煙立龍海原波
加萬目立多都怜■國
曽蜻嶋八間跡能國者』
舒明天皇
大和には、多くの山がある。
しかし、その中でも一番美しく聳え立つ山は天の香具山である。
その頂に登って國を見渡すと、國中には炊煙が立ち、海上を鴎が飛んでいる。
人々は食事の支度をし、鳥は自由に空を飛んでいる。
人も動物も、安心してこの國で生きている証である。
なんと美しい國であろうか。
秋津島大和の國は。
『金野乃 美草苅葺
屋杼礼里之 兎道乃宮子能 借五百礒所念』
額田王
宇治の仮の宮は、秋の野の草を刈り取って屋根を葺いただけの質素な宮殿であった。
けれど、とても懐かしく思う。
『熟田津尓 船乗世武登
月待者 潮毛可奈比沼 今者許藝乞菜』
額田王
熟田津で、船に乗ろうと月を待っていた。
すると、波が静まった。
さあ。
今こそ漕ぎ出そう。
『君之齒母 吾代毛所知哉
磐代乃 岡之草根乎 去来結手名』
中皇命
あなたの代も、わたしの代も、どれほど続くのかを誰か知っているのでしょうか。
磐代の草の根を結びつけ、わたしたちの代が末長く続くことを祈りましょう。
『高山波 雲根火雄男志等
耳梨與 相諍競伎
神代従 如此尓有良之
古昔母 然尓有許曽
虚蝉毛 嬬乎 相挌良思吉』
天智天皇
神代から、香具山は畝傍山を愛していた。
耳成山もまた、畝傍山を愛していた。
古から香具山と耳成山は、畝傍山を妻にしようと争ってきた。
この山々と同じように、今の時代の人も愛する人を取り合って争うらしい。
人は幾ら年月を重ねようとも、変わることはない。
『高山与 耳梨山与
相之時 立見尓来之 伊奈美國波良』
天智天皇
印南の國原では、香具山と耳成山が争っているのを大神が立って見に来られた。
『渡津海乃 豊旗雲尓
伊理比沙之 今夜乃月夜 清明己曽』
天智天皇
海神が宿る海の上にたなびく大きな雲に、夕日がさしている。
今宵の月は、明るく美しい光を放つのであろう。
これは、神のお導きであろう。
『味酒 三輪乃山
青丹吉 奈良能山乃
山際 伊隠萬代
道隈 伊積流萬代尓
委曲毛 見管行武雄
數々毛 見放武八萬雄
情無 雲乃 隠障倍之也』
額田王
尊く氣高い三輪山。
この美しい山が奈良の山々に隠されてしまうまで、道の曲がり角が幾重にも重なるまで、わたしはその姿を心に焼き付けて行きたい。
けれど、その山を雲は隠そうとする。
わたしは、魂に刻みたいのに。
『三吉野之 耳我嶺尓
時無曽 雪者落家留
間無曽 雨者零計類
其雪乃 時無如
其雨乃 間無如
隈毛不落 思乍叙来 其山道乎』
天武天皇
吉野の耳我の山には、時知らず雪が降る。
絶え間なく、雨が降る。
時知らず降る雪のように、絶え間なく降る雨のように、不安に駆られながらも何度もこの山道の角を曲がった。
『淑人乃 良跡吉見而
好常言師 芳野吉見与 良人四来三』
天武天皇
かつて、淑き人が良く見て、好い所であると言った吉野を吉く見なさい。
善き人よ、この吉野をよく見なさい。
『古 人尓和礼有哉
樂浪乃 故京乎 見者悲寸』
高市古人
わたしは、遠い昔に生きていた人なのであろうか。
楽浪の荒れ果てた古き都を見ると、もの悲しく感じる。
『樂浪乃 國都美神乃
浦佐備而 荒有京 見者悲毛』
高市古人
楽浪を守られている神のお力も、とうとう衰えてしまったのであろうか。
荒れ果てた都を目にするのは、とても悲しいことである。
『八隅知之 吾大王之
所聞食 天下尓
國者思毛 澤二雖有
山川之 清河内跡
御心乎 吉野乃國之
花散相 秋津乃野邊尓
宮柱 太敷座波
百礒城乃 大宮人者
船並弖 旦川渡
舟競 夕河渡
此川乃 絶事奈久
此山乃 弥高思良珠
水激 瀧之宮子波 見礼跡不飽可聞』
柿本人麻呂
我が大君がお治めになる天の下には、多くの國がある。
山や川が清く美しい河内である吉野の國は、大君の御心をお寄せになる國である。
大君は、花が散る秋津野の野辺に太く立派な宮柱をお建てになった。
朝、大宮人たちは舟を並べて川を渡る。
夕、競うようにして川を渡る。
この川の水が絶えることなく、この山が高く聳え立つように、激しく水が流れる滝の宮はいつまで見ていても飽きることはない。
『雖見飽奴 吉野乃河之
常滑乃 絶事無久 復還見牟』
柿本人麻呂
見飽きることのない吉野川。
水底の岩に付いている苔は、流れ続ける清流によって永遠に生え続ける。
わたしは、ここに何度も戻って来て眺めたい。
『安見知之 吾大王
神長柄 神佐備世須登
芳野川 多藝津河内尓
高殿乎 高知座而
上立 國見乎為勢婆
疊有 青垣山
々神乃 奉御調等
春部者 花挿頭持
秋立者 黄葉頭刺理[一云 黄葉加射之]
逝副 川之神母
大御食尓 仕奉等
上瀬尓 鵜川乎立
下瀬尓 小網刺渡
山川母 依弖奉流 神乃御代鴨』
柿本人麻呂
余すところなく天下を治めておられる我が大君は、神であるままに神らしくなさっている。
激しく水が流れる吉野川の河内に高殿を高く建てられてお登りになり、國見をなさると、幾重にも重なる青い垣根のような山々の神が貢物を捧げる。
春は、花々が咲き誇る。
秋は、色づく黄葉が照り輝く。
高殿の側を流れる川の神も大君にお食事を捧げようと、上流では鵜飼を設け、下流では網を渡している。
山も川も、このように大君に仕える、神の御代である。
『真草苅 荒野者雖有
黄葉 過去君之 形見跡曽来師』
柿本人麻呂
ここは草を刈るだけの荒野ではあるけれど、わたしにとっては、とても大切な場所である。
黄葉のように去って逝ってしまったあなたとの思い出が残っている場所だから。
『八隅知之 和期大王
高照 日之皇子
麁妙乃 藤井我原尓
大御門 始賜而
埴安乃 堤上尓
在立之 見之賜者
日本乃 青香具山者
日經乃 大御門尓
春山跡 之美佐備立有
畝火乃 此美豆山者
日緯能 大御門尓
弥豆山跡 山佐備伊座
耳為之 青菅山者
背友乃 大御門尓
宣名倍 神佐備立有
名細 吉野乃山者
影友乃 大御門従
雲居尓曽 遠久有家留
高知也 天之御蔭
天知也 日之御影乃
水許曽婆 常尓有米 御井之清水』
よみ人しらず
隅々まで天下を治めておられる我が大君、日の御子が、ここ藤井が原の地に大宮を造られた。
埴安の池の堤の上にお立ちになって、ご覧になった。
ここ大和の國の青々とした香具山は、東の御門の向かいに、春の山らしく木々を茂らせている。
瑞々しい畝傍山は、西の御門の向かいに、瑞山らしく立っている。
清々しい耳成山は、北の御門の向かいに、美しく神々しく聳え立っている。
『佳し』という名の吉野の山は、南の御門から雲の彼方まで連なっている。
崇高な山々に守られたこの地で、高く広く聳え立つ大宮。
その宮で、水は永久に湧き続けるであろう。
御井の清らかな水よ。
『去来子等 早日本邊
大伴乃 御津乃濱松 待戀奴良武』
山上憶良
さあ。
若者たちよ。
早く日本へ帰ろう。
難波の御津の浜松が、あなた達の帰りを待っている。
『葦邊行 鴨之羽我比尓
霜零而 寒暮夕 倭之所念』
志貴皇子
葦の生える水辺を歩く鴨の羽に霜が降っている。
寒い夕暮れになると、大和を思い出す。
『大伴乃 高師能濱乃
松之根乎 枕宿杼 家之所偲由』
置始東人
大伴の高師にある松の根を枕にして寝ていると、大和が恋しく思われる。
『大夫之 鞆乃音為奈利
物部乃 大臣 楯立良思母』
元明天皇
武人たちが、戦の準備をしている。
物部の大臣が、警護のために楯を立てている。
『吾大王 物莫御念
須賣神乃 嗣而賜流 吾莫勿久尓』
御名部皇女
我が大君よ。
ご心配なさらないでください。
皇祖の神が大君に賜ったわたしがおります。
必ず、わたしが大君をお守りいたしましょう。
『天皇乃 御命畏美
柔備尓之 家乎擇
隠國乃 泊瀬乃川尓
舼浮而 吾行河乃
川隈之 八十阿不落
万段 顧為乍
玉桙乃 道行晩
青丹吉 楢乃京師乃
佐保川尓 伊去至而
我宿有 衣乃上従
朝月夜 清尓見者
栲乃穂尓 夜之霜落
磐床等 川之水凝
冷夜乎 息言無久
通乍 作家尓
千代二手 来座多公与 吾毛通武』
よみ人しらず
我が大君からお言葉を賜り、慣れ親しんだ我が家を後にし、初瀬川に舟を浮かべました。
初瀬川には幾つもの曲がり角があり、その曲がり角を曲がるたびに振り返っては我が家の方を見ました。
舟を進めていく内に日が暮れ、奈良の都の佐保川に至りました。
仮寝のために羽織った布の上から、明け方の月夜を見ました。
真っ白な霜が降り、岩床のように川の水が凝り固まっていました。
そんな寒い夜でも、休むことなく通い続けて新しい宮を造りました。
いつまでもお住みになられますように。
大君よ。
わたしも、いつまでもお仕えいたします。
『皇者 神二四座者
天雲之 雷之上尓 廬為流鴨』
柿本人麻呂
天皇は神であらせられるので、天雲の雷の上の仮宮にいらっしゃる。
『天降就 神乃香山
打靡 春去来者
櫻花 木暗茂
松風丹 池浪飆
邊都遍者 阿遅村動
奥邊者 鴨妻喚
百式乃 大宮人乃
去出 榜来舟者
竿梶母 無而佐夫之毛 榜与雖思』
鴨足人
天から降ってきて鎮座したという天の香具山。
草木がなびく春になると、木陰が暗くなるほど桜が咲き渡る。
松風を受けて池の波が立ち、岸辺ではあじ鴨の群れが騒ぐ。
池の沖の方では、鴨が番を呼ぶ。
宮仕えの人々が御殿から去ってしまい、舟を漕ごうにも棹も櫂もない。
心は重く、心は離れない。
漕いで行こうと思っていたのに。
『淡海乃海 夕浪千鳥
汝鳴者 情毛思努尓 古所念』
柿本人麻呂
夕暮れ、近江の海で千鳥が鳴いている。
その声を聞くと、昔を思い出して胸が張り裂けるような思いがする。
『見吉野之 芳野乃宮者
山可良志 貴有師
水可良思 清有師
天地与 長久
萬代尓 不改将有 行幸之宮』
大伴旅人
吉野の宮は美しい。
山は貴く、川は清らかである。
天地と共に長く久しく、 万代に変わることはないであろう。
大君が行幸される吉野の宮よ。
『天地之 分時従
神左備手 高貴寸
駿河有 布士能高嶺乎
天原 振放見者
度日之 陰毛隠比
照月乃 光毛不見
白雲母 伊去波伐加利
時自久曽 雪者落家留
語告 言継将徃 不盡能高嶺者』
山部赤人
天地が分かれし時からずっと、神々しく高く貴い駿河の富士の高嶺を天高く仰ぎ見ると、空を渡る太陽の光は隠れ、照る月の光も見えない。
白雲も進むことができず、時を忘れて雪が降り続いている。
これからも語り継いでいこう。
富士の高嶺のことを。
『田兒之浦従 打出而見者
真白衣 不盡能高嶺尓 雪波零家留』
山部赤人
田子の浦から眺める富士山は、真っ白な雪に覆われている。
降り続ける雪は、更に富士山を白く染めていくのであろう。
『萱草 吾紐二付
香具山乃 故去之里乎 忘之為』
大伴旅人
忘れ草を服の紐に付けた。
こうすれば、香具山のある、あの懐かしい古里を忘れることができる。
『験無 物乎不念者
一坏乃 濁酒乎 可飲有良師』
大伴旅人
考え迷っているよりも、一杯のにごり酒を飲んだ方が「まし」である。
『酒名乎 聖跡負師
古昔 大聖之 言乃宜左』
大伴旅人
酒の名を『聖』と名付けた古の聖人は、真に素晴らしい。
『古之 七賢
人等毛 欲為物者 酒西有良師』
大伴旅人
古の中国の七賢人も、欲しかったものは酒だったようだ。
『賢跡 物言従者
酒飲而 酔哭為師 益有良之』
大伴旅人
賢そうな顔をして理屈を並べるより、酒を飲んで酔って泣いた方がよほど「まし」である。
『将言為便 将為便不知
極 貴物者 酒西有良之』
大伴旅人
何を言うべきか、何を為すべきか分からない時は、貴い酒に頼るしかあるまい。
『中々尓 人跡不有者
酒壷二 成而師鴨 酒二染甞』
よみ人しらず
人間などやめて酒壺にでもなれば、いつでも酒を体に染み込ませることができる。
『今代尓之 樂有者
来生者 蟲尓鳥尓毛 吾羽成奈武』
大伴旅人
この世が楽しいのであれば、次の世は虫や鳥に生まれ変わってもかまわない。
『生者 遂毛死
物尓有者 今生在間者 樂乎有名』
大伴旅人
生きている人は、必ず死ぬ。
この世に生きている間は、楽しく生きたい。
『大汝 小彦名乃
将座 志都乃石室者 幾代将經』
生石真人
大國主命と少彦名命がお過ごしになられた志津の岩屋は、どれほどの年月が経っているのであろう。
『海若者 靈寸物香
淡路嶋 中尓立置而
白浪乎 伊与尓廻之
座待月 開乃門従者
暮去者 塩乎令満
明去者 塩乎令于
塩左為能 浪乎恐美
淡路嶋 礒隠居而
何時鴨 此夜乃将明跡
侍従尓 寐乃不勝宿者
瀧上乃 淺野之雉
開去歳 立動良之
率兒等 安倍而榜出牟 尓波母之頭氣師』
若宮年魚麻呂
海神は、靈妙な力をもっているのであろうか。
淡路島を海の中央に置き、白波を四國の伊予の國まで巡らせた。
明石海峡から、夕方には潮を満ちさせ、明け方には潮を引かせる。
この波の潮騒が恐ろしくて、淡路島の磯の陰に身を潜め、いつになったら夜が明けるのかと待っていた。
寝るに寝られず待っていると、滝の上の浅野の雉が、夜が明けたと騒ぎ出した。
さあ。
皆。
漕ぎ出そう。
今は海上も静かであるから。
『余能奈可波 牟奈之伎母乃等
志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理』
よみ人しらず
世の中が空しいものと知ると、益々悲しくなってくる。
『父母乎 美礼婆多布斗斯
妻子見礼婆 米具斯宇都久志
余能奈迦波 加久叙許等和理
母智騰利乃 可可良波志母与 由久弊斯良祢婆
宇既具都遠 奴伎都流其等久
布美奴伎提 由久智布比等波
伊波紀欲利 奈利提志比等迦
奈何名能良佐祢
阿米弊由迦婆 奈何麻尓麻尓
都智奈良婆 大王伊摩周
許能提羅周 日月能斯多波
雨麻久毛能 牟迦夫周伎波美
多尓具久能 佐和多流伎波美
企許斯遠周 久尓能麻保良叙
可尓迦久尓 保志伎麻尓麻尓 斯可尓波阿羅慈迦』
山上臣憶良
父や母を尊く思い、妻や子を愛しいと思う。
世の中の理とは、このようなことを言う。
鳥が罠にかかって逃れられないように、本来であれば家族への情を心に残したまま、家族と離れるなど、身を切られるほど辛いことである。
履き古した履物を脱ぎ捨てるように家族への情を振り切って旅立つなど、あなたは石や木から生まれた人なのか?
名を名乗ってみよ。
あなたが天へ行くのであれば、思うがままにすれば良い。
そして、もし地上にいるとしても、この地には大君がいらっしゃる。
地上を照らす太陽や月の下では、天雲が地の果てまで、ヒキガエルが這うような地の極みまで、隅々まで大君が統べる素晴らしい国である。
自分の望みのままに、家族への情を置き去りにして生きて良いわけがあるまい。
本当に、そのように生きて良いものなのか。
『宇利波米婆 胡藤母意母保由
久利波米婆 麻斯提斯農波由
伊豆久欲利 枳多利斯物能曽
麻奈迦比尓 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農』
山上臣憶良
瓜を食べると、子どものことが思い出される。
栗を食べると、ますます子どものことが恋しくなる。
子どもというものは、一体どこからやって来てくれるのであろう。
いつも心にかかって、夜も安らかに眠ることができない。
愛しい我が子よ。
『銀母 金母玉母
奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母』
山上臣憶良
どれほど素晴らしい銀であろうとも、どれほど輝やいている金であろうとも、どれほど美しい玉であろうとも、愛おしい子どもに勝るものはない。
『世間能 周弊奈伎物能波
年月波 奈何流々其等斯
等利都々伎 意比久留母能波
毛々久佐尓 勢米余利伎多流
遠等咩良何 遠等咩佐備周等
可羅多麻乎 多母等尓麻可志
[或有此句云 之路多倍乃 袖布利可伴之
久礼奈為乃 阿可毛須蘇毗伎]
余知古良等 手多豆佐波利提
阿蘇比家武 等伎能佐迦利乎
等々尾迦祢 周具斯野利都礼
美奈乃和多 迦具漏伎可美尓
伊都乃麻可 斯毛乃布利家武
久礼奈為能[一云 尓能保奈須] 意母提乃宇倍尓
伊豆久由可 斯和何伎多利斯
[一云 都祢奈利之 恵麻比麻欲伎 散久伴奈能
宇都呂比尓家利 余乃奈可伴 可久乃未奈良之]
麻周羅遠乃 遠刀古佐備周等
都流伎多智 許志尓刀利波枳
佐都由美乎 多尓伎利物知提
阿迦胡麻尓 志都久良宇知意伎
波比能利提 阿蘇比阿留伎斯
余乃奈迦野 都祢尓阿利家留
遠等毗良何 佐那周伊多斗乎
意斯比良伎 伊多度利与利提
麻多麻提乃 多麻提佐斯迦閇
佐祢斯欲能 伊久陀母阿羅祢婆
多都可豆慧 許志尓多何祢提
可由既婆 比等尓伊等波延
可久由既婆 比等尓邇久麻延
意余斯遠波 迦久能尾奈良志
多麻枳波流 伊能知遠志家騰 世武周弊母奈新』
山上憶良
世の中で何ともならないものとは、年月と共に年を取ることである。
そして、それに伴う苦しみである。
娘子が娘子らしく舶来物の玉を手首に巻き、〔あるいは真っ白な袖を振り交わし、真っ赤な裳裾をひきずって〕、同じ年ごろの子らと手を携えて遊んでいても、娘盛りを留めずに、ただただ時を過ごしてしまうと、黒かった髪の毛も、いつの間にか白髪まじりになる。
薄紅色であった顔には、いつの頃からか皺が刻まれる。
変わりなかった眉引きの笑顔も、まるで咲く花が散っていくようになる。
世の中とは、こういうものである。
若者が男らしく剣太刀を腰に帯び、狩りの弓を手に握り、倭文織の布を敷いた馬の鞍にまたがって遊び回った世の中も、いつまで続いたのであろう。
娘子たちが寝ている板戸を押し開き、探り寄せて手を交わし合い、共寝した夜はそれほど長くない。
それなのに、いつのまにか杖を握りしめて、腰に手をあてがい、こちらを歩けば人に厭われ、あちらを歩けば人に嫌われる。
老いるということは、こういうものらしい。
命は惜しいけれど、為す術はない。
『阿米都知能 等母尓比佐斯久
伊比都夏等 許能久斯美多麻 志可志家良斯母』
山上憶良
この靈石は天地とともに永遠に語り継ぐために、ここに置かれた。
『武都紀多知 波流能吉多良婆
可久斯許曽 烏梅乎乎岐都々 多努之岐乎倍米』
紀卿
正月になり、春がきた。
梅の花を愛でながら、楽しい時を過ごそう。
『烏梅能波奈 伊麻佐家留期等
知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛』
小野老
美しく咲く梅の花。
このまま咲き続けて、散り過ぎないでほしい。
このまま、わたしの家の庭で咲いていてほしい。
『波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能
烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武』
山上憶良
春になると、真っ先に咲く梅の花。
わたしは一人で梅の花を眺めながら、春の一日を過ごすのであろうか。
『烏梅能波奈 佐企弖知理奈波
佐久良婆那 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也』
張氏福子
もし梅の花が咲いて散ったとしても、次は桜の花が咲く。
『萬世尓 得之波岐布得母
烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子』
佐氏子首
万代に時は流れ過ぎ去ってしまうが、梅の花は絶えることなく咲き渡るであろう。
『代欲理 云傳久良久
虚見通 倭國者
皇神能 伊都久志吉國
言靈能 佐吉播布國等
加多利継 伊比都賀比計理
今世能 人母許等期等
目前尓 見在知在
人佐播尓 満弖播阿礼等母
高光 日御朝庭
神奈我良 愛能盛尓
天下 奏多麻比志
家子等 撰多麻比天
勅旨[反云 大命] 戴持弖
唐能 遠境尓
都加播佐礼 麻加利伊麻勢
宇奈原能 邊尓母奥尓母
神豆麻利 宇志播吉伊麻須
諸能 大御神等
船舳尓[反云 布奈能閇尓] 道引麻遠志
天地能 大御神等
倭 大國靈
久堅能 阿麻能見虚喩
阿麻賀氣利 見渡多麻比
事畢 還日者
又更 大御神等
船舳尓 御手打掛弖
墨縄遠 播倍多留期等久
阿遅遠志 智可能岫欲利
大伴 御津濱備尓
多太泊尓 美船播将泊
都々美無久 佐伎久伊麻志弖 速歸坐勢』
山上憶良
神代から言い伝えられてきた。
大和の國は、皇祖の神の厳かな國である。
言靈が幸をもたらす國と語り継ぎ、言い継がれて来た國である。
今の世の人々も悉く目の当たりにし、見て知っている。
人は多く満ちてはいるけれど、高照らす日の朝廷に神として天下をお治めになっておられる天皇が慈しまれ、お選びになった家の者として大御言を発せられたあなたは、その勅命により大唐の遠い境に遣わされる。
ご出発の際には、岸や沖に留まり海原を支配なされている諸々の神々が舳先に立ってお導きになる。
天地の神々、大和の大神は天空を駆け巡って大海原をお見渡しになる。
使命を終えてお帰りになる日は、神々が再び船の舳先に御手をお掛け船をお引きになり、墨縄で引いた線のように値嘉の岬から大伴の御津の浜辺まで真っ直ぐに船は到着されるでしょう。
滞りなく、ご無事で。
一刻も早くお帰りください。
『若浦尓 塩満来者
滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡』
山部赤人
若の浦に潮が満ちると、干潟が水で覆われる。
葦の生えている岸辺を目指して、鶴が鳴きながら渡る。
『嶋隠 吾榜来者
乏毳 倭邊上 真熊野之船』
山部赤人
幾つもの小島を避けて舟を漕いでいると、大和へ向かう船が見えた。
なんと羨ましいことよ。
『八隅知之 吾大王乃
御食國者 日本毛此間毛 同登曽念』
大伴旅人
わが大君が治められる國は、大和もここも同じと思う。
『大汝 小彦名能
神社者 名著始鷄目
名耳乎 名兒山跡負而
吾戀之 干重之一重裳 奈具佐米七國』
大伴坂上郎女
大國主命と少彦名命は、この山を名児山と名付けた。
「心が和む」という意味であるのに、わたしの心は千重の一重も和むことはない。
『橘者 實左倍花左倍
其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之樹』
聖武天皇
橘は、実も花も葉も、枝に雪が降り積もっても、枯れることのない常世の木である。
『奥山之 真木葉凌
零雪乃 零者雖益 地尓落目八方』
橘奈良麻呂
奥山の真木の葉がしなるほどの雪が降っても、橘の実は地に落ちることはない。
『御食國 志麻乃海部有之
真熊野之 小船尓乗而 奥部榜所見』
大伴家持
天皇にお食事を献上する志摩の海人であろうか。
沖に向かって、熊野の小舟を漕いでいる。
『靈剋 壽者不知
松之枝 結情者 長等曽念』
大伴家持
命の長さは分からない。
命が続いてほしいと願って、わたしは松の枝を結ぶ。
『三諸就 三輪山見者
隠口乃 始瀬之桧原 所念鴨』
よみ人しらず
神々がいらっしゃるという三輪山を眺めていると、その奥にある初瀬の檜原を思い出す。
『昔者之 事波不知乎
我見而毛 久成奴 天之香具山』
よみ人しらず
古のことは知らない。
ただ、長い間眺めていても、香具山は何も変わらない。
『佐桧乃熊 桧隅川之
瀬乎早 君之手取者 将縁言毳』
よみ人しらず
檜隈、そこを流れる檜隈川の流れが早いので、思わずあなたの手を取ってしまったら、きっと噂がたってしまうのでしょうね。
『古毛 如此聞乍哉
偲兼 此古河之 清瀬之音矣』
よみ人しらず
古の人々も、同じように聞いたのであろうか。
布留川から聞こえてくる清らかな音を。
『古尓 有險人母
如吾等架 弥和乃桧原尓 挿頭折兼』
柿本人麻呂
古の人々も、同じように祈りを捧げたのであろうか。
三輪の檜原で、檜の小枝を髪に挿して。
『斐太人之 真木流云
尓布乃河 事者雖通 船會不通』
よみ人しらず
飛騨の人は、伐った木を丹生の川に流すと言われている。
この川で言葉を交わすことはできるが、舟は通ることができない。
『足病之 山海石榴開
八峯越 鹿待君之 伊波比嬬可聞』
よみ人しらず
山椿が咲く季節、山の峰々を越えて鹿を待つあなた。
わたしはただ、あなたのご無事を身を清めて祈って待つだけです。
『暁跡 夜烏雖鳴
此山上之 木末之於者 未静之』
よみ人知らず
夜烏は夜明けを告げるが、木々の梢はまだ寝静まっている。
『春野尓 須美礼採尓等
来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来』
山部赤人
春の野に咲く菫を摘みに行ったけれど、懐かしく感じて一夜を過ごしてしまった。
『宇乃花能 過者惜香
霍公鳥 雨間毛不置 従此間喧渡』
大伴家持
散ってしまった卯の花を恋しく思っているのか、雨が降る中で時鳥が鳴いている。
『味酒 三輪乃祝之
山照 秋乃黄葉乃 散莫惜毛』
長屋王
神々しい三輪山を照らす黄葉が散ってしまうのは惜しいものだ。
『芽之花 乎花葛花 瞿麦之花
姫部志 又藤袴 朝皃之花 』
山上憶良
萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、また藤袴、朝顔の花。
『秋付者 尾花我上尓
置露乃 應消毛吾者 所念香聞』
日置長枝娘子
秋になると尾花の上に置く露のように、わたしも消えてしまうように思われてなりません。
『吾去者 七日者不過
龍田彦 勤此花乎 風尓莫落』
高橋虫麻呂
わたしたちの旅は、七日は過ぎない。
龍田彦よ。
どうか、桜の花を風で散らさないでくれ。
早く帰ってくるから。
『嶋山乎 射徃廻流
河副乃 丘邊道従
昨日己曽 吾超来壮鹿
一夜耳 宿有之柄二
峯上之 櫻花者
瀧之瀬従 落堕而流
君之将見 其日左右庭
山下之 風莫吹登
打越而 名二負有社尓 風祭為奈』
高橋虫麻呂
島山を行き巡って流れる川沿いの岡辺の道を、昨日わたしは越えてきた。
ただ一夜だけ泊まった峰で桜を見た。
桜の花は舞い落ち、流れの早い滝の瀬を流れる。
我が君がご覧になるであろう、その日まで。
どうか山おろしの風よ吹いてくれるな。
そう願って、足早に有名な神社へ向かい、風の神にお祈りした。
『物皆者 新吉
唯 人者舊之 應宜宜』
よみ人ひらず
物は、全て新しいものが良い。
人は、古い方が良い。
『天原 徃射跡
白檀 挽而隠在 月人壮子』
よみ人しらず
天の原で白木の弓をつがえながら、月の人が隠れて獲物を狙っている。
『大坂乎 吾越来者
二上尓 黄葉流 志具礼零乍』
よみ人しらず
時雨が降り続ける中、大阪を越えると二上山に流れる川が黄葉色に染まっていた。
『高松之 此峯迫尓
笠立而 盈盛有 秋香乃吉者』
よみ人しらず
高松の峰が狭く感じるほど、多くの松茸が傘を立てている。
秋の芳しい香りが満ちている。
『葦原笶 水穂之國丹
手向為跡 天降座兼
五百万 千万神之
神代従 云續来在
甘南備乃 三諸山者
春去者 春霞立
秋徃者 紅丹穂經
甘甞備乃 三諸乃神之
帶為 明日香之河之
水尾速 生多米難
石枕 蘿生左右二
新夜乃 好去通牟
事計 夢尓令見社
劔刀 齊祭 神二師座者』
よみ人しらず
葦原の瑞穂の國を治められるために、五百万千万の神々が天より降りていらした。
その神代の時代から、三諸の山は数多の神が鎮座されていると語り継がれている。
三諸の山は、春になると霞が立ち、秋になると紅色に染まる。
その三諸の山におわす神が帯にしておられる明日香川。
明日香川は流れが早いため、岩に苔が生えにくい。
この石の枕が苔むすまで、毎夜お迎えいたします。
どうか、夢にお示しください。
どのようにすれば、通い続けることができるのかを。
われらの神よ。
『伎波都久乃 乎加能久君美良
和礼都賣杼 故尓毛美多奈布 西奈等都麻佐祢』
よみ人しらず
「伎波都久の岡の茎韮を摘んでいるけれど、籠は全く満たされない」
「では、あなたはあの人と一緒に摘みなさい」
『伊可尓安流 布勢能宇良曽毛
許己太久尓 吉民我弥世武等 和礼乎等登牟流』
田辺福麻呂
あなたがわたしを引き留めてまで見せたいという布勢の浦とは、どれほど美しい所なのでしょうか。
『白玉乎 都々美氐夜良婆
安夜女具佐 波奈多知婆奈尓 安倍母奴久我祢』
大伴家持
真珠を包んで贈れば、菖蒲草や橘と共に紐に通してくれるであろうか。
『礒上之 都萬麻乎見者
根乎延而 年深有之 神尒備尓家里』
大伴家持
磯の上の都萬麻を見ると、深く根を張って強く生きていた。
長い年月を重ねているのであろう。
なんと神々しいことであろうか。
『大夫者 名乎之立倍之
後代尓 聞継人毛 可多里都具我祢』
大伴家持
名を立てよう。
後の世の人々に語り継いでもらえるように。
〘雑歌〙は、さまざまな【世界】との【結びつき】を詠った歌である。
『神』との【結びつき】
『天地』との【結びつき】
『國』との【結びつき】
『天皇』との【結びつき】
『自然』との【結びつき】
『旅』との【結びつき】
『人』との【結びつき】
【魂】がそれぞれの【世界】と【結ぶ】ことにより、【心】が生まれる。
【魂】が『神』と【結ぶ】ことにより、畏敬の【心】が生まれる。
【魂】が『天地』と【結ぶ】ことにより、感謝の【心】が生まれる。
【魂】が『國』と【結ぶ】ことにより、忠誠の【心】が生まれる。
【魂】が『天皇』と【結ぶ】ことにより、敬愛の【心】が生まれる。
【魂】が『自然』と【結ぶ】ことにより、慈愛の【心】が生まれる。
【魂】が『旅』と【結ぶ】ことにより、郷愁の【心】が生まれる。
【魂】が『人』と【結ぶ】ことにより、親愛の【心】が生まれる。
【魂】から生まれた【心】を響かせる〘雑歌〙は、【魂】と【世界】を【結び】、【心】と【世界】を【繋ぐ】ための歌である。
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〖万葉集〗の歌は、【大和言葉】と【万葉仮名】で表現されている。
大陸より漢字が伝来するまで、古代日本には【文字】が無かった。
しかし、『話し言葉』である【大和言葉】は存在していた。
【大和言葉】は、【和語】とも呼ばれる。
【大和言葉】は、【音】が【言葉】になったものである。
古代日本は、【音】で満ちあふれた【國】であった。
神楽舞では、巫女が鈴を鳴らす。
拝礼時には、柏手を打つ。
旅立ちの際には、切火を切る。
これらは、【音】によって邪氣や魔を祓うためである。
【音】によって【人】は【神】に【力】をお借りし、【人】を救ってきた。
古代日本人にとって【音】とは、【神】と【人】、【自然】と【人】、【人】と【人】とを【繋ぐ】ためのものであった。
古代日本人は、【音】には【意味】があると考えていた。
『あ行』から『わ行』の五十音(『わ行』の『ゐ』と『ゑ』は『あ行』の『い』と『え』に吸収されたので、正確には四十八音)には、それぞれ【意味】があると言われている。
例えば、『あ』には『はじまり』という【意味】が、『ん』には『まとまり』という【意味】がある。
『漢語』にも【意味】はあるが、【音】から成る【大和言葉】とは【意味】が異なる。
『漢語』は【漢字】に【意味】があり、『大和言葉』は【音】に【意味】がある。
例えば、『漢語』の【生命】は「生物として生きる」という意味であるが、『大和言葉』の【いのち】は【い】【の】【ち】それぞれに【意味】がある。
【い】は、「息」「活きる」「生きる」「齋」など。
【の】は、「内に宿す」「結ぶ」「繋ぐ」など。
【ち】は、「血」「靈」など。
【生命】は物質的な【意味】であるが、【いのち】は精神的な【意味】が含まれる。
また、音読みをする『漢語』は硬く抽象的な【音】であるが、訓読みをする『大和言葉』は柔らかく優しい【音】である。
【音】の重なり、【音】の波、【音】の連なり、【音】の繰り返し、【音】の反復、【音】の一様、【音】の抑揚、【音】の韻律、【音】の均整、【音】の共鳴、【音】の拍子、【音】の保持、そして、正しい【音】と美しい【音】。
『大和言葉』の【音】は心地良く、【心】と【体】のみならず【世界】にも影響を与える。
『大和言葉』の【音】の自然な【響き】は人々の【心】を動かし、【体】を整え、【世界】に調和をもたらす。
【音】は、【神】と【人】、【自然】と【人】、【人】と【人】とを【繋げる響き】である。
故に古代日本人は、【音】に【靈力】が宿ると考えた。
これを【音靈】という。
【音】は、【音】のことである。
【靈】は、【靈力】のことである。
そして、【音靈】の宿った【言葉】を【言靈】という。
【言】は、【言】【事】のことである。
【靈】は、【靈力】のことである。
古代日本では、文化や知識や伝統は口述や口伝えで受け継がれた。
古代日本人は、【音】を【言葉】にして【人】に伝えた。
神事の際は祝詞を奏上することにより【神】に感謝申し上げ、祈念し、願いごとをお伝えした。
古代日本人は、【音】を【言葉】にして【神】と繋がった。
古代日本人にとって【言葉】とは、目に見えない【魂】や【心】を残し、運び、伝え、届け、結び、繋ぐためのものであった。
古代日本人にとって【言葉】とは、目に見えない【魂】や【心】を外に現すためのものであった。
【言葉】として発せられる【音】に【靈力】が宿っているため、【言葉】そのものにも【靈力】が宿ると考えられた。
そして発した【言葉】は、【現実】に影響を与えると信じられていた。
【良い言葉】を発すれば、【良い事】が起こる。
【悪い言葉】を発すれば、【悪い事】が起こる。
『やりたい』と思ったら、『やりたい』と言う。
『変わりたい』と思ったら、『変わりたい』と言う。
『変えたい』と思ったら、『変えたい』と言う。
『できる』と思ったら、『できる』と言う。
『創りたい』と思ったら、『創りたい』と言う。
『極めたい』と思ったら、『極めたい』と言う。
『実現したい』と思ったら、『実現したい』と言う。
『叶えたい』と思ったら、『叶えたい』と言う。
『切り開きたい』と思ったら、『切り開きたい』と言う。
【大和言葉】は、【音靈】である。
【大和言葉】は、【言靈】である。
【大和言葉】は、話すための【言葉】である。
そして、【漢字】を借りて【大和言葉】を『書き言葉』にしたものが、【万葉仮名】である。
つまり、【大和言葉】という『話し言葉』を【文字】として表現したものが【万葉仮名】である。
【万葉仮名】は、全て【漢字】である。
先ほど伝えたとおり、【漢字】は【漢字】自体に【意味】を持つ。
『體』
「骨」と「豊」という【漢字】の組み合わせで、「魂の器」としての肉体が健康であるという意味。
『靈』
「雨」と「巫(巫女)」という【漢字】の組み合わせで、雨のように天から降る神聖な【力】という意味。
『學』
「臼(両手)」と「爻(交わる)」「冖(建物)」「子(子ども)」という【漢字】の組み合わせで、建物の中でお互いに学び合うという意味。
【万葉仮名】は【漢字】で表されているが、【万葉仮名】には【漢字】の【音】を借りた【音仮名】と【漢字】の【意味】を借りた【訓仮名】がある。
【万葉仮名】は【音仮名】と【訓仮名】の組み合わせであり、厳密な決まりも無かったため、同じ【音】に複数の【文字】が存在することになった。
『さくら』
【音仮名】では、「佐久良」「作楽」「作具良」
【訓仮名】では、「櫻」
『やまと』
【音仮名】では、「夜麻登」「山跡」「山門」
【訓仮名】では、「大和」「倭」
『はな』
【音仮名】では、「波奈」「波那」
【訓仮名】では、「花」
「佐久良」「夜麻登」「波奈」と記されていれば、その【音の響き】に注目する。
「櫻」「大和」「花」と記されていれば、その【意味】を理解する。
また【万葉仮名】は、【平仮名】や【片仮名】の基となるものでもある。
【万葉仮名】の形が崩れて、【平仮名】や【片仮名】が生まれた。
【万葉仮名】の「安」は、【平仮名】の「あ」
【万葉仮名】の「阿」は、【片仮名】の「ア」
【大和言葉】に【漢字】が当てられて【万葉仮名】が生まれ、【平仮名】や【片仮名】が派生した。
【平仮名】と【片仮名】は、【万葉仮名】の【音】を受け継いでいる。
日本の【音】は豊かで美しく、日本の【言葉】は唯一無二のものである。
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『【言】は、【事】を動かす』
と、言われている。
古代日本人は、【心】を【言葉】にすれば【現実】が変わると考えていた。
古代日本人は、発した【言葉】は【現実】になると信じていた。
古代日本人は、【言葉】を発して【現実】を変えようとした。
『新 年乃始乃
波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰』
大伴家持
新しい年のはじめの初春の今日。
降り積もる雪のように、吉き事も重なってほしい。
【言葉】に【魂】が宿っているからこそ、【言葉】は【靈力】を持つ。
生命の源である【魂】により、【心】が生まれる。
【魂】によって生まれた【心】が、【音】となって現れる。
【心】の宿った【音】は、【音靈】となる。
【音靈】を【言葉】という形にする。
【音靈】の宿った【言葉】は、【言靈】となる。
【言靈】が、【事】を動かす。
【言葉】に【魂】が宿っているからこそ、外に放たれた【言葉】は【心】に響く。
【言葉】に【魂】が宿っているからこそ、外に放たれた【言葉】は【行動】に影響を及ぼす。
【魂】の宿った【言葉】は、外に放たれた後も多くのものから様々な『惠』をいただき、育ち、更に大きな【靈力】を持つ。
【魂】は、『根』
【心】は、『種』
【音】は、『芽』
【音靈】は、『枝』
【言葉】は、『葉』
【言靈】は、『花』
【事】は、『実』
【言葉】は『言の葉』であり、【言靈】は『言の花』である。
『言の花』は花開いた後も多くのものから様々な『惠』をいただき、育つと、大輪の『花』を咲かせ、『実』を【結ぶ】。
『根』が腐れば、『種』は生まれない。
『根』が腐れば、『芽』は生えない。
『根』が腐れば、『枝』は伸びない。
『根』が腐れば、『葉』は広がらない。
『根』が腐れば、『花』は咲かない。
『根』が腐れば、『実』は生らない
『根』である【魂】が腐れば【言葉】は萎れ、やがて枯れる。
【魂】の宿った【言葉】は、人の【心】を変える。
【魂】の宿った【言葉】は、人の【行動】を変える。
【魂】の宿った【言葉】が、人と世界の【流れ】を変える。
強い【魂】から発せられた【言葉】は、強い【靈力】を持つ。
【魂】が弱まれば、【言葉】の【靈力】も弱まる。
美しい【魂】から発せられた【言葉】には、美しい【靈力】が宿る。
穢れた【魂】から発せられた【言葉】には、穢れた【靈力】が宿る。
【魂】は『生きる力』であり、【心】は『魂の声』であり、【音】は『心の伊吹』であり、【言葉】は『心の響き』である。
【清い魂から生まれた言葉】【正しい魂から生まれた言葉】【美しい魂から生まれた言葉】を唱えれば、人の【心】に【幸いの花】を咲かせることができる。
「いとおしい」
「うつくしい」
「うるわしい」
「うれしい」
「すこやかに」
「たのしい」
「ほがらかに」
「おめでとう」
「ありがとう」
【言葉】によって、【心】は動く。
【心】が動けば、【行動】する。
【行動】すれば、【人】と【世界】は揺さぶられる。
【人】は、【一靈】と【四魂】から成り立っていると言われている。
【一靈】とは、【直靈】のことである。
【直靈】とは、【神】と【結ばれた魂】の源である。
【四魂】とは【奇魂】【荒魂】【和魂】【幸魂】のことである。
【奇魂】とは、不思議な力をもたらす【魂】のこと。
【荒魂】とは、新しいものをもたらす【魂】のこと。
【和魂】とは、調和をもたらす【魂】のこと。
【幸魂】とは、幸せをもたらす【魂】のこと。
これらを【一靈四魂】という。
【神】との【結び】である【直靈】が形として現れた【奇魂】【荒魂】【和魂】【幸魂】は、言向け和す。
【魂】から生まれた【言葉】で、【今】と【未来】は変わる。
【魂】から生まれた【言葉】は、【今】と【未来】を変える。
【魂】から生まれた【言葉】が、【今】と【未来】を変える。
『志貴嶋 倭國者
事靈之 所佐國叙 真福在与具』
柿本人麻呂
大和の國は、【言靈】が幸せをもたらす國です。
どうか末永く平和でありますように。
〖万葉集〗以後も、【言靈】は存在すると信じられていた。
〖古今和歌集〗
『やまとうたは 人の心を種として 万の言の葉とぞなれりける』
大和の歌は人の心を種として生まれ、数多の言葉となった。
〖大鏡〗
『祝ひつる 言靈ならば 百年の のちも尽きせぬ 月をこそ見め』
お祝いの言葉に言霊の力があるのであれば、百年先も衰えることのない月を見ることができるであろう。
【魂】を【歴史】と【結び】、【心】で【歴史】に【繋げる】。
【魂】で【歴史】を『結び』、【心】を【歴史】と【繋げる】。
【魂】を【今】と【結び】、【心】で【今】に【繋げる】。
【魂】で【今】を『結び』、【心】を【今】と【繋げる】。
【魂】を【世界】と【結び】、【心】で【世界】に【繋げる】。
【魂】で【世界】を『結び』、【心】を【世界】と【繋げる】。
【魂】は【未来】と【結び】、【心】は【未来】を【繋げる】。
古代より【結ばれた魂】と【繋がれた心】は、【言葉】を通して連綿と受け継がれている。
そして、受け継いだ【魂】と【心】を、受け継いだ人が【未来】へ引き継いでいかなければならない。
それが、先人たちから託されたものである。
それを、止めてはならない。




