ヘルプジイヤー
巨大図書館の中は涼しく保たれていて、
陽光は不思議な窓硝子で柔らかくなってるわ。
私は、ふやふやキングベッドの上で、
あぐら、かいとった。
「…………」
"────entry:ANTI-QURULU."
"────entry;MEISSNA-OCHSEN."
「……うんむー?」
クラスルーム(仮)のキングベッドの横にある、
金魚鉢みたいな台座の上。
くるくると浮いている、
白金のクラスルームカードには、
私とマイスナの名前が、
仲良く並んでフヨフヨ表示されている。
「…………これ、だいじょぶかな……」
"至高の配達職"、
ふたり扱いになっとるやんけ……。
「ねぇ、これ……バレたらアカンやつかなぁ?」
『────:むむむ……。』
クラウンが答えあぐねている。
〘------怒られる時は;元気よくのんっ☆〙
怒られる時のアドバイスしちゃったよ精霊王。
怒られない事を求めているのよ……?
「はぁ……トラブル体質ヤダ」
「にょむにょむにょむポリポリポリ……」
「くむくむくむ……」
あ、今日は窓、しめてます。
うさ丸は落ちませんよ!
勇者の今日のランチはコガネリンゴです。
よく食うな!
「にょきっとな……!」
ボフッ──!
「に"ょわ"ー!」
「くゆゆくゆゆ!」
「……!」
マイスナが、ふかふかベッドに倒れこんだ。
銀のヨロイの角は丸くなり、
各所のミスリルのトンガリも収納されている。
子供も安心、狂銀ちゃんミネウチモードだ。
当然、ベッドにもキズはつかない。
彼女は、ポツリと言った。
「……ここ、すき」
「きひひ」
"お城のど真ん中にある、ひみつの図書室"、
ってかんじかな?
こんな、ゴージャスなベッドもあるし。
"天蓋"があるベッドなんて、
私もここ以外、知らないわ。
「上から……布がかかってる」
「私には不釣り合いな感じするでしょ?」
「そんなことないよ?」
マイスナは着飾ったら、
ホンモノの貴族様と見まごうに違いない。
「よじよじ……」
ひざによじよじしてきた可愛い。
銀の髪に気を使いながら、
我ながらナチュラルに撫でる。
「……ごめんね。明日の朝まで、ここで待機だわ」
「いい。すんばらしい」
「ふふ、本がいっぱいあるもんね?」
「アンティといっしょにお泊まり、好き」
狂銀はちょこちょこ、
ヒッサツワザを入れてくる。
「……」
「……」
「ホットサンドにしよう」
「え?」
「お昼」
「いいね」
王城の本に煙を吸わせないよに、
細心の注意をはらって換気開始!
きゅぅうううんんん……!!
『────このような感じでしょうか。
────挟み込む機構と隙間の調節が難しいです。』
クラウンに、アナライズカードで、
ホットサンドを作るデバイスを作ってもらった。
アンタ、ガトリング砲とかも作ってんでしょ……?
よゆーよゆー。
「きゅ、きゅうり入れるの?」
「意外といけるよ? くたっとして」
ぶしゅぅ〜〜!
じゅぅううううう〜〜!
「パンの耳んとこ、カリッカリになるわよ」
「じゅ、じゅるり……!」
ハムエッグとか最強よね。
マヨ? 樽で持ってる。
「紅茶、ストレートでいい?」
「うん、ミルクいらない」
「私に無理に合わせなくていいよ?」
「むぅ、ホントにそっちが好きだもん」
「ふふ」
こんど、アップルティーを大量生産しとくか……。
あっ、しまった!
うさ丸にリンゴの皮、食われた!
モッタイナーイ。
「にょっきにょき♪」
「くむくむ、かむかむかむ……」
「カンクル、精霊花、焼いてみる?」
「くゆ?」
斬新なこと言いだすなぁ……。
カリッ、パリッ、サクッ、ジュワッ。
「美味すぎる」
「ほんろ」
ホットサンドは大好評である。
私とマイスナしか食ってないけど。
ちょっと冷ましたのも美味しいので、
バスケットに入れて、ハンカチをかけておく。
あ、今いるのは部屋の中央にある、
横長ソファと背のひっくいテーブルんトコだ。
「おうへふひふみたいあえ」
「なんて!?」
応接室? ほぅ……。
確かにお客さんがきたら、
このテーブルとソファで対応って感じよねぇ……?
「テーブルがガラス張りなのが何とも……」
「つぎ、ソースヌードルサンド焼く」
「わかってきたじゃない」
マイスナさん、
すっかりホットサンドマスターである。
オーク肉もあるぜ。
おっ、キャベツもいくか……作りすぎじゃない?
「お腹いっぱい……」
「おあっ、ここ御手洗だったか!
助かった……能力由来の花摘みをしなくて済みそう」
「ふたりで入れる?」
「こらっ」
よし……これでバッチリ、籠城できそうだわ。
「つか、ホントにお城だわ……」
「そだねー」
贅沢な時間だ……。
図書館を見回すと、前に来た時のままで、
ちょい奥の机の上には、
修繕しかけの本やら何やらが置いてあった。
「前に……古本屋さんに寄ったでしょ? その時、本の修理の方法を見てたの。今なら修理できるかも」
「見してー」
……見して?
シュルル──……!
「……! "髪"──!」
「──"あくせす"」
恋人と、有線接続された。
私とマイスナの瞳に、光の筋が横向きに走る。
「こうやるんだー」
「……わかったの?」
「うん、学習した。アンティも、私の学んだこと、コピーできると思うよ」
「……」
乙女の髪の毛に、不可能など無いのだ……。
「あと、ここの本をアナライズカードでスキャンしたら、一瞬で読めるんじゃないかな」
「こ、こらっ、風情の無いことを……」
「えぇー」
『────可能判定です。』
こ、こんないっぱいある本、
頭の中に叩き込んで、どうすんの……。
ゆったり読むからいいことも、あるんですぅー。
「この本が面白そうだった」
「! 持ってきちゃったの。どりゃ……」
本のタイトルは……。
" ロックタートルにはキャベツ食わせとけ "………?
……。
「………。これ、けっこう貴重な本だと思うわよ」
「そなの?」
古本屋さんで、2万イェルしたかんな……。
『────ロックタートルに:
────キャベツを与える意図が不明。
────興味があります。』
「まじか」
読んだろうやんけ。
ペラ……。
────────────────────
ロックタートルは出会い頭に、サンド
ロックを初めとする中級魔法を使って
くる厄介なカメですが、初動で吠えち
らかしている時に口内にキャベツ等の
葉野菜系を投げ込むと、とても静かに
なります。パーティに重盾職がいない
場合、野営時にロックタートルと遭遇
するとよくパーティが全滅しますが、
キャベツを持っているとこれを回避で
きます。一人旅には良いでしょう。
────────────────────
「何よコレ……超、面白い本じゃん」
「カメさんに会ったらキャベツあげるの?」
『────私のデータベースに:無い情報です。』
神様が知らない情報、書いてあるやんけ。
ペラり……。
────────────────────
ビッグフロッグ系の丸呑みしてくるタ
イプの魔物は何でも食うので非常に危
険ですが、ナトリで古くから作られて
いる「ウメボシ」という果実の漬物を
食わすと、ビックリして逃げ出すこと
があります。カエルの魔物には酸っぱ
い食べ物を投げましょう。食われたら
咄嗟にレモンを潰すのも良いでしょう。
────────────────────
「……何気に、スゴい重要なコトが書かれてるんじゃ」
「これホントかなぁ?」
『────遭遇時の実践を提案。』
ウメボシ、ってアレか……。
ナトリのギルド出張所で壺に入れて売ってたような……?
何気なく読んでしまったが、
この本のテーマは「食われるか食わせるか」のようだわ……。
「あっ!」
「えっ、何」
「オシャレ!」
「へっ」
──ガバァ!
「アンティのおしゃれ、決めよう!」
「……それって、歯車でアクセサリーつくる、的な?」
マイスナのヨロイは天空鯨のフレームを基礎に、ローザことギガンティック・ヒールスライムの体流、そして百光銀で出来ている。
何が言いたいかっていうと、"変幻自在"だってこと。
マイスナのチカラとの相性、バツグンの花嫁装備だ。
浮いている羽根のような装備は、腰周りに並べて装着すれば、アッという間に精霊花のドレスに早変わり!
「アンタが華やかなら、私はこのままでもいんだけどねー?」
「えー、アンティもなんかしようよぉ」
嫁に言われて、色々キャイキャイ試すことにした。
ふんむ……自由に形が変えられる歯車は、
私が思ってたより、
色んなアクセサリーチャームに向いているみたい。
「ブローチやらマント止めにはなるかな?」
「このマント止め綺麗! ヨロイにも歯車つけよう」
「い、いや、そこまでしなくてもいいんじゃない?」
「むーっ!」
その顔には勝てません……。
「マントはね、おっきくした方がいいと思う!」
「じゃまじゃなーい……?」
「王冠とよく似合うよ!」
「考えたら、王女サマの誕生日に王冠していっていいのかな……?」
『────しょぼん……。』
いやっ、隠したりはしないから。
アンタそんなキャラだっけ!?
『────ツインテールも良いですが:
────あえて髪を解くという方針を提案。』
「ほぅ……!」
「いや、ほぅ……! ってアンタ」
「アンティは髪、ほどくと天使だから……」
「やめぃ照れるぜ。天使はてめぇだ……──ひゃっ!」
急に抱きついてきよるっ!
「あの、アンティ……」
「な、なぁに……?」
ギィャン……! カシュ……。
狂銀の仮面が、3つのパーツに展開し、
上、左、右にスライドする。
マイスナの素顔が見える。
……、私も、義賊の仮面を首元にスライドする。
きぃいん……! かちっ……。
「どしたん……?」
「……」
「……?」
「……いま」
「うん」
「その……"おあずけ"、中だけど……」
「……! ……ぅ、うん」
「よかったら」
「ん」
「また……」
あっ。
さっした。
「……」
「……」
これ、盛ってんねんで。
いや……王城で……は、なぁ……!?
明日、起きれなくなっても、アレだし……。
「」
「」
どうすっぺ。
『────震音感知。
────誰か来ます。』
「「──ッッ!?」」
ドゴンッ……! キリキリキリ……!
──なんの音!?
(あわわわわわ)
(あ、アンティ! はやく、こっち……!?)
(えっ、ぉ、うんッ!)
きんきんきん……!
ギンギンギン……!
慌てて、マイスナと本棚の後ろに隠れる!
『────仮面:装着します。』
〘------各装甲;硬質化開始のん☆〙
キィん……! きゅぃいん──がシュ!
ギアァン……! ガ……ジャコンッ!
シュラァァああ……!
マイスナのヨロイに、鋭さが戻った。
(壁の中から……何か音が響いてる!?)
(アンティ……あっちらへんからだよ)
む……。
私たちが入ってきた天空階段とは、
真逆の壁の辺りだわ……。
いきなり、なんなの……!?
ガチチチチチ──……、ガチャり……!
「──ほぉれ、開きましたぞ!」
「ほ、ホントに入れたんですねぇ〜〜♪」
((──っっ!!?!?))
おいおいおいおいおいおぅ──い!?!?!?
誰か、入ってきよったわよっ!?
本棚から少しだけ顔を出して、
様子をうかがう!
「ほっほっほ……懐かしい! ふむ……あまり汚れていませんな」
「爺やさんは、何年ぶりくらいなんですかぁ〜〜?」
……ん!?
あれっ!? あの白いギルドの制服は……マリーさん!?
もう1人の、フォーマルな格好のお爺さんは誰だろう。
……執事さん?
「いやはや、何十年ぶりかになるでしょうか……」
「綺麗な図書室ですねぇ〜〜! 秘密基地みたいですわ」
いや、つーか!!
この部屋、あの階段以外にも入り口あったんかい!!
か、仮面はずしてたから、危なかったじゃないのよォ!?
こ、こりは──やばァぞ……!?
もしマイスナと裸で寝てたら、どうなってたかぁ……!!
「ですが、予想以上の本の量ですねぇ〜〜……。パーティの前日ですし……やはり、今日お探しになるのは、おやめになっては……?」
「う、うーむ……。しかし、できれば数冊だけでも前倒して見つけておきたいのです。うむむ、あれは確か……ずいぶんと上の方に……」
かちゃん! ちきききき……!
(……! アンティ、本棚の横からハシゴが出てきたよ!)
(……! ほんっと……)
執事さんっぽい、黒縁メガネをかけたお爺さんは、
手馴れた手つきで本棚の横からハシゴをスライドさせる。
……上と下に滑車がついていて、引っ張り出せるんだわ。
「マリー様、お忙しいでしょう。後はワタクシの方でやってみますので……」
「もうっ、ここまで来て放っておけませんよっ。まだお昼休みに入ったばかりですからお手伝いしますぅ〜〜」
「むむぅ、恐れ入ります。では、下の方を探していただけますかな?」
お爺さんはハシゴで本棚の上の方を、
受付嬢のマリーさんは、下の方を探ってる。
(何か……本を探してるみたい?)
(……アンティ、ちゅうしていい?)
ちゅっ。
……マイほっぺが撃墜された。
そっ、そんなバヤイやないかんなっ!?
はやく目的を果たして、出ていってもらわないと……!
ゆっくり籠城作戦がっ……!
(ま、まさかとは思うけど……私たちがいるのバレたら、不法侵入者扱いされないでしょうね……!?)
(ずっと何か探してるねー)
「うーむ、ありませんなぁ……」
「そうですねぇ……あらぁ? 何やら美味しそうな香りが……?」
(げっ……!)
(あっ……!)
や、ヤバ……!
作り置きしてたホットサンドのバスケットが、
ガラスのテーブルの上に置きっぱなしだわ!
慌てて隠れたから……あぁ、見とる見とる。
紅茶のカップも二人分、出しっぱなしだわ……。
「あら、まぁ……? どなたか、お食事されていたのかしら」
「……おや? マリー様、どうかなさいましたかな?」
ホットサンドを発見したマリーさん。
それを不思議に思った執事さんが、
ハシゴの上から身を乗り出す。
「いえ……。こちらのテーブルに、何やら香ばしい……?
焼き立てのホットサンドらしきモノが──」
「──なんですと!? そのような事は起こりえないはずですが──……」
────カダンっ!
「のっ──!?」
あっ!
「──じっ、爺やさんッッ!?」
執事さん、ハシゴ踏み外しよった!
黒の革靴がスベったんだわ!
「なっ、しまっ……!」
グラ、リ……!
──助けますか?▼
▼はい いいえ
「クラウン!」
「ローザ!」
〘『─-─-─"反射速度 / 起動──"。』☆〙
────ジォォオオオオンン・・・!
────時に重さが生まれ、
世界はスローモーションとなる。
きん、 きん、 きん。
ぎん、 ぎん、 ぎん。
── とと、とっ、とっ、と……!
ゆっくりと、背中から落ちてくるお爺ちゃん。
マイスナと一緒に、落下地点に先回りする。
『────対衝撃吸収機構。
────サスペンションフレーム:展開完了。』
〘------Non-problem-☆
------Safety-device;
------Now-landing──☆☆☆〙
落下してくる人体を受け止めるために、
クラウンとローザが、万全を期すため、
私達の内蔵フレームの一部を調節する。
技名は────、
"ダブル・サンドイッチ・お姫様だっこ"──だ。
「──おほっ──!?」
「よい──・・・!」
「しょ──・・・!」
──とさっ・・・!
素晴らしいキャッチ。
爺やさん、ゲットだぜ。
──。
「……──ぉ、おや……? あなた様方は……?」
「とったどー」
「ぁー、あのー……大丈夫ですか?」
「……──!! あれっ!? アンティさんっ!?
どうしてここに……?」
「にょきっとなぁー☆」
「くゆぅー♪」
うさ丸とカンクル、
ぬいぐるみモード、解除っす。










