獣たちへの懐旧 さーしーえー
挿し絵、追加しました(●´ω`●)。*・゜
"伝えたいことがあります──"。
そう言って、イニィ・スリーフォウは、
実の父と母の前に、獣の友を召喚していた。
『 がるん、がるぅ~~ん…… 』
「ふむ……! では、この小さなプニプニとした者が" くろいあな "の化身なのじゃな?」
{{ はい…… }}
デフォルメされた姿のまま、
ガルンは王に抱えられる。
大地を揺るがす、あんこくワニの面影などなく、
その姿は、悄らしい。
隣ではイチサ王妃が、
興味深げに、小さき黒の獣を見ている。
『 がるんがるん……がーるぅー…… 』
「ふむぅ? なにやら元気が無いようじゃが……?」
イニィ・スリーフォウは、
友の心の色を、翻訳した。
{{ おとうさま……ガルンは、謝罪しているのです。かつて、自身が召喚されたことによって、この都市……" レエンコオト "が滅んでしまった事を──…… }}
「なんと……」
「まぁ……」
レエンコオト唯一の姫は、
その魔族となりし体で、
語ることにした。
あの日、何が起こったのか。
愚弟がしでかした、残虐。
未来より駆け付けし、黄金の救い手。
共に千年を過ごした仲間。
〘------;……、……☪︎.*・゜〙
原初の精霊王が見守る中、
静かな部屋で、
その物語は紡がれたのだ。
『 がるん…… 』
小さな純黒に光る黄金の三つ目は、物悲しげに輝いている。
多くの人々の運命を変えてしまった事を悔いる心が、
その魔の魂に、宿っている。
────王は、正しく感知した。
ぷにぷに。
『 が、がるん? 』
ぷにぷに。
『 がるんがるん!? 』
「おっほっほっほ……! かわいいやつじゃのぅ!」
ぷぅーにぷに。ぷぅーにぷに。
イデカ王は優しくガルンを、
もにもにしている。
『 が、がるーんっ! 』
忌み嫌われても仕方が無いと思っていたガルンは、精霊となった王のじゃれ合いに戸惑いを覗かしている。
レエンの王は微笑んでいたが、
魔の姫と獣に、王たる言葉が届けられる。
「──イニィよ、大儀であった」
{{ は……? }}
「──見よ。この者には、" 慈愛 "が生まれておる」
『 がるん……? 』
王は小さな獣に手を重ね、しかと言ったのだ。
「そなたの語りを聞くに、この魔の者は" こちら側 "に来た際、何も分からなかったのじゃろう……。闇の肉体を持ちながら、赤子の魂のようなソレは、出会う者によっては、真の邪悪の心を宿したやもしれん。──だが、この子はどうじゃ!! 他を労り、思いやり、自身を悔いる心を持っておる。ううむ……あっぱれとしか言い様がない。もちろん、黄金の少女との出会いもあったじゃろう。だが……イニィよ。そなたとの千年が、闇の体を持つ者に"優しさ"を与えたのじゃ──!」
{{ ぉ…… }}
『 がるんるん……っ! 』
「そなたがおらねば、真の邪悪となっていたやもしれぬ。大儀じゃ、イニィ……! なんと気高いことか……! 王として、父として! そなたを誇りに思うぞ……っ!」
「ふふふ──……♪」
{{ ぁ……あ…… }}
容姿は丸々しいレエンの王であったが、
その正しき真理を読み解く眼は、
国の長たる由縁である。
光の精となりし王妃は、
長き伴侶の大らかな言葉に、
にこやかに微笑んだ。
{{ ~~~~~! }}
『 がるっ、がるんがるーん……! 』
" このふとっちょさん、めっちゃかっこええな! "
ガルンは、そう思ったに違いない。
「ところであなた、その子を私にも……」
「おぉ、抱くがよい! ぷにぷにじゃぞ!」
『 がるがる? がるがる♪ 』
ぷぅーにぷに。ぷぅーにぷに。
王妃に手渡された魔獣は、
愛おしく撫でられている。
「まぁ……! なんてあたたかい肌触りなのでしょう!」
『 がるがるぅー♪ 』
「お、おいイチサよ、後で我にも、もう一度じゃな……!」
和む王族と魔の獣。
目の前の魔の娘は、王の称賛に震えていたが、
決意したように、大きく声を出す。
{{ お、おとうさま! おかあさま! 実は……! もうひとつ、大切なお話が……! }}
魔の姫は、聖なるドレスを地につける。
王は言った。
「こりゃ、イニィよ! そのようなドレスで足を付くのは、えっち (ズドム)──ぷっふぇっ!」
{{ ────" 魔王 "なのです──!!! }}
「む……?」
王妃のチョップと時を合わせ、
魔の姫は告白する。
その紫の翼は、聖なる血筋の前で、震えていた。
{{ 私が……今代の……" 魔王 "を、襲名してしまったようなのです……! }}
「「……」」
『 がるーん…… 』
心痛に待つ魔姫に、王は告げるのである。
「──ふむ、そうか。では……"世界一やさしい魔王"になりなさい」
{{ は…… }}
──王の笑顔は、変わらなかった。
あっさりとした言葉に、
王の娘は、深紅の目を丸くしている。
王は問うた。
「──ところで、イニィよ。この子は、子孫はどのようにして増やすのじゃ?」
{{ へっ……? }}
『 が、がるん……? 』
心を切り替える間もなく、
王は姫に、懇願する。
「──こどもが出来たら、我にくださいなのじゃ!」
「──私も欲しいですっ!」
『 がるるっ……!? 』
{{ ぇ、ぇえ──────……? }}
処女の魔王は、王と王妃に、
孫より友の子を ねだられたという────。
一方────。
つい先ほどまで連れ合っていた精霊王は、
家族団欒に気を回し、そっ……と。
生まれ代わりし街へと、繰り出していた────。
〘------"家族水入らず"……のんな☆ えへへ……☆〙
聖水の化身たる自らを皮肉り、
ドレスをたなびかせ、光の街を行く。
自然と、足は大樹へと向かっていた。
見上げるような下の根元に、
蜃気楼のような、
一人の大柄の騎士が立っている。
二人は、はたと目が合った──。
『『 ・・・!!! 』』
〘------;……ゼロンツ・スリーフォウ殿と;お見受けします☪︎.*・゜〙
幻の騎士は、すぐさま威を低くした。
『『 私は今、このような大樹の精故、貴女様が如何に貴き存在なのか、よく感じ取られます。元は愚なる武人故、どうか御容赦を…… 』』
〘------ふふ;随分と畏まられたものです☪︎
------家族の愛に当てられた;愚かな女には過ぎる☪︎〙
『『 ……お戯れを 』』
〘------騎士よ;敬服を禁じます-☪︎
------これは命です-☪︎
------私の与太話に付き合いなさい-☪︎.*・゜〙
『『 ……。困ったものだ…… 』』
大柄の大樹の騎士は、
わがままを言う精霊王に、
肩をすくめる。
大きな根の塊に、白く発光する王女は腰掛けた。
〘------貴方は会わなくてよろしいのか?-☪︎.*・゜〙
『『 ……私は千年を共に過ごした。王達が今を共に過ごすは、当然のはからいであろう? 』』
〘------成程:義に厚いのですね-☪︎.*・゜〙
即座に言葉を崩す辺り、
ゼロンツという騎士も大物である。
透過する彼を見て、精霊王が問う。
〘------その身体は;どうです?-☪︎.*・゜〙
『『 慣れた。が、こそばゆい。皆は私を" 騎士の聖樹 "などと呼ぶ。ふん、買いかぶられたものだ──…… 』』
騎士は甲冑に覆われし腕を組み、
自らである幹を見上げる。
〘------貴方は……"こちら由来"の聖樹なのやもしれませんね……☪︎.*・゜〙
『『 ぬ……? 』』
〘------いえ……☪︎.*・゜〙
精霊王は、かつての友を思い、
大樹の根の上で、膝を抱えた。
『『 貴女に比べれば、私など矮小だ 』』
〘------あら-☆
------彼女の鎧となった龍を倒したのでしょう?
------騎士としても;誉れ高いわ?☪︎.*・゜ 〙
『『 ……! やはり、そうなのかね……? 』』
騎士は、大恩の黄金に、見覚えがあったようだ。
〘------;──! そうだ……☆
------"名"を知りませんか-☪︎.*・゜〙
『『 ──! ……龍のだろうか? 』』
〘------えぇ──☪︎
------かの龍の真名が分かれば;
------鎧の真の力を解き放てるのです──☪︎.*・゜〙
『『 む──…… 』』
騎士は顎に手を当て、しかし、ほどなく答える。
『『 済まぬ……私達は、"黄金龍"とだけ呼んでいた 』』
〘------そう;ですか……☪︎〙
『『 不思議な龍だった 』』
〘------ふしぎ?-☪︎〙
『『 貴女は──何故、私共が勝てたと思う──? 』』
〘------;────……☆〙
精霊王は、微笑にて促す。
『『 最初に、私が気づいたのだ 』』
〘------"気づいた";……"何"に?-☪︎〙
『『 ──" この龍が、私達を殺す気がない "と── 』』
〘------;────……☪︎〙
『『 確かに、何人も犠牲になった。しかし、あれらは無謀に過ぎた者が、自ら下敷きになったに等しい 』』
〘------;……☪︎〙
『『 決まってアイツは、悲しく鳴いた。ギャオオゥ、ギャオオゥ、と。新しい者が増えた時、アイツは必ず顔を見た 』』
〘------;……か、お☪︎〙
『『 今思えば……まるで、誰かを探しているようだった。顔を正面から捉え、そして落胆し、悲しい声で鳴いていた 』』
〘------;……☪︎.*・゜〙
『『 それに、気づいたのだ。私は攻めた。アイツは嫌がったが、終わりにしたいようにも見えた 』』
〘------何を?-☪︎〙
『『 待つ、ことを 』』
〘------" 待つ "──……☪︎〙
『『 最も近くで、アイツを見た私だから……感じたのやもしれん 』』
騎士は天高い揺らめく水面を眺め、
かつての龍の轟く声を思い出している。
『『 国のためであった。しかし、私が……あの龍さえ狩らねば、この国は違う未来を迎えたやもしれん…… 』』
騎士は、祈るように目を閉じる。
滅びを知る王女は言葉を添えた。
〘------;……貴方のお陰で;皆が会えたのですよ-☪︎〙
『『 ……! 精霊王は、お優しいのだな 』』
〘------ふふ;飾りで祀られてはいなくってよ?☆〙
複合する記憶の残滓は、
彼女に稀有な表情を生み出させている。
『『 ……問いたいのだ 』』
〘------赦す-☪︎〙
『『 あの龍の鎧に、意思はあるのか? 』』
〘------;……! ……そのようです-☪︎.*・゜〙
『『 ……。悲しんでいたか? 』』
〘------い;いえ……☪︎
------以前に顕現した時は;
------ゴキゲンに;雪山を吹っ飛ばしていたようですよ?☆〙
『『 ……! ……そうか 』』
妙な獣への情が、千年騎士には生まれていた。
大樹は、水面の光で呼吸し、
キラキラと音を出す。
『『 咆哮たらしめるは、金の想い人、か── 』』
〘------;──え?☆〙
千年の者が語るは如何か────。
精霊王と騎士の元に、
悪魔の姫が、笑顔を運ぶ────。
『『 きたか 』』
〘------ふふふ☆〙
{{ お父様ぁああ────────……! }}










