表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/1216

レエンの洗礼 さーしーえー

 


 人生で初めて、旅に出た。



 "人生は誰しも、果てしなき旅だ!" とか、


 そういうこと言ってんじゃないのよ?


 私は15歳で、まだまだ、じゃりん子だ。


 考えが大人に近づいていくけど、


 まだ子供を抜け出せていない。


 そんな、"狭間"みたいな、時なのかもしれない。


 同じクラスの男子よりは、しっかりしてると思う。


 でも、私を含め、


 学校の同年代のやつらが、


 こんなに遠くに来たことは、たぶん、ない。


 本職の冒険者にとっては、


 訳ない距離なのかもしれない。


 ……鼻で、笑われるかも。


 でも、私はまだ、15歳のガキで、


 ここにくるまでに、長い距離を通った。




 砂岩帯で、スナヌシに会ったり。


 ラクーンの里で、夫婦に見せつけられたり。


 隠された大聖堂で、ドロボウやりかけたり。


 鍾乳洞で、魔物にすいか投げたり。




 いくつも、通り、過ぎてきた。



 冒険は、旅は、動く。


 通りすぎる。


 それが、大きな刺激だった。


 たぶん私の、初めての旅は、


 意識してないけれど、


 とても、すごい経験をしてるんだと思う。


 ちょっと、疲れちゃった。


 でも、あと、少し。


 もうすぐだ。


 たくさんの魔物が北に向かった理由が、


 この先で、わかるかもしれないから。



 ここまで、きたんだ。


 もう、少しで────。




「────と……?」










 一瞬、目がおかしくなったのかと思った。


 下が、真っ白(・・・)だったからだ。




 …………。


 …………。


 …………。



 ……そっか。





「……ついたんだ」





 きた。



 ここだ。



 ここなんだ。




挿絵(By みてみん)

「……──レエン湖だ……!」



 一歩、踏み出した遺跡の上から、


 神様がミルクをこぼしたみたいな、


 白の、まん丸の、湖が見えた。




「……ほぅわぁ────……!」


 思わず変な声が出る。

 すごい。

 視野が広がるって、こんなこと。


 地図で、この湖がまん丸である事は、知ってる。

 でも、それが本当かどうか、私にはわからない。

 大きすぎて、向こう側が、よく見えないからだ。


『────完全に形状を分析するには、湖の中心部にて、ある程度、上昇する必要があります。』

「あ、いや……行かない行かない! まん丸かどうかは、この際どうでもいっかな……」


 大事なのは、ここから北に向かって、

 魔物が移動したり、活発化してるってことだわ。

 手傷を負わせても、ケロッとして帰ってくるって、

 ラクーンの里で言ってたわね。


─────────────────────────────

 >>>……んだこれ……

─────────────────────────────


 ──ん? なんだ?


「せんぱい……? どしたの?」


─────────────────────────────

 >>>なんだこれ!!

   真っ白じゃないか!!

─────────────────────────────

「──うん? ……急にどしたの?」


 真っ白って……湖の水のことよね(・・・・・・・・)

 私もさっきまでけっこう驚いてたけど、

 綺麗ね。


 水が全部、白一色の、湖なんて。


─────────────────────────────

 >>>アンティ これ

   めちゃめちゃおかしいよ!

   前に来た時は、こんなシーツみたいな

   白じゃあなかった!

─────────────────────────────

「! そ、そうなの?」


─────────────────────────────

 >>>うん!

   たぶん、200年以上前かな……

   とにかく、水はもっと澄んでたんだ!

   ここまでは、白くなかった!

   これじゃまるでヨーグルトだ!

─────────────────────────────

「あ、うまいこと言うわね」


─────────────────────────────

 >>>乳製品 好きだからね!

   ぜったいこの白い水のせいだよ

   魔物がやんちゃしだしたの…… 

─────────────────────────────


 や、やんちゃて……。

 うーん、でも先輩って、

 昔にここに来たことがある、

 生き証人……憑依義賊だかんなぁ。

 言ってることは信用できそう……。

 確かに白い。ほんとに白い。

 ……ちょっと、調べてみるしかないよね。


「クラウン。ここ飛び降りて、"降下"する」

『────レディ(準備完了)。重力制御。』

─────────────────────────────

 >>>気をつけて こっちも視覚域みとく

─────────────────────────────

「ありがと。まかせるわ」


 私自身も警戒しつつ、

 湖に突き出した遺跡の上から、

 下の水面に足を伸ばす。

 ……うひゃあ。

 高さはドニオスの龍見台ほどもないけど、

 下が一面まっしろだから、おっかないわね。


「よしょ──!」


 ……──パララッ……


 ────きゅうううんんん……!!



 真っ直ぐ下に、ゆっくりと。


 ツインテールと、白金(しろがね)劇場幕(げきじょうまく)が、

 4本の尾を引いて、私と共に落ちる。


「……──クラウン。念のために、水面5メル地点で一度停止。何も無ければ、限界まで接近、水質を調べる」

『────レディ(準備完了)。仔細把握。』


 クラウンは、言った通りに止まってくれた。

 近い。広い。白い。

 ……陽の光を、反射して(まぶ)しいな。

 なびいていた髪とマフラーが下に垂れる。

 思わず手で、目を塞いでしまった。


「……まぶし。先輩、アナライズカードを使って、日光の反射を遮ったり、できる?」

─────────────────────────────

 >>>──! やってみよう

─────────────────────────────


 仮面本体の目の穴に、色が濃い目の窓ができる。

 ……いいねっ。


「……よしゃ! いいや、クラウン。ギリギリまでおろして」

『────レディ(準備完了)。降下再開。』


 ───きゅうう、きゅううん……


 先ほどよりも、ずいぶんゆっくりと下におりる。

 ま、こわいわね。

 水が白いから、深さわかんないし。


『────足場を形成します。』

「そうね、おねがい」


 ────ぎゅうううううん──。


 真下の、だいぶ水面に近いところに、

 薄い黄金の歯車が、何枚か重ねて出てくる。

 時間箱の中みたいだ。

 色はこんなじゃないけど。

 うん、これだけ面があれば立てるな。


 ─────キィン──……。


「──よっと……」



 おりた。


 さて。


 どしたもんか。



「……ちょっと、さわってみっか……」

─────────────────────────────

 >>>気ぃつけてねー

─────────────────────────────

「はいはーい。……よっ」


 しゃがむ。

 おっ、けっこう安定した足場ね。

 流石クラウン。


 水面に、手を伸ばす。


 そ〜〜……。


 …………。



 …………ペとっ。



「……んん?」



 ……ぺたん。



「…………」



 ぺたん、ぽたん、ぺちっ、ぺたっ。



 …………。


 まじか……。



「ちょ……先輩……。ヨーグルトどころじゃないわよ……?」

『────……。』

─────────────────────────────

 >>>え え 何、どったの?

─────────────────────────────


 いや、どうって……。


「……粘度がやばい(・・・・・・)。水じゃない。乳化してる。パン生地こねてるみたいだわ」

─────────────────────────────

 >>>まじすか……

─────────────────────────────


 こ、これ。

 湖全部(・・・)そうなんじゃね(・・・・・・・)


 タップンタップンやで……。

 弾力ありすぎ。


「──ちょ、ちょっと殴ってみる!」

─────────────────────────────

 >>>あ こら!

─────────────────────────────


 せーのっ……!



 ……────ドォォオオオンッッ───!!!



─────────────────────────────

 >>>かーげーんーしーてー!!!

─────────────────────────────

「し、したわよっ! ほ、ほらっ! 見て水面っ!!」


 ───ボュンボュンボュョョヨヨン──!!!


 私を中心に、波紋が、広がった。

 綺麗に、円。

 波の幅が、でかい。

 す──────っと、外側に広かっていく。


『────水面上の、水滴の観測値:皆無です。』

─────────────────────────────

 >>>うっわ どーなってんだ……

─────────────────────────────

「水しぶきすら、出なかったわよ? ……膜があるみたいだわ」


─────────────────────────────

 >>>こりゃあ

   水属性の魔物が逃げ出すワケだ……

─────────────────────────────

「! それって……!」


 ラクーンの里に来た、

 あの魚の魔物の大群のことよね……!?


『────同意。ここまで粘度の上昇した水質では、餌の収集はおろか、呼吸すらままならないと予測。』

─────────────────────────────

 >>>何らかの理由で 最近

   この湖の粘度が 一気に上がったんだ

   昔から ちょっとずつこうなった

   のかもしれないけれど……

─────────────────────────────

「……何でだろう」


─────────────────────────────

 >>>……ごめん わからない 

   クラウンちゃん 水質の分析

   いけそう?  

─────────────────────────────

『────了解。トライします。格納後、分析を開始。』


 ────きゅうううううんんん……。


 お、水面が、細く持ち上がった。

 浮いた歯車の輪っかに、吸い込まれていくわ。


 ────ずととととと……。


「…………おお」

─────────────────────────────

 >>>とろろみたい……

─────────────────────────────

「……とろろって、何?」

『────むっ。』


 え、どしたんクラウン。


『────……対象を、切り離すことができません。』

「……何それ」


 地続きに、なっちゃってるってこと?

 切り離せないの?

 この湖、全部格納するってか。

 ……そりゃムチャな話やがな。


「何でだろうね? 膜のようなものが、切れないのかな」

『─────アンティ。歯車をひとつ、水面の下に刺し込むことは可能でしょうか。』

「? いいけど……」


 この水面の膜、切れんのか……?

 てゆうか、膜なのか……?


「……ま、いいや。回転!」


 ───ぎゅううるるるるるっ!!!


「よし……このまま、手に固定して押し込むわよ?」

『────お願いします。』


「ふぅ────……おるああァ!」



 ────私は、ちょっと、ナメていた。


 これは、私の初めての旅だ。


 これまでの、私の常識は、通用しない。





 ───────かぷっ。




「え」


『────え。』


─────────────────────────────

 >>>──え。

─────────────────────────────





 私の腕が、


 ────湖に、食われた(・・・・)








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ