第36話:未接続の点
宝蔵院映見は、店の外観を一目見ただけで、ほんの少し拍子抜けした。
駅前のファミリーレストラン。
昼と夜の境目の時間帯で、学生と家族連れがまばらに混じっている。
(……ずいぶんと、普通ね)
誰かが『秘密の話』をする場所としては、あまりにも日常的すぎる。
だが同時に、記憶の中の蒼葉瑠衣が選びそうな場所だと思った。
映見は店に入ると、奥には向かわず入口から全体を見渡せる窓際の席に腰を下ろした。
ドリンクバーを頼み、氷の音を立てながらグラスを満たす。
視線は、すぐに一点に留まった。
四人掛けの席に座っている二人組――。
その二人は雑談する様子もなく、視線すら一度も交わさない。
まるで、赤の他人が偶然同じ席に座っているだけのようだった。
ファミレスの本来の用途である食事もせず、一人は目元を伏せながら気まずそうに座り、一人は全ての干渉を遮断するかのようにスマートフォンをいじる。
その光景を見た映見は、あっさりと確信してしまう。
この場所は、互いに会うためのものではない。
今から来る、誰かを待つための席なのだ。
そう理解した瞬間、それまで散らばっていた映見の焦点は一点に集まる。
一人は、痩せ細った男。
落ち着きなく指を動かし、視線は定まらない。
そして、もう一人――。
(……妙ね)
少女が一人、ソファに深く腰を預けながらメニュー表を眺めている。
場違いなほど自然で、まるで最初からそこにいるのが当たり前のような佇まい。
付き添いか、関係者か。
少なくとも、瑠衣本人ではない。
(……なるほど)
瑠衣は、まだ来ていない。
だが、投稿にあった『信頼できる誰か』は、すでにこの席にいるのかもしれない。
映見は意識を切り替える。
本命はこれからだと、自分に言い聞かせた。
そして、時間にして数分――店のドアが開く。
入ってきた二人組を見た瞬間、映見の指がグラスの縁で止まった。
そこにいたのは蒼葉瑠衣と――『茅野斗亞』。
一瞬で理解した。
並び方や歩調、距離感が全てを物語る。
瑠衣が、迷いなく彼の隣を選んでいる。
(……そういうこと)
斗亞は、席へ向かう前に店内を一度だけ見渡した。
無意識の癖なのか、周囲を確認する動作を欠かさない。
瑠衣の肩に軽く手を添え、席へ導く。
完全に、『付き添い』の振る舞いだった。
席に着く直前、瑠衣が彼を見上げる。
一瞬だけ、表情が緩む。
それを、映見は見逃さなかった。
(守っている)
偶然ではない、意図的な同席だ。
これまで、瑠衣と斗亞は別々の点だった。
陸兎という過去と、現在の異物。
交わる理由が見えなかった。
だが、今は違う。
瑠衣は、斗亞を『信頼できる誰か』としてこの場に連れてきている。
そして――。
すでに席にいた、もう一人の少女。
(あの子は、一体……)
彼女は動かない。
瑠衣にも、斗亞にも、声をかけない。
だが、完全に『無関係』とも言い切れない位置にいる。
(……面白い)
映見は、ゆっくりとグラスに口をつけた。
氷が溶ける音が、やけに大きく聞こえる。
自分が斗亞に拒絶された理由。
計算が狂った理由。
問題は、自分自身ではなかった。
斗亞の側に、すでに『庇護対象』が存在していた。
それがどこまで深いのか、今はまだわからない。
だが、点は揃った。
線になるのは――もう、時間の問題だった。
映見は、何事もなかったように席を立つと、会計を済ませて店を出る。
ガラス越しに、四人の姿を最後に一度だけ振り返り。
(……見つけた)
心の中で、そう呟いた。
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※本作は毎週水曜日・土曜日の20:20頃に更新予定です。
※補足となりますが、時系列として、斗亞が映見の提案を断った時点ではまだ瑠衣とは出会っていません。
今回の映見の確信は、あくまで“映見自身がそう感じた”という視点によるものとなります。




