第27話:不協和音の食卓
朝の食卓風景――。
テレビからは、一定の音程を保ったままのニュースキャスターの声が流れている。
悠司はトーストに手を伸ばしながら、画面をぼんやりと眺めていた。
『――数日前、市内のホテルで遺体となって発見された報道記者、蒼葉陸兎さんの続報です。警察の調べによりますと、蒼葉さんの体内からは毒物が検出されたことが分かりました。室内はオートロックにより施錠されており、第三者の侵入した形跡がないことから、警察は自殺の可能性を視野に調査を進めています』
「……自殺か。若そうなのに、何があったんだろうな」
悠司がコーヒーを啜りながら独り言のように呟く。
斗亞は無言でインスタントのコーンスープを口に運んだ。
(……毒物による密室。繞の仕業じゃない)
もし繞が衝動に任せて陸兎を手に掛けていたのなら、もっと惨憺たる光景になっていたはずだ。
そこには理性も知性もないままに、目に見える形の暴力として対象物を傷つける。
端的に言えば脳筋的な犯行しかできず、何かを利用することなんて彼に言わせると『まどろっこしい』行為でしかない。
そして、それを斗亞が事故や失踪に作り替えるのが、いつもの手順だった。
だが、今回の件は最初から『完成された死』としてそこにある。
(……僕が隠蔽する手間を、誰かが省いた?)
その時――画面の中の静寂が、突如として破られる。
カメラの脇から、何かが飛び出してきた。
栗色のショートヘアの女。
勝ち気な眉の下にあるその瞳は、逃げ場のない鋭い光を湛えていた。
彼女は呆気にとられるキャスターからマイクを力ずくで奪い取ると、レンズの向こう側に潜む『誰か』へ、驚くほど通る声で告げた。
「おい、見てるか犯人!! 私はお前を許さない……絶対にだ!!!」
「ちょ、ちょっと君……!」
「自殺だと? ふざけんな!! 兄貴がそんなマネするわけねぇだろ!! どこかに隠れてるんだろ、お前……! 私はお前を絶対に、引きずり出してやるからな!!」
感情を爆発させながらも、一文字ずつを呪いのように吐き出すその姿。
すぐに画面の端から数人の番組スタッフが駆け寄り、彼女の両脇を抱えて無理やり引き離そうとする。
「離せ! 私は本当のことを……!」
激しく抵抗する彼女の声が遠ざかるのと同時に、カメラは再び困惑の色を隠せないキャスターへと切り替わった。
「……失礼いたしました。被害者の妹さんでしょうか。遺族の方も混乱されているようで、非常に深い悲しみの中にいらっしゃることが伺えます。視聴者の皆様も、どうか温かく見守ってくださるよう、よろしくお願いいたします」
流石は手慣れた様子で、キャスターは気遣いと配慮を見せながら、淡々と事態を収めていく。
だが、その滑らかなフォローがかえって、先ほどの女性の剥き出しの執念を不気味に際立たせていた。
「…………」
斗亞は、コーンスープのカップを持ったまま、ただ唖然とその光景を凝視していた。
彼女が犯人の正体にどこまで迫っているのか、あるいは全くの手探りなのか、それは分からない。
だが、その声に宿る『敵』への一点の曇りもない確信は、テレビの液晶越しでも肌に刺さるほどに生々しかった。
「なんだ、今の……凄い気迫だったな。いきなりすぎて、びっくりした」
悠司が驚きを隠せずに呟く。
(蒼葉陸兎の妹……彼女は“犯人”を憎んでいる。それが誰かも分からずに)
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