↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎繞(クロマト)グラフィー ―愛と殺意の同一性―  作者: 柊ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/43

第27話:不協和音の食卓



 朝の食卓風景――。

 テレビからは、一定の音程を保ったままのニュースキャスターの声が流れている。


 悠司はトーストに手を伸ばしながら、画面をぼんやりと眺めていた。


『――数日前、市内のホテルで遺体となって発見された報道記者、蒼葉陸兎さんの続報です。警察の調べによりますと、蒼葉さんの体内からは毒物が検出されたことが分かりました。室内はオートロックにより施錠されており、第三者の侵入した形跡がないことから、警察は自殺の可能性を視野に調査を進めています』


「……自殺か。若そうなのに、何があったんだろうな」

 悠司がコーヒーを啜《すす》りながら独り言のように呟く。

 斗亞は無言でインスタントのコーンスープを口に運んだ。


(……毒物による密室。繞《あいつ》の仕業じゃない)

 もし繞が衝動に任せて陸兎を手に掛けていたのなら、もっと惨憺《さんたん》たる光景になっていたはずだ。

 そこには理性も知性もないままに、目に見える形の暴力として対象物を傷つける。

 端的に言えば脳筋的な犯行しかできず、何かを利用することなんて彼に言わせると『まどろっこしい』行為でしかない。


 そして、それを斗亞が事故や失踪に作り替えるのが、いつもの手順だった。

 だが、今回の件は最初から『完成された死』としてそこにある。


(……僕が隠蔽《いんぺい》する手間を、誰かが省いた?)


 その時――画面の中の静寂が、突如として破られる。

 カメラの脇から、何かが飛び出してきた。


 栗色のショートヘアの女。

 勝ち気な眉の下にあるその瞳は、逃げ場のない鋭い光を湛えていた。

 彼女は呆気にとられるキャスターからマイクを力ずくで奪い取ると、レンズの向こう側に潜む『誰か』へ、驚くほど通る声で告げた。


「おい、見てるか犯人!! 私はお前を許さない……絶対にだ!!!」

「ちょ、ちょっと君……!」

「自殺だと? ふざけんな!! 兄貴がそんなマネするわけねぇだろ!! どこかに隠れてるんだろ、お前……! 私はお前を絶対に、引きずり出してやるからな!!」

 感情を爆発させながらも、一文字ずつを呪いのように吐き出すその姿。

 すぐに画面の端から数人の番組スタッフが駆け寄り、彼女の両脇を抱えて無理やり引き離そうとする。


「離せ! 私は本当のことを……!」

 激しく抵抗する彼女の声が遠ざかるのと同時に、カメラは再び困惑の色を隠せないキャスターへと切り替わった。


「……失礼いたしました。被害者の妹さんでしょうか。遺族の方も混乱されているようで、非常に深い悲しみの中にいらっしゃることが伺えます。視聴者の皆様も、どうか温かく見守ってくださるよう、よろしくお願いいたします」

 流石は手慣れた様子で、キャスターは気遣いと配慮を見せながら、淡々と事態を収めていく。

 だが、その滑らかなフォローがかえって、先ほどの女性の剥き出しの執念を不気味に際立たせていた。


「…………」

 斗亞は、コーンスープのカップを持ったまま、ただ唖然とその光景を凝視していた。  

 彼女が犯人の正体にどこまで迫っているのか、あるいは全くの手探りなのか、それは分からない。

 だが、その声に宿る『敵』への一点の曇りもない確信は、テレビの液晶越しでも肌に刺さるほどに生々しかった。


「なんだ、今の……凄い気迫だったな。いきなりすぎて、びっくりした」

 悠司が驚きを隠せずに呟く。


(蒼葉陸兎の妹……彼女は“犯人”を憎んでいる。それが誰かも分からずに)








ご覧いただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや評価をいただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いします。


※本作は毎週水曜日・土曜日の20:20頃に更新予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。