【絢音】フィナーレ【瞳中の夢】
キャンプに戻った絢音は、先ほど耳にした歌について語り始めた。
「さっきは集中しててよく聞こえなかったけど、…たぶん『灰燼』のアレンジだよね?」
:うん、やっぱいい曲
:最高だった
星来天歌:正解! 実はこれ、『七夜夢』とのコラボアレンジなんだよ~
「へぇ、そうなんだ」
チャット欄に流れた歌奈のコメントに、絢音は目を細める。
星来天歌:ちなみに、明日私のチャンネルで公開するよ~
「……ん?」
一瞬、思考が止まる。
(あれ……?)
絢音は記憶を呼び起こす。
親友の近況は欠かさずチェックしているはずだが、こんな大きな情報は初耳だった。
「星来さん、それ……私、初耳なんだけど」
星来天歌:あ
:!?
:口滑ったww
チャットが一気にざわついた。
星来天歌:だ、大丈夫! どうせこのあと発表する予定だったし!(震え声)
「そんな雑で大丈夫なの……怒られない?」
苦笑混じりに問いかける。
星来天歌:たぶん怒られる……あ、マネージャーから連絡きた(絶望)
(ああ……)
絢音はそっと手を合わせ、心の中で友人の無事を祈った。
その直後、自分のスマホにも通知が届く。
星来天歌
【告知】
七夜夢『瞳中の夢』好評発売中!
挿入歌「灰燼・再燃ver.」もよろしくね~
記念に明日MV公開!
リンク付きの投稿。
絢音は即座に「いいね」を押し、そのまま配信で紹介する。
「みんな~、星来さんの『灰燼・再燃ver.』、明日MV公開だって。絶対チェックしてね!」
宣伝を終え、絢音は再び視線をゲームへ戻す。
第一フェーズはもう完全に覚えている。
多少の操作ミスがあっても、安定して第二フェーズまで辿り着ける。。
「灰燼より、再び燃え上がらん!」
歌声とともに、戦闘が再開する。
着地後の天使は、ほぼ地表すれすれを滑るように移動する。
初動はほぼ決まっている。
あの――即死級だった炎柱の三連撃。
左手が振られる。
蒼炎の柱が雷のように落ちる。
「今だ!」
タイミングを合わせ、回避成功。
続けて右手。
二発目。
「優雅な動作のわりには、殺意が高すぎでしょ!」
絢音は文句を言いながらも、リズムに合わせて回避を繰り出す。
:まるでバレエ
:美しすぎる……
チャットの言葉通り、その動きは、まさに「舞」だった。
リズムと完全同期した攻撃。
天使が回転する。
スカートが大きく広がる。
直後。
地面から無数の炎柱。
「うおっ!?」
慌ててロール回避。
「いいわ……もっと激しく踊りましょう?」
天使は恍惚とした笑みを浮かべる。
獣のような威圧感と、神秘的な美しさが同時に存在していた。
全身が炎に包まれ――
そのまま、高速で突進。
「危なっ……!」
反射的にパリィ。
火焔の衝撃を弾き返す。
音楽がさらに激しくなるにつれ、攻撃も苛烈さを増す。
曲がクライマックスに達した瞬間、天使は空へと舞い上がった。
「炎よ! 私と共に踊りなさい!」
背中の翼が激しい炎を纏って四つに分離した。
それらは独立した意思を持つかのように四方へと散り、炎の残像を纏った「分身」へと姿を変える。
「分身!?」
絢音は息を呑んだ。
分身たちが次々と、異なる舞踏のステップで襲いかかる。
ピルエット。
横薙ぎの炎で後退を強制される。
グラン・ジュテ。
叩きつけが外れた一撃が地面を爆ぜさせた。
タンデュ。
ディレイのかかった刺突。
「ディレイまであるの!?」
絢音はギリギリで回避。
そしてデベロッペ、ノーモーションに近い高速蹴り。
絢音は咄嗟にパリィを押した。
分身がよろめき、霧散する。
空中の本体がその隙を逃さず、隕石のごとく炎を纏った拳を叩きつけてきた。
「ここ!」
――パリィ。
甲高い衝突音。
致命の一撃を弾き返す。
「今です!」
大きく仰け反った天使の胸元に、光の双剣が深い弧を描いて突き刺さった。
「実に見事な共演でした。……ふふ、どうやら終演のようね」
天使は翼を収め、ドレスの裾を摘んで優雅に一礼した。
音楽が、止む。
彼女が差し出される手のひらには、小さな光の球が浮かんでいた。
「これは、あなたへのささやかな褒美」
【天使の印 ×1】
「これって……?」
手帳を確認すると、そこには「羽の生えたギター」のスタンプが刻まれていた。
そして、ステータスが再び強化される。
HP:65 ×3
攻撃:30 ×3
防御:30 ×3
「さすがステージボス、強化の桁が違うね……」
絢音は思わず感嘆の声を漏らした。
「次の層へ進む準備はできていますか?」
天使が静かに問う。
「天使ちゃん、本当に最高だった……強いし、綺麗だし。ずっと戦っていたいなぁ」
絢音は満足げに息を吐く。
:わかる
:光ちゃんの“ずっと”はガチでやりそうw
(本当はまだ続けたいけど……さすがにね)
「ん~、ちょうどいい区切りかな」
絢音は時間を確認する。
時計の針は、すでに午前四時を指していた。
:了解
:もう4時!?
満足感に浸りながら、絢音は乾いた目を軽くこすり、締めに入る。
「時間も遅いし、今日はここまでにしよっか」
少し柔らかく、声を落とす。
「じゃあ、行ってきます〜! またね~」
:おやすみ~
:またね!
:いってらっしゃい~
配信は、静かに幕を閉じた。
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