【絢音】私と、踊ってくださる?【瞳中の夢】
「でも、このギター……どう使うんだろう?」
絢音は首を傾げながら、中央広場へと向かった。
周囲の探索は既に終え、見落としがないことは確認済みだ。
残るは、あの天使との正面対決のみ。
:やっぱり演奏するんじゃね?
:投擲武器の可能性微レ存?w
「さすがに投げはないでしょ」
絢音は苦笑した。
瞳がそんな雑な仕様にするとは思えなかった。
ついに広場の縁に辿り着いたその時、システムメッセージが表示された。
【ギターを演奏しますか? はい/いいえ】
「やっぱり演奏か」
絢音は迷わず「はい」を選択。
画面の中の星野光がギターケースを開き、どこか見覚えのあるギターを取り出した。
軽くチューニングを整え、次の瞬間。
旋律が、静かに流れ出した。
「あ……これ、『灰燼』だ!」
絢音は思わず声が弾む。
それは、かつて天川社で共に活動していた友人、歌奈の曲だった。
(そういえば歌奈ちゃん、最近は『七夜夢』の手伝いをしてるって言ってたっけ。
瞳の作品、先に触れてるのちょっと羨ましいな)
演奏を聴きながら、親友の近況に思いを馳せる。
絢音の口元に、自然と穏やかな微笑みが浮かんだ。
画面の中の天使は顔を上げ、静かにその音色に耳を傾けていた。
膝の上の黒猫を、愛おしそうに撫でながら。
「これ、天川社の星来天歌さん自身が作詞作曲した曲なんです。興味がある人はぜひ聴いてみてくださいね」
絢音は視聴者に向けて笑顔で紹介した。
星来天歌:こんばんは、光ちゃん! 宣伝ありがとう~
:本人きたw
:天歌ちゃん、こんばんは!
「天歌ちゃん!? あ、いえ、星来さん! いらっしゃいませ!ゆっくりしていってね~」
チャット欄に本人が現れたことに気づき、絢音は少し照れくさそうに挨拶を返した。
そして、再び意識をゲームへと戻す。
「お、演奏が終わったみたい。何か変化はあるかな?」
微動だにせず座り続ける天使の様子をうかがいながら、、絢音は慎重に広場へと足を踏み入れた。
――攻撃は、来ない。
ゆっくりと近づき、星野光はギターを差し出した。
「ありがとう。……届けてくれたのですね」
天使は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ギターをそっと撫でる。
その姿は、どこか言いようのない寂しさを纏っているように見えた。
「天使ちゃん……」
絢音は一瞬、言葉を失った。
そこにいるのはヒロインである天使だけで、前作の主人公だった青年の姿はどこにもない。
:この作者、人の心がないんか……
:天使ちゃんが何をしたって言うんだよ
「ん?」
天使に対して新たなインタラクトが表示された。
【挑戦】
【対話】
絢音はまず「対話」を選択した。
「もう、はっきりとは思い出せないけれど……私はここで、誰かを待っていたはずなの」
天使が口を開く。
「誰かを……?」
「ええ。でも、もう十分。あなたが来てくれたから、私はそろそろ、行かなきゃ」
天使の言葉に続いて、
「一緒に行きますか? 用事があるなら、ここで待っていてもいいけれど」
新しい選択肢が浮かび上がった。
【次のエリアへ進みますか?(引き返すことはできません。確認の上、選択してください)】
「そうだ、この子はあなたに預けるわ。連れていくことはできないから」
天使は抱いていた猫をプレイヤーに託した。
「それに……この子は、ここに残ったほうがいい気がするの」
「いいの!? ありがとう!」
絢音は一度、確認のためにカフェへと戻った。
「おや、もう次のエリアへ行く方法を見つけたのですか?」
ナイアが驚いたように声を上げる。
「さすがは星野様です」
そう言いながら、ナイアは手帳に新たな祝福を刻んだ。
ステータスの倍率を三倍へと引き上げた
HP:50 ×3
攻撃:15 ×3
防御:15 ×3
カフェの兄妹やリリに別れを告げ、絢音は再び中央広場へと舞い戻った。
「ここでの物語も、これで終わりなんだ……」
少しの感傷に浸りながらも、絢音は迷わずもう一つの選択肢を押し込んだ。
【挑戦】
「もちろん、一戦交えてから行くに決まってるじゃない!」
(せっかく瞳さんが用意してくれたボス戦なんだから、挑まないなんて勿体ないもの!)
荘厳なBGMが鳴り響く中、金髪の少女が宙へと浮上し、地上に立つ星野光を見下ろす。
背負った二対の翼が、静かに羽ばたいた。
本体よりも巨大なその翼は、冷徹な輝きを放つ金属質。
廃墟の街の中で、純白のワンピースだけが、異様なほど鮮やかに浮かび上がる。
「かっこいい……!」
:さすがエリアボス、格が違う
:BGMからして強そう
:予想通りw 戦闘狂の光ちゃんがボスを見逃すはずがなかった
「いざ、参ります!」
絢音は気合を入れ、熟練の手つきでコントローラーを操る。
画面の中の星野光は双刀を構え、残像を残すほどの速さで突進した。
「――私と、踊ってくださる?」
その声と同時に、翼が大きく広がった。
豪雨のごとき鋼の羽が長槍と化し、地上へと降り注ぐ。
回避。
星野光は旋回しながら飛び散る火花を突き抜け、強引にインファイトへと持ち込む。
だが、一枚の翼が、巨大な刃のように横薙ぎに振るわれる。
金属が空気を裂く悲鳴。
直撃。
星野光は弾き飛ばされた。
「うわっ……!?」
リカバーが間に合わず、追撃の羽の雨によって星野光はキャンプへと送り返された。
「すごい……さすがは天使ちゃん!」
次の挑戦では遠距離攻撃を試したが、すぐに羽の餌食となる。
「やっぱり、懐に潜り込むしかないみたいね」
何度もリトライを繰り返し、絢音はついにコツを掴んだ。
天使の攻撃は翼が起点だ。一つは近接攻撃としての刃。
これはパリィで体勢を崩し、隙を作るのが正解。
もう一つは、羽を射出する遠距離攻撃。
これが厄介だ。弾速が速く、数も多い。
油断すれば即座にキャンプ送りになる。
だが、発動前に大きな予備動作がある。
そのタイミングを見極めて走り抜ければ、回避は可能だ。
ようやく攻撃パターンを掴んだ絢音は、一気に攻勢に出る。
会心の一撃が入り、天使が空から墜落した。
雪のような白い足が、静かに地面へ触れた。
激しい変奏とともに――
背中の翼が、崩壊を始めた。
砕け散った金属の羽が空中で燃え上がり、まるで蒼い雪のように舞い散る。
直後、炎の中から優雅に広がったのは、血の通った温もりを感じさせる二対の純白の羽。
羽に纏った蒼い炎が地面へと燃え広がり、広場の縁を囲む巨大な火の輪を形成した。
「やっぱり、第二形態があるのね!」
絢音は驚くことなく、むしろ手帳を握る手に力を込めた。
「灰燼より、再び燃え上がらん!」
天使が唇を微かに開くと、重厚な金属音に代わって、澄み渡るような歌声が響き渡った。
「『灰燼』……? アレンジされてるのかな?」
絢音は戸惑いながらも、その歌声に耳を澄ませる。
天使が右の手のひらを星野光へと向けた。
轟音!
蒼い炎柱が雷霆のごとく降り注ぎ、広場の空間そのものを引き裂いた。
視界が瞬時に蒼に染まる。
絢音は回避ボタンを押す間もなく、HPバーが瞬時にゼロになった。
「な……っ!? 今のは……」
キャンプに送り返された絢音だったが、その瞳に落胆の色はない。
むしろ、負けず嫌いな彼女の心に、激しい闘志の火が灯っていた。
「もう一回! もう一回!」
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