【絢音】新しいスキルと祝福【瞳中の夢】
「なるほど、蒼白のクロウラーですか」
ナイアは手にしていた灰色の手帳を開き、何かを確認してから静かに頷いた。
「星野様、ご自身の手帳を開いてください」
【Eキーで手帳を開けます】
「手帳……?」
絢音は首をかしげながらも、指示通りにキーを押した。
手帳の最上部には、色分けされた付箋が貼られており、
「ステータス」「マップ」「クエスト」「エネミー図鑑」などの項目が整然と並んでいる。
「おお……凝ってるなぁ」
絢音が感心していると、ナイアが続けた。
「では、エネミー図鑑を開いてみてください」
ページを開くと、最初に表示されたのは蒼白のクロウラー。
万年筆で描かれたスケッチが添えられており、まるで旅の記録のような生々しさがあった。
「すごい……」
絢音は思わず声に出して説明文を読み上げる。
【蒼白のクロウラー】
旧都を徘徊する異形の怪物。
しなやかで細長い四肢は、高い機動力と登攀能力を持つ。
主に聴覚で獲物の位置を感知し、攻撃を受けると仲間を呼ぶ習性がある。
群れでの狩りを得意とする。
「なるほど……」
先ほど、クロウラーが甲高い声を上げた直後、周囲の個体が一斉に襲いかかってきた光景を思い出す。
「クロウラーは群居性の生物です。個体はそれほど強くありませんが、集まると非常に厄介になります」
ナイアは簡潔に説明し、続けて言った。
「リリィのところへ行ってみてください。きっと役に立つでしょう」
「ありがとうございます、ナイアさん」
星野光が礼を述べ、立ち上がろうとしたそのとき。
「少々お待ちを」
ナイアの声に呼び止められ、星野光は振り返る。
彼女は優雅な所作で、猫の肉球が刻まれた印章を取り出し、手帳へそっと押し当てた。
「頑張る子には、ささやかなご褒美を」
囁きとともに、印章が淡い光を放ち、粒子となって溶けていく。
ステータス画面には、小さな猫の足跡の印が新たに刻まれていた。
「かわいい! ……えっ、何これ!?」
絢音は目を見開く。
表示されているステータスの数値に、変化が起きていた。
元々のステータス:
HP:45
攻撃:10
防御:10
現在のステータス:
HP:45 ×2
攻撃:10 ×2
防御:10 ×2
「全部、倍になってる!?」
コメント欄も一気にざわめく。
:それ強すぎない?
:完全にチートで草
:ナイア様もっとください
「これは『猫の祝福』といいます」
ナイアは穏やかに微笑む。
「月里と和真から、猫探しを頼まれていましたね?」
「はい」
「猫を一匹見つけるごとに、この祝福が重なっていきます。どうか、引き続きよろしくお願いします」
「そんな美味しい話ある!?」
絢音は思わず声を上げる。
可愛い猫を探すだけで強くなれるなんて、猫好きの彼女には願ってもない仕様だ。
「それと、リリィは今、外の空き地にいます。お探しならそちらへ」
ナイアが付け加えた。
カフェの外へ出ると、そこには銀髪をなびかせながら戦うリリィの姿があった。
遠くのクロウラーを銃で正確に撃ち抜き、
接近してきた個体は、逆手に持ったナイフで一瞬のうちに仕留める。
無駄のない動きに、絢音は思わず見惚れる。
「すごい……」
やがて周囲のクロウラーを一掃すると、リリィは静かに周囲を見渡し、安全を確認した。
「私に何かご用でしょうか?」
【ナイア様に、助けが必要だと言われて来ました】
選択肢を選ぶと、星野光が事情を説明する。
「なるほど、理解しました」
リリィは頷き、足元のクロウラーの死体を軽く蹴る。
「こいつらは主に聴覚で獲物の位置を把握します」
リリィはナイフを鞘に収め、道端の石を拾い上げると、遠くの壁へと投げた。
カツン、と乾いた音が響く。
「……つまり、こういうことです」
「音で誘導することで、各個撃破が可能になります。叫び声を上げられる前に仕留めるのです」
【リリィが「石投げ」を教えようとしています。習得しますか?】
「もちろん、お願いします!」
絢音は即座に選択する。
「そして、クロウラーで最も厄介なのは、その群居性です」
リリィは続ける。
「一度囲まれれば、容易に挟撃されます」
「うん……さっきやられたばっかり」
絢音は苦笑する。
「さらに、攻撃を受ければ怯みが発生します。弱い相手でも、囲まれれば致命的です。……そんな時は」
リリィは短剣を構えた。
「私を攻撃してみてください」
「えっ、いいの? ……いくよ!」
星野光が双剣で斬りかかる、その瞬間。
リリィの目が鋭く光った。
一閃。
ナイフで攻撃を弾き、そのまま体勢を崩す。
「うわっ……!」
よろめきながら、星野光が声を上げる。
「今の何!?」
:かっこよすぎる
:パリィあるのかよ
:完全にソウル系
「これは『弾き(パリィ)』。攻撃のタイミングに合わせて防御することで、相手の体勢を崩し、致命的な隙を作ることができます」
【リリィが「弾き(パリィ)」を教えようとしています。習得しますか?】
「これを覚えれば、囲まれても生き延びる可能性が上がります」
「なるほど……ちゃんと対策あるんだ」
絢音は小さく頷いた。
「では、次はあなたの番です。私の攻撃を弾いてみてください」
リリィが踏み込み、斬りかかる。
「なんか狼のゲーム思い出すな……映画化するって聞いたけど」
雑談を交えつつも、絢音は集中を切らさない。
:劇場版マジ? 見に行きてえ。
:絶対観るわ
「公開されたら観に行こ……っと」
ボタンに指をかける。
「……今!」
カンッ!
澄んだ金属音が響いた。
完璧なタイミング。
パリィ成功だった。
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