【絢音】このゲーム、詰め込みすぎッ!!【瞳中の夢】
ナイアは優雅に手を伸ばし、向かいのソファを指し示した。
「どうぞ、お掛けください」
それに応じるように、リリが音もなくナイアの斜め後ろへと移動する。
胸の前で両手を重ね、直立不動で控えるその姿は、ボディーガードというよりは、洗練された執事のようだった。
(この人……どう見ても『七夜夢』の社長さんじゃん)
絢音は社長本人に会ったことはない。
だが瞳がその会社で働いているため、以前ネットで社長の情報を調べたことがあった。
きりっとしたショートヘア。
体に合った純白のスーツ。
冷静で有能そうな雰囲気。
特徴のすべてが、目の前のナイアと完全に一致している。
(自分の会社の社長をモデルにするなんて、瞳、後で怒られたりしないのかな……?)
そんなことを考えているうちに、
画面の星野光はすでに素直にソファへ座っていた。
ナイアはふっと口角を上げた。
「言ったでしょう? 私たちはまた会える、と」
彼女はまるで画面の向こう側にいる「誰か」へ語りかけるように、いたずらっぽくウィンクしてみせた。
「ね?」
「っ、なんという破壊力……」
絢音は胸を押さえた。
冷静で大人びた麗人が突然こんな茶目っ気のある仕草をするのだ。
ギャップが絢音にクリティカルヒットした。
:さすがナイア様。
:ギャルゲーだったら絶対攻略してた
「まずは星野様に説明しておきましょう。ここは『あの方』の夢の世界――ええ、あなたの想像通りの『あの方』、ね」
「夢? ……つまり、私は今、眠っているということ?」
「ええ、完全にそうとは言えませんが」
ナイアは意味ありげに微笑む。
「……どういう意味?」
「ここは、幻想と現実の狭間です」
ナイアは細い指先で、コツコツとテーブルを叩いた。
「星野様。あなたは、どうやってここへ来たか覚えていますか?」
「猫を追いかけて……」
星野光は一瞬考え、そして弾かれたように目を見開いた。
「そうだ、猫ちゃん! 私の猫ちゃんはどこにいるの!?」
ナイアは静かに手を上げ、
落ち着かせるように軽く手のひらを下へ向けた。
「落ち着いてください」
声は優しい。
しかし、不思議と従いたくなるような気配があった。
星野光は気まずそうにソファへ座り直す。
「あなたの猫、ですか。少々お待ちを」
ナイアはスーツの胸ポケットから灰色の手帳を取り出した。
表紙には万年筆が一本挟まれている。
しなやかな指先で開く。
: サイズ小さいけど、これ『記憶墜落』のノートじゃない?
: ここでも連動してるのか
(集大成とは言ってたけど、まさかこんな形で過去作を拾ってくるなんて……)
ナイアは数ページめくり、
やがて手帳を閉じた。
「見つかりましたよ」
「本当!?」
「正直に申し上げますと、あなたの愛猫は想像以上に元気なようですね」
「あの子は、今どこに?」
星野光は焦った様子で尋ねた。
ナイアはあっさりと、けれど明確に告げた。
「最深層ですよ」
「どうすればそこへ行けるの?」
その問いに、ナイアはすぐには答えなかった。
再び手帳を開くと、万年筆でさらさらと何かを描き込み、その一ページを破ってリリに手渡す。
リリはそれを星野光へ手渡した。
紙にはとても簡単な図が描かれていた。
いくつかの円が離れて描かれている。
一番上には【蒼白の旧都】と書かれている。
そして一番下の円には、猫の似顔絵を落書きした。
「かわいい!」
絢音は思わず笑った。
「ナイアさん、意外と絵うまいじゃん」
: ギャップ強すぎ
: 俺のナイア様がこんなに可愛いわけがない。
ナイアは説明を始めた。
「簡単に言えば、この世界はいくつもの層に分かれています」
「次の層へ進むには、その区域の『ノード任務』を達成する必要があります」
「ノード任務?」
ナイアは手帳を閉じる。
そして、より意味深な笑みを浮かべた。
「それについては、星野様ご自身で探索していただくしかありませんね」
少し間を置いてから、ナイアは続ける。
「ただ、一つ忠告しておきます」
ナイアは人差し指を立てた。
「ここは決して、安全な場所ではありませんよ」
光は先ほどの灰色のバケモノたちを思い出し、心当たりがあるように苦笑した。
「……ええ、それは身に染みて分かってるわ」
「ご安心ください。少しばかり助けを用意してあります」
ナイアはテーブルの上に置いてあった、もう一冊の灰色の手帳と万年筆を手に取る。
それをリリへ渡し、星野光に届けさせた。
「それは予備の手帳です。きっと、あなたの旅を助けてくれるでしょう」
【ナイアの予備手帳:マップや任務などの情報を記録できる】
「おお、これは便利そう」
「ありがとう、助かるわ」
星野光がお礼を言うと、ナイアは頷いた。
「では、リリ。彼女を訓練室へ案内しなさい」
「はい」
呼ばれたリリが一歩前へ出る。
「こちらへ」
リリに連れられ、地下へ降りる。
まず案内されたのは、様々な武器と防具が並ぶ部屋だった。
「お好きな武器をお選びください。隣に木人がありますので試し打ちもできます」
「武器? ……でも、私なんて使い方も知らないし」
不安げな星野光に、リリは淡々と告げる。
「案ずることはありません。その手に取れば、使い方は自ずと体が覚えるはずです」
【近接モードと遠距離モードをそれぞれ選択してください。随時切り替え可能です】
「うわぁ、迷うなぁ……。どれがいいんだろう」
まずは近接武器。絢音は目移りしながら選択困難に陥った。
「ご自由にお選びください。後から別の武器を試したくなった場合も、いつでもここで変更できます」
: 助かる
: 優しい設計
後から変更できると知り、絢音は一気に気が楽になった。
片っ端から試してみることにした。
最初に選んだのは、彼女がこれまでゲームでよく使っていた『双剣』。
攻撃速度が速く、動きも軽快。
ただし火力が低く、長期戦になりがちな武器だ。
星野光が双剣を手に取った瞬間、その瞳に鋭い光が宿った。
まるで百戦錬磨の戦士のように、木人の周りを舞うように回りながら斬撃を繰り出す。
「かっこいい! それにめちゃくちゃ速い!」
次に試したのは、正反対の『大槌』。
動きは遅いが、一撃の威力は非常に高い。
星野光は自分より大きな槌を両手で持ち上げ、
渾身の力で振り下ろした
しかしその重さに耐えきれず、攻撃の後に数歩よろけてしまう。
「一撃必殺っていうのも、ロマンがあっていいかも……」
:自分より大きい武器持つ女の子はロマン
:硬直がエグそうだな。
その後も、バランスのいい長剣や、防御に長けた棍棒などを一通り試した。
「よし! やっぱり双剣で行くよ!」
結局、絢音は最も手に馴染んだ双剣を選んだ。
遠距離武器は、弓、ボウガン、そしていくつかの投擲武器。
星野光が長弓を引き、木人の中心に矢を射る。
「先に言っておきますが、遠距離武器の威力は、弾薬の種類に大きく左右されます」
リリの説明によれば、初期の弾薬は無限だが威力は低い。より強力な弾を使いたければ、彼女から購入する必要があるという。
遠距離武器はバランスを考えて長弓にする。
「ここで使うお金は?」
星野光が尋ねると、リリは小判を一枚取り出した。
「こちらです」
「……って、これ『狐の巫女』に出てきた『小判』じゃん!」
絢音は思わずツッコミを入れた。
(瞳のやつ、何でもかんでも詰め込みすぎでしょ!)
一通りの準備を終えると、リリは軽く頭を下げた。
「回復アイテムが必要なら、月里を訪ねてください。……ご武運を」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ★★★★★とレビュー、それにブックマークもどうぞ!
励みになりますのでよろしくお願いいたします!




