イユーさんの居場所のはずなのに
不快な言葉遣い、表現が出てきます。
カジさんから置かれている状況を詳しくは聞けないものの、現状強制的に力を使わされている事はわかった。
しかも三人の嫁に裏切られ、もう一人の嫁は捕まっていそうな雰囲気。
これ程までに身も心もボロボロになったカジさんを責める事は出来ない。
「この隷属紋って解除はやっぱりかけた本人にしか解けませんか?」
「ええ。恐らくこの紋様では二、三人がかりで施したと思われます。その全員を一度に集めて解除となると現実的ではありませんな。ですが、ユエさんなら、ねえ?」
「……」
「スズキさん……そうだ、『隷属の腕輪』を付けられてたな。まさか、これも……?」
自分の背中を指しながら縋る様な目で私を見てくるカジさん。
「恐らくイケる……かも?」
「っ!? マジか!? いや、でも、俺が解放されてもイユーが……」
「解除すると掛けた側にバレます?」
「確実に伝わります」
「そっかぁ……じゃあ、今はやめた方が良いのかぁ……」
「くっ……」
とても悔しそうな表情をしたカジさん。
イユーさんはカジさんにとっての人質だもんね。
もし、今奴隷紋から解放されても、相手にバレたら捕まっているイユーさんの身が危ない。
うーん、困った。
このままじゃ、明日にもカジさんがメズラム国の人と戦いを始めなければならなくなる。
「それなら、そのイユーって人を連れてきちゃえば?」
「「「!?」」」
「場所は……グゥッ!」
「カジさん!」
居場所を教えてくれようとしたんだろうけど、紋の縛りか、また胸を苦しそうに抑えるカジさん。
やはり言えないか。
「場所は言えないんですね……」
「でも、トコ様ならわかるでしょ?」
「え? 何で? 知らないよ?」
「でも、その人を追ってここまでこれたよ?」
「……はっ!! そうか、そうか! えらい、オリちゃん!」
「えへへへ」
そうだよ、さっき“予定”スキルでカジさんのいる場所へ来たばかりじゃない。
そんな事ももう忘れてたよ。
みんなに背中を向け、“予定”スキルに『ヒデオ・カジの妻イユーの元へ向かう』と入力したら、実行可能のポップアップが出たから行けそうだ。
でも、ここからどの位かかるのかまでは分からない。
一日で返って来れるのか。
いや、もし帰ってこれなかったとしても、カジさんがモジンバルの本陣に着く前にイユーさんを救い出せれば、その場で“予定”スキルを使ってカジさんの隷属紋を解除してしまえば良いんだ。
そうすればカジさんが戦わずに済むし、被害を少なく出来る。
それに、グンちゃんに頼めば一日でかなりの距離を進めるはずだ。
何だかいけそうな気がしてきた。
「オリちゃん、またグンちゃんの力を貸して欲しいんだけど良いかな?」
「うん!」
「ありがとう」
今回は出来るだけ速度を出して移動することと、グンちゃんの負荷を減らすため、私とオリちゃんの二人で向かう事になった。
ナージンさんとヒースさんは、カジさんから少し離れた所で彼の監視をしてくれる。
グンちゃんは夜目が効くらしく、夜でも飛行は可能だけど、流石に休憩なしで飛ぶことは厳しいし、私達も睡眠をとる必要があった為、三時間後に出発した。
籠ではなくグンちゃんの背に乗って。
バステト様の背中を思い出して会いたくなってしまったのは今は置いておく。
グンちゃんの背に乗って三時間と少し、スマホのマップアプリを確認すると、どうやらモジンバル帝国の帝都に私達は向かっていたようだ。
時刻は深夜二時過ぎ。
隠匿操作スキルで今私達は認識出来ない状態になっているが、流石にグンちゃんに乗ったまま帝都に入ると、隠匿操作を解いた後のグンちゃんを見て騒ぎになる可能性があったから、帝都近くの人気のないところで降りた。
一時グンちゃんと離れ、オリちゃんと二人で帝都に向かう。
勿論オリちゃんと手を繋ぎ、隠匿操作で見つからないように。
そうしてまだ閉まっている防壁の門の横、兵士が通る扉からこっそり帝都に入る。
ちゃんと“予定”スキルに『見つからず帝都へ入る』と入力したからか、問題は起きるはずがない。
そして、“予定”スキルに導かれるまま進むと、月明かりで照らされた大きな城の前に着いた。
もしかしたらと思っていたけど、やはり帝城にイユーさんは捕らえられている様だ。
城門もくぐり抜け、豪華な城の中を進む。
時々見回りの兵士とすれ違うが、気づかれる事はなく大きな扉の前で足が止まった。
良かった、ちゃんとした部屋に隔離されているんだ。
もしかしたら地下牢とかに入れられて、食事もままならない状態なのかもしれないと不安だったけど、これだけ大きな扉の部屋なら中はきっと豪華だし、食事や待遇も問題ないかも。
私は安心してその大きな扉をそっと開けたが、ムワッとした何とも言えない不快な匂いに鉄分が混ざった様な匂いが部屋の中に充満していて、先程までの安心が一気に不安へと変わった。
室内には数カ所に灯りが灯され、薄暗い状態ではあるが室内を確認出来る。
そこはとんでもなく広い応接室の様な作りで、奥には幾つか扉があり、その一つが開いた状態となっている。
嫌な予感はするけど、その扉に向かい中へ入ると、その不快な匂いはより一層強くなった。
先程の部屋よりも照明が落とされた部屋には、人が余裕で四、五人は寝られそうな程大きなベッドがあり、その中央に一人横になっている。
顔は見えないが、大きさから見て男性だと思う。
イユーさんの居場所なはずなのに、恐らく男性が寝ている。
すごく嫌な予感……
「何者だ」
私の近くで物凄く低い男性の声が聞こえた。
そして、いつの間にか目の前に黒い人影としか認識出来ない影が、鋭利な刃物らしきものを構えていた。
「ヒェッ」
いきなり現れた事に驚き、つい声を出してしまった。
その瞬間キンッと言う金属音が鳴る。
「グゥッ」
「えっ?」
何が起きたのかわかっていないけど、さっきまで手を繋いでいたはずのオリちゃんが、今は目の前で私に背を向けている。
そして、少し離れた所で黒い影が呻き声を上げている。
「トコ様、あれ襲ってきたから倒して良い?」
「え? う、うん? 人?」
「人族みたいだよ」
「え、いつの間に襲われ……じゃない、殺ろさないで捕まえられる?」
「うん! やってみる!」
その瞬間ドゴッと鈍い音がし、音と共に黒い影が床に転がるのがわかった。
え?
ちょっ、ちょっと展開が早すぎてついて行けないんだけども。
「これでいっか!」と言いながら、ベッドの上に置かれていた帯の様なもので黒い影をグルグルに巻いているオリちゃん。
「何だ! 何が起きた!!」
ヤバイ。
雑にベッドの上の帯を取ったのもあるけど、この一連のやり取りでベッドの主が起きてしまった。
取り敢えずこの寝ていた男も敵な気しかしないから。
「オリちゃんあいつも黙らせて!」
「はーい!」
オリちゃんの返事と共にベッド脇の何かを掴もうとしていた男はそれを手にする事なく、ベッドに倒れ込んだ。
暗いのもあるけど、オリちゃんの動きが速すぎて起きた結果しか分かってない私。
まずは現状を把握しようとストレージからランタンを出し部屋を明るくする。
ベッドには、五十代ぐらいの男が全裸で横たわっていて、ベッドの手前には、全身黒装束の体格からして男性がベッドの帯で縛られて転がっている。
だが、イユーさんらしき女性が見当たらない。
何処にいるのかとこの部屋の奥に進むと、大きなベッドで隠れていたが、ベッド奥の床に人の足が見えた。
その足を見た瞬間、嫌な予感がさらに増し、急いで駆け寄ると、その姿を見て絶句してしまった。
そこには、とても荒い呼吸で、ガリガリに痩せ細った全裸の女性が、無機質な首輪を付けられ床に横たわっていた。
しかも鞭で打たれたようなミミズ腫れの跡が全身に広がり、血まで滲んでいる。
乱暴された事は見るからに明らかだ。
「なんて事を!!」
私は慌てて駆け寄り、回復魔法の『ハイヒール』をその女性にかける。
見える外傷は魔法で癒えたけど、痩せ細っている体は変わらない。
それから、持っていた外套をストレージから取り出し、女性にかける。
さっきまで荒い呼吸だったのが、落ち着いたのを見て怒りが込み上げてきた。
「やったのこいつか!?」
ベッドの上で寝てやがったこの男がやったに違いない!
ふざけやがって!
「オリちゃんごめん、こいつグルグル巻きにするの手伝って貰える?」
「はーい!」
全裸の男をオリちゃんに見せるのは忍びなかったけど、私だけでは手に負えなかったので手伝ってもらった。
全く気にしていない様子で少し安心したけど、ごめんねオリちゃん。
シーツで全身をグルグル巻きにして、口にも布を巻いて黒装束の男の横にベッドの上にいた男を転がす。
それからベッドに『クリーン』をかけ、女性を寝かせた。
念の為“予定”スキルで、『この部屋には私が許可した者以外入れない』と設定しておいたから、他の人に邪魔はされないだろう。
ついでに外に声が漏れないよう室内の音声も遮断している。
私の中では既に確定してるけど、まずはこの人達の素性を調べないと。
鑑定で調べた結果、ベッドで寝てた男がモジンバル帝国現皇帝のエンゾ・ロドリゴ・カステロン。
黒装束の男は皇帝の隠密で筆頭護衛。
痩せ細った女性がイユーさんで、首についた無機質なものはやはり「隷属の首輪」だった。
初めにイユーさんの首輪を外したかったけど、所有者が皇帝ではなかったから外して誰かに勘付かれるのを防ぐ為、まだ外すのはやめておいた。
思わぬところでモジンバル帝国皇帝を拘束することになったけど、全ての元凶はこいつだ。
まだ話は聞いていないけど、こいつがイユーさんに乱暴したのも明白。
朝まで時間がないけど、何とか懲らしめてやる!!
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