悪役のベタなセリフ
ちょっと駆け足過ぎたかもしれません…
今、私の目の前に転がっているのは、モジンバル帝国皇帝とその影の護衛。
すぐにでも懲らしめてやろうと思ったけど、まずはやる事をやってからだと思い直す。
イユーさんの姿を見て怒りで大事な事を忘れてしまってた。
ストレージから水の出る魔道具を出し、皇帝の口に巻いた布を取り、頭から水を掛け強制的に起こす。
「ブハッッ! 何だ! っ!? 貴様何者だ!」
「誰だって良いでしょ」
「っ!? 影までも!? 誰か! 誰かおらぬか!!」
「騒いでも無駄。声は外に届かないから。で、あんたこの国の皇帝だよね?」
「……」
私が外に声は届かないと言った時から騒がなくなった皇帝。
何か考えている様だけど、抵抗しようとしても恐らく無駄だよ?
最強七歳のオリちゃんがそれを許すわけないじゃない。
「まあいいや、皇帝だって事はわかってるし。で、確認だけど、何で戦争を始めたの?」
一応ね、何か理由があって始めた事かもしれないからちゃんと聞いておこうと思ってね。
「何故だと? 決まっておるだろう、朕こそが誰もなし得なかったこの大陸を統べる覇者であるからだ」
「は?」
「賢者という駒が手に入ったからな。漸くこの大陸が朕のものとなる時が来た。いささか勇者と聖女が邪魔であるが、どうとでもなるからな」
「……やっぱりクズか」
「貴様、先程からなんたる無礼!__」
ギャーギャー喚いているけど、こいつが私利私欲の為だけに侵略戦争を始めた事はわかった。
じゃあ、もう遠慮しなくていいね、する気はサラサラ無かったけど。
「うっさいなぁ、まずはこれ見てサインして」
皇帝の言葉は無視して私が取り出したのは、モジンバル帝国が敗戦を認め軍を撤退させ、各国に慰謝料を支払う旨を記載した魔法誓約書だ。
魔法誓約書とは、そこに記載された内容を破った場合、誓約書に記載された制裁内容を強制的に受ける魔法のかかった書類で、一枚作成するのに多大な時間と額がかかると言っていた。
ただ、国家間でのやり取りの際には必ず用いられているそうだ。
ちなみに、今回記載されている制裁内容は破ったら死に至るもの。
これは事前にナージンさんが持っていけと強引に私に渡していたもので、イユーさんの奪還を目的としてた私は使う事はないだろうと思ってたのに、ナージンさんはこうなる事が分かってたかのようだ。
皇帝の性格を知った上でこう言う状況になっていると予測していたのかな?
そうだったら、流石としか言いようが無い。
「なっ!? ふざけた事を! 認める訳がなかろう!」
「いや、あんたが認めなくてもサインして。あ、オリちゃんこいつの右手だけ出してもらえるかな?」
「はーい!」
「ぶ、無礼者! 朕に触れるな! ガハッ!」
おお、手荒いねオリちゃん。
抵抗する皇帝の顔に一撃喰らわせて、静かにさせた所で一度拘束を緩め右手だけを出させる容赦無さ。
また水を頭からぶっかけて起こしたけど、自発的にはサインしない。
「貴様ら、タダでは済まさぬぞ。時期に朕の様子を見に来た者により貴様らの侵入が知れ渡ることよ。覚悟しておけ、八つ裂きにしてくれるわ!」
「……」
「何だその無礼な顔は!!」
何てベタな悪役が言う様なセリフ。
自分で死亡フラグ立てちゃってるよこの人。
と、思っていたらどうやら思いっきり顔に出ていたようで、憤慨する皇帝。
「あまりにもベタなセリフだなーと思って。それ自分で死亡フラグ立ててますよ?」
「死亡フラ? なに訳の分からぬ事を!!」
「まあ、わからないよね。兎に角私とこの子には危害を加える事は出来ないから。はあ、流石にサインしろと言ってサインする訳無いか。じゃあ……」
「おい! 起きろ!! 朕を守るのだ! この役立たずが!!」
皇帝が隣で気絶している影を出ている右手で殴って起こすけど、影は身動きが取れないし口も塞いでいるから話す事も出来ない。
それを見て余計イライラし始める皇帝。
私はそんなのお構いなしで、スマホを取り出し“予定”を入力する。
もちろん皇帝にサインをさせるという内容を。
提示した書類にサインさせるだけなら魔力消費は「1」。
「な、体が! や、やめろ! やめろーー!!!」
「はい、ありがとうございまーす。最後に血判いただきまーす」
そうこの魔法誓約書は最後に血判も必要なのだ。
血にはその人の魔力も宿っていて、誓約書は血判を押さないと効力を発揮できないそうだ。
サインと血で偽造できちゃいそうだけど、そもそもこの誓約書自体が貴重だし、皇帝という地位の人の血などおいそれと手に入る物ではないから偽造は現実的では無い。
だけど、偽造もどきな事をさせられるのが“予定”スキルの怖い所。
直接的に生命を奪う事はできなくても、こんなに簡単に命のやり取りが発生する書類にサインさせることが出来るんだから。
だけど、この皇帝に対しては罪悪感を微塵も感じない。
私利私欲の為に他国に攻め入り、多くの死者を出して何とも思っていないんだから。
「これで、良いかな?」
「トコ様終わり?」
「うん、後は首輪と隷属紋を解除しちゃうね」
誓約書にサインと血判を押した事で、真っ白になっている皇帝を横に、私はイユーさんの首輪とカジさんの隷属紋を解除する内容を“予定”スキルに入力する。
イユーさんの首輪を外すのに魔力消費は「5」。
以前エメリアちゃんの首輪を外した時と同じだけの魔力消費量だ。
だけど、カジさんの隷属紋解除は魔力消費「150」。
ヤヴォン国王の呪いを解いた時と同じ消費量。
かなり強力な紋様だって事はわかったけど、解除出来てよかったよ……
「オリちゃんお待たせ、全部オッケーだから帰ろうか!」
「この人達は?」
「放って置いて良いでしょう」
「わかった! 外にグンちゃん呼んで良いんだよね?」
「うん、お願い」
「はーい!」
「ま、待て……誓約書を置いていけ……必ずや」
「渡す訳ないでしょ。あ、人が来そうだ。報復はまた今度するから〜」
恐らく首輪と隷属紋を解除したのを知った人達が慌ててこっちに向かってきているんだと思う。
私はベッドに横になっているイユーさんをおぶり、皇帝の言葉は全シカトし、寝室らしき部屋から出て奥の広いバルコニーに出た。
そこには既にグンちゃんが待機しているが、その横に黒装束の人が二人ほど転がっている。
「あ、バルコニーに結界を張るの忘れてた……ごめんねグンちゃん」
「グォォォ〜」
「問題ないってー」
転がっている黒装束の人たちを鑑定したけど、どちらともレベル百を超えてるよ?
問題ないって言えるのはグンちゃんだからだろうね。
また刺客が現れるかもしれないから急いでストレージから籠を取り出し、乗り込んだ。
イユーさんを背から下ろし、“予定”スキルに私達の周りに結界を張ると入力する。
が、入力している最中にオリちゃんが槍で何かを弾いた。
ヤバイヤバイと入力を終えて実行したところで、ドーンと大きな音がして、透明な結界に炎の弾が当たるのが見えた。
危ない、籠を燃やされたら帰れないところだった……
グンちゃんに合図をし飛び立つ間も兵士やローブを着た人達が集まってきて、ずっと攻撃を受け続けている。
こっちの被害はゼロだが、悔しいから魔法で城の庭園中央にある目立つシンボル的な像を壊してやった!
恐らく皇帝を模して造られたものだと思うから余計スッキリ!
取り敢えず皇帝の寝室に張った結界は解除。
今頃大変なことになっていそうだなとニヤニヤしながら、遠くなる帝城を見送った。
♢♢♢
籠に乗ること暫く、イユーさんが目を覚ました。
「!? どなたです!? ここは!?」
「あ、落ち着いて下さい! 今は空の上なので慌てると危ないですよ」
「ヒィッ!!」
身を乗り出して抵抗しようとしたイユーさんは、籠の外を見て腰が抜けたようで、顔を青くして膝を抱えてしゃがみ込んだ。
「私カジさんの知り合いです! スズキと申します。あなたを助けに来ました」
早口で伝えると、イユーさんは顔を上げてくれた。
でもその顔にはまだ不安な様子が浮かんでいる。
「カジさんの隷属紋も解除しましたから!」
「!? 私の首輪も……ヒデオ様……ああぁぁ」
自分の首を触って首輪がないことに気づき、安堵したのか泣き出したイユーさん。
カジさん、ヒデオ様って呼ばせてるのかって思ったけど、私だってオリちゃんに様付けされてた事を思い出し、恥ずかしくなった。
そんな泣いているイユーさんをまじまじと見る。
全体的に痩せてしまっているけど、綺麗な人だ。
焦茶のロングの髪は今は乱れているが整えればきっとサラサラで、目は藍色、手足が長く顔も小さい。
肉付きが良くなったらさぞやお美しいだろう。
あの面食いめ!
暫く泣いていたイユーさんだけど、お水をコップに入れて差し出すとゆっくり飲んでくれた。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。改めまして、ムガド国国王ユリウスが三女、イユーチェ・シーナ・オリストルと申します」
「へっ?」
「王女さまぁ?」
「はい。此度はお救い下さり感謝の念に堪えません」
「ヒェ、王女様だったなんて……あ、頭を上げてください!」
まさかのイユーさんは王女だったよ!
あの人ムガド国の王女を娶ってたんかい!
ん? ムガド国って、モジンバル帝国に占領されてしまったあのムガド国!?
「ムガド国って……」
「はい、モジンバル帝国に侵略を許してしまいました。それも私のせい。生きている資格など無いのです」
「いやいやちょ、ちょっと待って! 降りようとしないで! せっかく救ったのに!」
「ですが、」
「良いから落ち着いて! 取り敢えずカジさんに無事な姿だけは見せないと。それにムガド国再建も待ってるんだから!」
「ムガド国は既にモジンバル帝国の手に渡って、」
「もう終わるから!」
「え?」
「モジンバル皇帝に誓約書書かせたから! 敗戦を認めて慰謝料払うって」
「え?」
それを聞いたイユーさんはフリーズしてしまった。
兎に角話を聞いてほしいから、落ち着かせないと。
ストレージから寸胴を取り出し、中のスープを器に盛る。
きっと固形物は今の体には良くなさそうな気がするからね。
「……良い匂い……」
温かいポタージュスープを差し出すと、フリーズしていたイユーさんはポロポロと涙を流しながらそれを受け取り、少しずつ飲んでくれた。
「美味しい……美味しいです」
「取り敢えず今はゆっくりして下さい。もうすぐ着きますから」
「……はい。何から何まで申し訳ありません……」
疲労の溜まっていたイユーさんは、スープを飲むと気絶するように眠りについた。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
ちょっと予定スキル使いすぎな気もしますね…
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