時空の三連星 第5章 第7話
第5章
第7話:深まる契り、王女の誓い
神の眼を持つミコの誕生、そしてシエルに下された「母様禁止令」を経て、サブライム家の規律と絆は、より一層の美しき輝きを放ち始めていた。
ハルが絶対安静のベッドから少しずつ上体を起こせるようになり、ガイが我が子をあやす姿を嬉しそうに解析し始めた頃、屋敷の機能はリリスの驚異的な大車輪の活躍によって、完璧に維持されていた。
だが、そのリリスの胸の奥には、シズ様から授けられた「約束」が、消えない熱となって燻く(すぶ)り続けていた。
(シエルの子を、懐妊したその時……私は本当の家族として、リリと呼ばれる……)
夜。シエルの私室へと戻ったリリスは、いつになく緊張した面持ちで、お茶のトレイをサイドテーブルに置いた。
衣服の裾を整え、ベッドに腰掛けて書物を読んでいたシエルの前に跪く。
「シエル様……本日のお夜食でございます」
「ありがとう、リリス。いつも屋敷のみんなのために、本当に尽くしてくれて感謝しているよ」
シエルは本を閉じると、いつものように穏やかで、しかし次期当主としての凛とした気品を湛えた瞳でリリスを見つめた。
リリスはその白い指先を見つめながら、意を決したように網膜を潤ませ、顔を上げた。
「シエル様。わたくし……もっと貴方のお役に立ちたいのです。アオイ様やハル様が、カイル様やガイ様と深い結合パルスを紡ぎ、新たな至高の命を授かったように……わたくしも、貴方の本当の伴侶に」
サキュバスの王女としての情熱、そして一族に敷かれた厳格なる礼節への敬意。
そのすべてが混ざり合ったリリスの告白に、シエルは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに狂おしいほどの慈愛を込めて微笑んだ。
「リリス。僕だって、その日をずっと待ち望んでいる。君がこの屋敷で、どれほど決死の覚悟でみんなを支えてくれているか、僕はちゃんと見ているからね」
シエルはベッドから音もなく降りると、リリスの褐色の細い手首を優しく、しかし確かな力強さで引き寄せた。
「おいで、リリス。僕たちの、新しい因果を紡ごう」
「……っ、はい、シエル様……!」
二人の肉体が重なり合い、日々に重ねられるサブライム家の濃厚な「調律」の夜へと没入していく。
シエルの放つ純白の魔気と、リリスの持つ異界の淫靡な魔力が、密室の中でこれ以上ないほど美しく融解し、激しく脈打ち始めた。
それは、ただの快楽の貪りではない。一族の未来を繋ぐための、神聖にして苛烈な「命の対話」であった。
◇
翌朝。
中庭に面した回廊を、執事セルはいつものように「想定内、想定内……」と小さく呟きながら、足早に歩いていた。
だが、その手元にある魔力測定端末が、突如として奇妙な数値を弾き出したため、老執事はその足をピタリと止めた。
「おや……? これは、屋敷の結界の出力が、微かに、しかし決定的に変質している……?」
その異変に、いち早く気づいたのは正妃シズであった。
シズは庭園のガゼボで、完璧な所作のまま紅茶のカップをソーサーへ戻すと、ゆっくりと立ち上がった。
衣服の袖を優雅に払い、どこまでも高く澄み渡った青空を見上げる。
流れる雲の隙間、時空を栽いて届く最愛の夫・駿の『思念』が、今朝はいつも以上に温かく、そして何かを確信したように屋敷全体を優しく包み込んでいた。
シズの瞳から、またきらりと一筋の涙が伝い落ちる。
だが、その唇には、未来の繁栄を約束された絶対女王としての、至上の微笑みが浮かんでいた。
「フフ……。本当に、仕事の早い子どもたちですね、貴方……」
まだ誰も言葉にしていない、しかし確かに始まりを告げた、新たなる至高の因果。
サブライム家の絆は、約束された未来へと向かって、さらに深く、濃密に調律されていくのだった。




