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時空の三連星 第5章  第6話

第5章 


第6話:神の眼を持つ命と、課せられた礼節



次女ハルが命懸けで産み落とした、サブライム家にとって二人目となる新たな命。

その赤ん坊の命名を巡り、正妃シズは珍しく、幾日も頭を悩ませていた。

その子は、余りにも凄いとしか言いようのない、恐るべき資質を生まれながらに

秘めていたのだ。

現世と異界をまたぐ天才解析者ハルと、強靭な結界師であるガイ。その二人の因果と血脈が限界を超えて交わった結果、赤ん坊は寝床でほんの少しムズがる瞬間

その両のまなこを一瞬だけ、怪しく、そして神々しく発光させるのである。

空間の因果そのものを視破みやぶるかのような、神域の眼。

この異常とも言える兆候を知っているのは、屋敷の中でもシズ、アオイ、ハルの三人のみであった。

庭園のガゼボで、ハーブティーのカップを静かに傾けながら、シズは長い沈黙の末、ようやく決めたその名を唇に乗せた。


「……『ミコ(神子)』。あの子の名は、ミコ・サブライムといたしましょう」


神の眼を持つ子、ミコ。

一族の未来を照らすその厳かな名が決まった瞬間、屋敷の空気が一段と

引き締まったように感じられた。

その日の午後、陽光が穏やかに降り注ぐ庭園のガゼボにて。

シズの傍らに立ったシエルは、嬉しさのあまり、つい幼少の頃のような甘えた口調で言葉を漏らしてしまった。


「母様。ハル姉様の子、ミコは本当に凄い資質ですね。僕もあの子の成長が楽しみです」


その瞬間、シズの美しいまゆが、ぴくりと厳かに動いた。

シズは手にした扇を流れるような所作で一振りし、衣服の裾をわずかに揺らしながら、シエルをまっすぐに見据えた。


「シエル。本日を以て、私を『母様』と呼ぶことを禁止いたします。二度目ですこれからは、しかと『シズ様』と呼びなさい」


「え……あっ」


シエルが驚いて言葉を詰まらせると、背後に控えていたハルが、愛娘ミコを抱くガイの隣から、網膜を刺すような三日月型の瞳を向けて静かに言葉を継いだ。


「当然の処置です、シエル。貴方はもう、サブライム家の次期当主。そして、リリスめとった一人の男なのです。いつまでも身内に甘えたパルスを発していては、一族の規律セキュリティが乱れます」


長女アオイも、サクラをカイルに預け、武闘家としての完璧な重心を保った立ち姿で深く頷く。


「私達家族も、これからはお前を甘やかさないよ。礼節は身内にこそ厳しく敷くものだからね、シエル」


シエルは一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、すぐに背筋を伸ばし、次期当主としての凛とした表情で深く一礼した。


「……はい、シズ様。アオイ姉様、ハル姉様。僕の不徳ふとくでした。今後は一族の長としての自覚を持ち、礼節に則って振る舞います」

シズたちの厳しい、しかし深い愛の籠もった教育を見届けながら、お茶の給仕をしていた魔王の娘は、静かに頭を垂れていた。

彼女の今の呼び名は、一族の序列と作法を守るため、厳格に『リリス』と統一されている。

シズはリリスの高貴で無駄のない所作を見つめ、カップを音もなくソーサーへ戻すと、フッと慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「リリス。貴方も、よく聞いておきなさい」


「はっ、はい、シズ様」


リリスが居住まいを正すと、シズはどこまでも高く澄み渡った青空を見上げ、時空の隙間から見守る駿の『思念』を感じ取りながら、優しく告げた。


「今はまだ、貴方は一族の礼節のなかにあります。……ですが、いずれ貴方がシエルの真の伴侶となり、その胎内に新たなる至高の血脈――シエルの子を『懐妊』したその時。私達は初めて、貴方を親しみを込めて『リリ』と呼ぶでしょう、貴方の希望でしたね」


ハルもアオイも、そしてカイルやガイも、皆がリリスへ向けて温かい、確かな未来の家族としての眼差しを送っていた。


「その時こそ、貴方は真のサブライムの一員。……リリと呼ばれるその日を、楽しみに待っていますよリリス」


「シズ様……っ。はい……はい! わたくし、その日のために、もっともっとシエル様を支え、皆様にお仕えいたします……!」


リリスは胸の奥から溢れ出る熱い情動に、涙を堪えながら、メイド服の裾を握りしめて深く平伏した。

神王・駿の温かい思念が、シエルへの厳格なる教育と、リリスの未来の約束、そして神の眼を持つミコの誕生を、どこまでも優しく祝福するように包み込んでいた。

 サブライム家の絆は、新たなる礼節と共に、さらに強固なものへと調律されていくのだった。




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