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小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第三章 未来を知っている中学生

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閑話 赤いペンのついで【一周目・中学二年の藤宮恒一】

 六時間目の数学が終わる少し前、井上《いのうえ》がノートの上で赤いペンを振った。


「出ない」

「さっきまで使ってただろ」

「今、出なくなったんだよ」


 ペン先を紙に押しつけても、薄い線が二本つくだけだった。俺のを貸すと、井上は先生が黒板を消し始めるまで、残りの答えを急いで写した。


 帰りの会が終わっても、井上はまだ俺のペンを握っていた。


「返して」

「これ、書きやすいな。どこで買った?」

「駅前の文房具屋」

「じゃあ帰りに寄るから、つき合ってよ」

「今日は帰って漫画読むつもりだった」

「ペン一本だから、すぐ終わるって」


 急いで帰る理由でもないので、井上と一緒に教室を出た。


 廊下に出てから、井上が聞いた。


「藤宮、駅前って帰り道?」

「少しだけ遠回り。井上は部活、いいの?」

「今日は休み。だから今行くんだよ」

「明日でも買えるだろ」

「じゃあ明日も貸してくれる?」


 貸さないと言うと、井上は自分の空になったペンを筆箱へ押し込んだ。


 昇降口へ向かう廊下で、悠斗と遼太が話しながら横を通り過ぎた。


 昇降口では、七海が別のクラスの女子と靴を履き替えていた。俺に気づき、片手を上げる。


「藤宮、またね」

「またな」


 七海は隣の子の話へ戻った。俺も井上を追って外へ出る。


「知り合い?」

「小学校からの友達」

「そうなんだ。あ、ペン、店で比べていい?」

「いいけど、ちゃんと返せよ」


 井上は俺のペンをもう一度見た。透明な軸の中まで赤いだけで、店に同じものがあるかは分からない。


 駅前の文房具屋には、似た形のペンが何本も並んでいた。井上は俺のを見比べながら、一本ずつ手に取る。


 店の奥では、小学生二人が新しい筆箱を開けたり閉めたりしていた。大きな音がするたびに店員がそちらを見て、二人は笑いながら閉じる手をゆっくりにする。俺が棚の前を空けると、井上はかがんで下の段まで探した。


「これ?」

「違う。そっちは太い」

「じゃあ、こっち」

「それ青だぞ」

「あ、隣の赤を取ったつもりだった」


 井上が戻したペンの横に、同じ細さの赤を見つけた。俺の軸と並べると、先についている銀色の輪まで一緒だった。


 試し書きの紙に井上が一行書き、俺のペンでも隣へ書いた。どちらの線も同じ濃さだったが、井上は二本をもう一度並べる。


「どう、同じ?」

「うん。同じ。これにする」


 井上は見つけた一本を持ってレジへ向かい、途中で消しゴムも手に取った。


「ペン一本じゃなかったじゃん」

「これは、ついで」


 店を出たところで、井上が俺のペンを返した。向かいのパン屋から焼けた匂いがして、井上が足を止める。


「パン屋もついで?」

「見てるだけ」


 言いながら先に入っていったので、俺も続いた。棚にはあんパンが二つ残っていた。井上は片方を取り、俺はカレーパンを選ぶ。


「漫画、早く読みたいんじゃなかったの?」

「お前がパン屋に入ったんだろ」

「藤宮も買ったじゃん」

「腹減ってたんだよ」


 店を出ると、井上はあんパンを食べ始めた。俺もつられてカレーパンの袋を開けた。


 駅へ向かう道の手前で、帰る方向が分かれる。井上は買ったばかりのペンを鞄の外ポケットへ差した。


「明日、数学のノート見せて。最後、間に合わなかった」

「ペン貸したのに?」

「書くのが遅いんだって」

「先に言えよ。写すの待ってたのに」

「お前、帰りたそうだったし」


 確かに、教室では鞄を先に持っていた。


「明日持ってくるよ」

「頼む。夕飯前にパン食ったの、うちの母さんには内緒な」

「言うわけないだろ。俺も食ったし」


 井上は笑って、駅の方へ歩いていった。


 家に着く前にカレーパンを食べ終え、袋を丸めて鞄へしまった。家に着くと、数学のノートを鞄のいちばん上に入れ直した。それから机に置いていた漫画を開いた。

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