↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第三章 未来を知っている中学生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/99

第八十二話 自分の番号

 土曜日の朝、父さんが新聞の折り込み広告を食卓に広げた。


 少し前に佐伯が学校に持ってきた広告とは、別の店のものだった。二つ折りの携帯電話が何台も並び、それぞれの下に小さな字で料金が書いてある。


「本当にいるのか」


 父さんは広告を見たまま聞いた。


「この前、練習が延びた時に家には電話できたけど、七海たちには連絡できなかったから」

「七海たちは、携帯を持っているのか」

「持ってないと思う」

「なら、持ってても連絡できないだろ」

「誰かが家に戻ったあとなら、そこから俺の携帯にかけられるし、外で待ち合わせる時にも使える」

「毎日持っていくつもりか」

「部活のある日は持っていきたい。学校では使わないよ」


 母さんが、食べ終わった皿を重ねた。


「学校の中ではどうするの?」

「電源を切って鞄に入れておく」

「授業中に鳴ったら、お父さんかお母さんまで学校に呼ばれるかもしれないからね」

「切るって」

「忘れるかもしれないでしょ」

「家を出る前に確認する」

「持っていっていいかは、先に先生に確認するぞ」


 父さんが言い、母さんも担任に電話すると答えた。


 父さんは広告の端に、赤いペンで「学校では切る」と書いた。


 ペンを止め、俺の目を見る。


「忘れないな」

「忘れない」

「あと、毎月料金がかかるんだぞ」

「通話した分もだろ」

「メールも、使い方によって料金が増える。最初から高い料金プランにはしないぞ」

「そんなに使わないよ」


 姉ちゃんが冷蔵庫から麦茶を出しながら笑った。


「最初はみんなそう言うんだよ」

「姉ちゃん、そんな使ってるの?」

「私は関係ないでしょ」

「今の言い方だと使ってるじゃん」

「こういちよりは友達多いから」

「人数と料金は関係ないだろ」


 母さんが姉ちゃんの持っていた麦茶を受け取り、先に自分の皿を下げるように言った。


「とにかく、最初の何か月かは明細を一緒に見るぞ」


 父さんが言う。


「分かった」

「夜遅くに使わない。知らない番号にかけ直さない。なくしたら、すぐ言う」

「うん」

「返事が軽いな」

「全部分かってるからだよ」

「分かっていても忘れるのが子供だ」


 俺が言い返す前に、姉ちゃんが口を挟んだ。


「父さんだって携帯忘れて会社行ったことあるじゃん」


 父さんは広告から顔を上げた。


「一回だけだ」

「二回見たよ」

「いつだ」

「去年と、今年」


 母さんが笑いながら食卓を拭いた。


「忘れないように、玄関で確認するのは全員ね」


 * * *


 午後、父さんと店へ行った。


 入口の近くには、本物と同じ大きさの見本が並んでいる。広告では同じように見えたが、持つと厚さも重さも違った。


 一番新しいものにはカメラがつき、画面も大きかった。その分、広告で見ていたものより高い。


「これがいいの?」


 店員に聞かれ、見本を閉じたり開いたりした。


「まだ決めてません」

「写真をよく撮るなら、こちらの方がきれいですよ」


 携帯で何を撮るか考えた。


 今なら、友達か、部活の帰り道くらいしか浮かばない。写真のために高いものを選ぶ必要はなかった。


 見本を何度か開け閉めし、その中で持ちやすかった濃い青の端末を選んだ。


 契約書を書くのは父さんだった。


 自分の携帯なのに、住所も料金の引き落とし先も、父さんが店員と一つずつ確認している。俺は横の椅子に座り、渡された番号を先に覚えようとした。


 十一桁は、一度では覚えられなかった。


 家に戻ると、最初に自宅の番号を入れた。


 次が父さんの携帯だった。


「私のは?」


 姉ちゃんが横から画面をのぞく。


「あとで入れる」

「じゃあ貸して。自分で入れるから」

「普通に入れろよ」


 姉ちゃんは携帯を受け取ると、自分の番号を打ち込み、名前の前に星の記号までつけた。


「消すからな」

「探しやすいじゃん」

「あいうえお順で一番上に来るだろ」

「もっと探しやすいね」


 取り返して星だけ消した。


 母さんは自分用の携帯を持っていないため、働いている店の代表番号も入れた。店には急ぎの時だけかけるように念を押された。


 家の電話の横に置かれた住所録を開き、宮下家、田辺家、三浦家の番号も入れる。何度もかけたことのある番号を、自分の携帯にも登録した。


 月曜日、担任に言われた通り電源を切ったまま鞄に入れ、教室で佐伯に番号を書いた紙を渡した。


「買ったの?」

「土曜に。佐伯の番号も教えて」

「俺のはない。家のならいいけど」

「父さんの携帯を選んでたくらいだもんな」

「色は俺が選んだよ」


 佐伯は紙の裏に自宅の番号を書いた。


 昼休みには七海、悠斗、遼太に自分の番号を渡した。三人とも家の番号は前から知っている。遼太だけは番号より先に、携帯を見せろと言った。


「カメラついてる?」

「ついてる」

「撮って」

「学校で使わない約束なんだよ」

「一枚だけ」

「電源切ってる」

「電源入れたら使えるじゃん」

「先生に見つかったら遼太のせいって言うからな」

「じゃあ放課後」


 遼太はそれで引き下がった。


 帰宅後、佐伯が書いた紙と男子バスケ部の連絡網を開き、大野の家などの番号を一つずつ入れた。携帯を持っている一年生はまだ少なく、連絡網に載っているのは家の番号ばかりだった。


 最初は二件だけだった一覧には、家族や友達、部活の連絡先が並んでいた。


 七海たちも佐伯も、登録したのは家の番号だった。


 一通り番号を入れ終えたところで、階段の下から父さんに呼ばれた。


「充電器は居間に置け。部屋に置いたら、夜もそのまま使うだろ」

「部屋で充電した方が使いやすいだろ」

「夜遅くに使わない約束だ」


 これ以上言い返しても置き場所は変わりそうになく、充電器を家の電話の横に置いた。自分の番号を書いた紙も、その隣に母さんが貼った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。