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小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第三章 未来を知っている中学生

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第八十話 試験時間は残り三分

 中間試験の三日前、昼休みの教室から遊びに出る人数はいつもより少なかった。


 佐伯は前の机に英語の教科書と単語帳を並べ、どちらから見るか迷っている。


「二つ出しても、同時には読めないだろ」

「分かってる。どっちを先にするか考えてるんだよ」

「考えてる間に一個覚えた方が早くない?」


 白石が横から単語帳を取った。


「じゃあ、私が出すね」

「まだどっちにするか決めてない」

「じゃあ単語帳からね」


 白石は一番上の単語を指で隠した。


「日曜日」

「サンデー」

「書いて」

「言うだけじゃだめなの?」

「藤宮、紙ある?」


 俺がノートの後ろから一枚破って渡すと、佐伯は嫌そうな顔をしながら鉛筆を持った。


 七海も自分の椅子をこちらに寄せる。


「じゃあ、私は理科出す。藤宮、答えて」

「英語じゃなくていいの?」

「英語は昨日やった。花のつくりの名前がまだごちゃごちゃする」

「俺もそこ間違えた」

「藤宮も?」

「最初はな」


 七海が理科のノートを開き、花の図を俺に向けた。


 線の先を一つずつ指して答える。三つ目で、一度言いかけた名前を変えた。


「今、違うこと言おうとしたでしょ」

「言う前に直したから合ってる」

「でも、途中まで違ってた」

「言い終わる前ならいいだろ」


 七海は納得せず、同じ場所をもう一度指した。


 後ろでは、白石が佐伯の書いた単語に丸をつけている。


「佐伯、木曜日が惜しい」

「どこ?」

「途中が一文字多い」

「多いなら得じゃん」

「点は減るけどね」


 佐伯は余分な一文字を消した。


 昼休みが終わるまで、四人で出す側と答える側を何度か入れ替えた。自分で教科書を読むより、急に聞かれた方が覚えていないところがよく分かった。


 放課後の部活は、試験前でいつもより早く終わった。


 家へ帰り、夕飯までに社会を一周する。歴史の流れや地図を見て分かることは多かった。一周目の受験で何度も覚え、三十六歳になるまでにニュースや仕事で見た言葉もある。


 それでも、教科書と同じ言葉を求められる問題では、意味の近い別の言葉を書いてしまうこともあった。


 間違えたところに印をつけ、次に英語を開く。


 しばらくすると、母さんが麦茶の入ったコップを持ってきた。


「明日も学校なんだから、あんまり遅くまで起きてたらだめだよ」

「あと一ページ」


 返事だけして、英語の教科書に目を戻した。


 最後に理科を開き直した時には、時計は十時を過ぎていた。


「こういち、まだ起きてるの?」


 母さんが戸を少し開けた。


「あと一ページ」

「その一ページ、さっきも聞いたよ」

「今度は理科の一ページ」

「教科が変わっただけでしょ。明日も学校なんだから、十一時までには寝なさい」

「分かった」

「返事しても続けるから言ってるの」


 母さんは机の横に置いた空のコップを持っていった。


 残った一ページを終わらせ、間違えた問題だけもう一度見た。


 * * *


 木曜日、一時間目の数学は、見直しまで終えても時間が余った。


 時計を見ると、試験時間はまだ半分も残っていた。


 計算を最初からやり直し、文章問題の単位も確かめる。その間も、佐伯は解答用紙の下の方を書いては消していた。


 二時間目の国語は、最後の記述で迷った。本文から抜き出す言葉は合っているはずなのに、指定された字数に収めようとすると、一文字余る。


 言葉を一つ変え、句点まで数え直したところで終了の合図が鳴った。


 休み時間になると、佐伯がすぐ振り返った。


「数学の最後、答えいくつ?」

「今聞いても変わらないだろ」

「同じなら安心できる」

「違ったら?」

「次の英語まで引きずる」

「じゃあ聞かない方がいいじゃん」


 白石が笑いながら言うと、佐伯は机に向き直った。


 一日目が終わっても、まだ試験が終わった感じはしなかった。帰りの会の前から、教室には数学の答えを確かめている人も、明日の英語の教科書を開いている人もいた。


 俺は数学と国語を鞄の奥に入れ、英語の単語帳だけ机に残した。


「答え合わせしないの?」


 七海が廊下側から聞いた。


「今から間違いが分かっても直せないだろ。明日の英語やる」

「それはそうだけど、気にならない?」

「気になるから見ないんだよ」


 佐伯は前で友達の答えを聞き、さっきから安心したり机に伏せたりしていた。


 家に帰ってからも、問題用紙は鞄から出さなかった。夕飯まで英語、食べたあとは社会と理科。覚えたつもりのところに印をつけ、何も見ずに言えなかったところだけをもう一度開いた。


 二日目の英語では、水曜日の綴りで鉛筆は止まらなかった。書き終えて次へ進む時、昼休みに白石が言った「水曜日」を思い出した。


 社会は、出来事の名前を知っていても、どの人物と同じ時代だったかで迷った。教科書で見た順番を頭の中でたどり直してから、答えを書いた。


 二日目の最後は理科だった。


 見覚えのある問題から先に埋めていく。花の図も、昼休みに七海が何度も指した場所は迷わなかった。


 最後のページで手が止まった。


 実験の手順を、決められた言葉を使って説明する問題だった。やることは分かる。けれど、理由まで一文に入れると長くなる。


 残り三分。


 一度書いた答えを消し、短く書き直した。消した跡に鉛筆の先が引っかかり、最後の字だけ少し濃くなった。


 見直しは半分しかできなかった。


「やめ。後ろから集めて」


 答案を伏せ、後ろから回ってきた分を重ねる。


 佐伯は答案を渡したあと、机に額をつけた。


「終わった」

「試験が?」

「俺の理科が」

「まだ返ってきてないだろ」


 七海が廊下側からこっちを見た。


「藤宮、花のところできた?」

「そこはできたと思う」

「思う、なんだ」

「最後の実験は自信ない」


 七海は少し安心したように、自分の席へ戻った。


 全部分かっていたわけではない。それでも、試験範囲が出た時には答えられなかったところも書けた。


 廊下へ出た誰かが、やっと外で遊べると叫んだ。佐伯も机に突っ伏したまま片手だけ上げ、あとで行くと返している。


 俺は立ち上がる前に肩を回した。二日間の試験で、首の付け根がいつもより固くなっていた。

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