第七十三話 右足で跳ぶまで
木曜日の練習で、初めて左右からレイアップをした。
最初はボールを持ったまま、ゴールの右側から二歩で入る。右足、左足の順に踏み、右手で板の四角を狙う。
見本を見ている時は、難しそうには見えなかった。
自分の番になり、右足を出す。次に左足を踏んだところで、ボールを持った手まで下がった。跳んだというより、輪の下まで歩いただけだった。
投げたボールは板の下に当たり、俺の頭より後ろに落ちた。
「藤宮、最後の一歩をもう少し強く」
先輩に言われ、転がったボールを拾う。
二度目は左足で床を蹴れたが、今度は板の四角を越えた。輪の反対側から落ちてきたボールを、次の男子が追いかけた。
右側を三周したあと、列が左へ移った。
「今度は左、右で踏んで、右足で跳ぶ。ボールは左手」
顧問がゆっくり見本を見せた。
一歩目は左足だった。そこまでは分かっていたのに、輪に近づくと先に右足が出た。足を合わせようとして小さく跳ね、両足で止まってしまう。
「歩幅を合わせにいくな。最初からやり直せ」
「はい」
列の後ろに戻る。
前では、大野が左足、右足と進み、右足で跳んだ。左手から離れたボールは輪の奥に当たったが、足は止まらなかった。
大野の前にいた、もう一人のミニバス経験者は板に当てて入れた。戻る途中で二年生に呼ばれ、そのまま反対のコートへ入っていった。
二年生が三人ずつに分かれ、走りながらパスを回していた。
大野もそちらを見たが、すぐに前を向いた。
次は板に当てた。入らなかったボールを拾い、列の後ろまで走って戻ってくる。
「左、右なのは分かってるんだけど、輪に近づくと逆になる。どうしたらいい?」
近くまで来た大野に聞く。
「じゃあ、一回、足だけでやってみろよ」
大野はそれだけ言い、自分の列に戻った。
左足、右足。
列の中で一度だけ動かすと、後ろの男子に靴を踏まれた。
「ごめん。急に何してるんだよ」
「足を確認してた」
「並びながらやるなよ」
靴の踵を直しているうちに前が空いた。
慌ててボールを持ち、左足を出す。また輪の近くで歩幅が小さくなった。右足で跳んだものの、左手から出したボールは板まで届かなかった。
右からなら、何本かに一本は入るようになっている。左へ回ると、ボールより先に足を考えなければならなかった。
考えた分だけ、手から離すのも遅れた。
次の順番では、始める場所を靴一つ分だけ後ろへ下げた。
左、右。
頭の中で言いながら進む。足は合ったが、跳ぶ前にボールを胸の前に抱え込んでしまった。板のすぐ下から押し出し、輪の手前に当てる。
「足だけじゃなく、ボールも一緒に上げろ」
顧問に言われて戻る。
もう一度、自分の前の二人を見る。一人は二歩目と同時に膝が上がり、持っていた手も顔の横まで来ていた。足、膝、手を別々に追っているうちに、その選手はもう着地していた。
次は足順を口に出さず、最初の一歩だけは左足と決めた。
右足で床を蹴った時、左膝とボールが一緒に上がった。シュートは外れたが、板の四角には当たった。
練習の後半は、二人組で胸の前からパスを出しながら走った。俺は一度、相手より後ろへ投げた。受け取った男子が身体をひねり、何とか外へ出さずに止める。
「ごめん」
「次、もう少し前」
反対に走る時は、相手の胸ではなく、進む先に投げる。今度は両手の中に収まった。
最後に二年生と三年生が短い試合を始めた。
一年生は壁際に座って見学する。さっき呼ばれた男子も片方の組に入り、一度だけゴール下でパスを受けた。
シュートは外れたが、すぐに戻って相手の前に入る。
隣に座っていた大野は、床に置いたボールを両手で挟んでいた。
「出たかった?」
「そりゃ出たいだろ」
大野は試合から目を離さなかった。
終了の笛が鳴ると、顧問が一年生に声をかけた。
「片づけまで十分ある。使いたい者は、ボールを一人一個だけ出していい。時間になったらすぐ戻せよ」
大野は立ち上がると、左側のゴールへ向かった。
俺もあとを追う。
「この前の、あとで教えるって言ってたやつ」
「覚えてたのかよ」
大野はボールを俺から取り、床に置いた。
「先に足だけやれ。左、右で踏んで、右足で跳ぶ」
ボールを持たずに二歩進み、右足で床を蹴る。上がるのは左膝だった。
着地すると、すぐボールを拾った。
「あとは左で置いてくる。俺も練習するから、ずっとは見ないぞ」
「分かった」
ゴールの横で、ボールを持たずに左足を出す。右足を踏み、左膝を上げる。
最初は輪に近づきすぎた。開始する場所を半歩下げ、同じ動きを繰り返す。
四度目で、足を止めずに跳べた。
ボールを持つと、また右足から出そうになった。動かずに戻し、左足から始める。
投げたボールは板の下の方に当たった。
拾って戻る。左、右。次は板には届いたが、輪の外に落ちた。
大野は隣で、左手のドリブルから同じ動きを続けていた。二本外すと、開始する位置を少しだけ変えた。
俺は六本目で、ようやく四角の右下に当てた。ボールが輪の中に落ちる。
「入った」
「止まるな。もう一本やれ」
大野は自分のボールを追いながら言った。
次は勢いをつけすぎ、板の上まで飛ばした。
「足は合ってたぞ」
戻ってきた大野が、転がるボールを足で止めた。
「でも、今のは強すぎた」
「足を間違えるよりましだろ。次は手だけ弱くすればいい」
ボールを受け取り、同じ場所に戻る。
左、右と進んで跳ぶ。今度は弱くしすぎて輪の手前に当たった。
拾いに入ると、大野のボールも横から転がってきた。二つを続けて止め、一つを返す。
「大野のも外れてるじゃん」
「左でドリブルしてからだから、そっちより難しいんだよ」
「入ったら同じだろ」
「じゃあ先に五本入れた方が勝ち」
「もう片づけだって」
顧問が笛を鳴らす前に、壁の時計を指していた。残りは一分もなかった。
「次な」
大野は最後に一本だけ投げ、輪の横に当てた。
顧問から片づけの声がかかる。
俺は大野の足元からボールを受け取り、二人で籠の方へ走った。




