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小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第一章 小学四年生に戻った俺

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閑話 この番組が終わるまで【別視点・宮下七海】

 ランドセルを置いて居間へ行くと、弟がテレビの前に寝転がっていた。


 画面では怪獣が建物を壊している。ビデオデッキの数字が動いていた。


「ねえ、うちの見たい番組がもうすぐ始まるから、チャンネル替えてよ」

「まだ途中」

「ビデオなら、あとで続き見れるじゃん」

「今見てるんだけど」


 弟はリモコンをお腹の下へ入れた。


 そうされると、余計に取りたくなる。隣にしゃがんで腕を伸ばしたら、弟はうつぶせのまま向こうへ転がった。


「隠さなくてもいいでしょ」

「取るじゃん」

「始まっちゃうもん」


 テレビの上の時計を見た。あと二分。


 今日、学校でこの番組の話になった。先週は見逃したから友達にどんなことをやっていたのか聞いたけど、二人とも話している途中で笑い出して、肝心なところがよく分からなかった。今日はうちも見たい。


「これ終わったら一緒に見るから」

「お姉ちゃん、この前も途中でいなくなったじゃん」

「あの時はご飯だったじゃん」

「ご飯のあとも見なかったくせに」

「今日は見るって」


 弟は画面を見たまま答えなかった。


 怪獣が口から光を出す。弟が少し顔を上げた隙にリモコンへ手を伸ばしたら、肘で押さえられた。


「もー。そこだけ見たら替えてよ」


 町がつぶれ、煙が上がった。弟は怪獣が海へ入るところまで見てから、ようやくリモコンを出した。


「続き、ここからだからね」

「うん、分かった」


 ビデオを止め、チャンネルを替える。


 まだコマーシャルだった。間に合った。


 うちは座布団を引っ張ってきて、テレビの正面に座った。弟も横に座り直した。さっきまで寝転がっていたくせに、うちが座ったところへ足を伸ばしてきた。


「狭いって」

「そこ、さっきまで座ってたのに」

「寝てたじゃん」


 膝で足を押すと、弟は少しだけ引っ込めた。


 台所からお母さんが来て、テーブルにせんべいの袋を置いた。


「食べるならお皿に出してね。袋から食べると、またそこらじゅうにこぼすから」

「はーい」


 弟がすぐ袋に手を伸ばした。


「お皿って言ってたでしょ」

「お姉ちゃん、持ってきて」

「今から始まるから、自分で持ってきて」


 弟は口をとがらせながら立った。戻ってきた時には、二枚の皿を重ねて持っていた。


 上の一枚を受け取り、袋を開ける。丸いせんべいを一枚ずつ皿へ出すと、弟がうちの皿をのぞき込んだ。


「そっちのが、おいしそう」

「同じだよ」

「そっち、しょうゆいっぱいついてる」


 弟の指が、もううちの皿の上にあった。取られる前にせんべいを持ち上げ、一口かじる。


「あ」

「もう食べたからね」


 弟はうちの顔を見てから、自分のせんべいをかじった。ぱりっと大きな音を立てる。


 番組の音楽が流れて、二人ともテレビへ顔を戻した。


 着ぐるみを着た人が、狭い入口に頭をぶつけていた。横を向いても入れなくて、後ろから来た人に押される。


「頭取ればいいのに」


 弟が言った。


「取っちゃだめなんだよ」

「なんで」

「そういうのだから」


 説明している間に、テレビの中の二人がまとめて倒れた。何が引っかかったのか見ていなかった。


「ちょっと、見えなかったじゃん」

「お姉ちゃんがこっち見たからじゃん」


 弟が笑いながらせんべいを食べる。言い返しかけたけど、画面の中ではまだ着ぐるみが起き上がれずにいた。短い手で床を押しても、ころっと横に転がる。うちもせんべいを持ったまま笑った。


 歌が始まると、座ったまま肩が動いた。学校で友達とやった振り付けだ。腕を二回上げて、横へ振る。


「それ、違うよ」

「合ってるよ」

「今、反対だった」


 弟に言われ、画面の人の手を見た。こっちから見ると、どっちへ動かせばいいのか分からなくなる。


 もう一度やろうとして立ち上がると、弟も立った。


「こうだよ」


 弟は片足を大きく横へ出し、腕を振った。テレビとは違う方へ回って、テーブルの手前で急に止まる。


「そっちも違うじゃん」

「もう一回」


 うちは笑って、座布団を足で端へ寄せた。二人でテレビを向くと、弟の肩が腕に当たった。


「もうちょっとそっち行って」

「お姉ちゃんが真ん中にいるんだもん」


 うちが横へよけて、もう一度踊ろうとした時には、歌が終わっていた。


「終わっちゃったじゃん」

「お姉ちゃんが遅いから」

「今のはそっちでしょ」


 台所からお母さんが顔を出した。


「何やってるの。テーブルにぶつからないでよ。お皿落ちるから」


 二人でテーブルを見た。皿は落ちていなかったけど、足元にはせんべいのかけらが落ちていた。


 うちが一つ拾うと、弟もしゃがんだ。


* * *


 番組が終わると、弟がテーブルに置いてあったリモコンを取り、何も言わずに差し出してきた。


「分かってるって」


 ビデオの続きを再生すると、今度は部屋の中で人が話していた。


「怪獣、どこ行ったの?」

「あとで出てくるよ」

「ふうん」


 弟は座布団を寄せてきた。半分くらい重なったので、うちは端を引っ張った。


「ここ、よく見てて」

「見てるよ」


 そう答えたすぐあとに、弟が横からうちのせんべいへ手を伸ばした。


「それ、かじってあるよ」

「いいよ、ちょうだい」


 弟は残った端を食べながらテレビへ向き直り、うちも隣で続きを見た。

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