第六話 小テストと放課後
算数の時間に、余りのあるわり算をやった。
黒板に数字が並ぶ。
新聞の数字とは違う。こっちは解けば答えが出る。
計算の仕方は覚えていた。答えもすぐに出る。
早く終わらせようと次の問題へ進んだところで、七海が俺のノートを見た。
「藤宮、余り書き忘れてる」
「言うなよ」
「うちもさっきやったし」
「じゃあ見るな」
「だって横向いたら見えたんだもん」
余りを書き足すと、その数字だけ少し曲がった。
消しゴムで直したところだけ、紙が少し黒くなった。
帰りの会で、先生が言った。
「月曜日に算数の小テストをするぞ。わり算と、余りのある計算な」
遼太が小さく言った。
「終わった」
「まだ始まってないだろ」
「わり算、嫌い」
「少しぐらい勉強しとけよ」
「藤宮、急に先生みたいなこと言う」
「先生ほど言ってない」
家に帰ってから、俺はプリントを出した。
公園へ行く前に、十分だけやることにした。
計算はできる。
でも、余りを書き忘れたり、途中から字が雑になったりする。
「こういち、遊びに行くの?」
母さんが台所から声をかける。
「十分だけ勉強したら行く」
時計を見て、もう少しだけ続けた。
答えを書いて、余りも書く。
今度は忘れなかった。
公園へ行くと、遼太がブランコに座っていた。
ブランコの下の土は、何度も蹴られて浅くへこんでいた。
「遅い」
「ちょっと勉強してきた」
「何の勉強?」
「わり算。月曜に小テストあるだろ」
「うわ」
「うわって言うな」
悠斗は地面に線を引いて、鬼ごっこの範囲を決めていた。
「今日はここからあっちの木までな」
「広くない?」
「広い方が逃げられるじゃん」
「鬼が大変だろ」
「藤宮、遅かったから鬼な」
「何でだよ」
「遅れたから」
文句を言いながら走り出すと、すぐ息が上がった。
頭の中では、もう少し動けるつもりだった。でも足は思ったほど前に出ない。
遼太は曲がる時だけ大げさに体を倒して、悠斗はそれを見て笑って捕まった。
「悠斗、笑うから」
「遼太の走り方がさ」
「作戦だし」
「作戦っていうか、変なだけだろ」
七海も途中から来て、縄跳びを持ったままこっちを見ていた。
「藤宮、思ったより速くない」
「悪かったな」
「もっと速いと思ってた」
「勝手に思うなよ」
「なんか速そうだったから」
夕方になる前に帰る。
家に着くと、母さんが玄関にいた。
「顔、真っ赤」
「走った」
「宿題は?」
「十分やった」
「全部じゃないでしょ」
「帰ってからやる」
「じゃあ手洗ってからね」
手を洗って、宿題の続きをやる。
外で走ったあとの体はだるかった。鉛筆を持つ手も、昼より重い。
最後の答えまで書いて、プリントをランドセルへ入れた。
月曜日の小テストで、俺は八十五点を取った。
満点ではない。単位を書き忘れて、一問落とした。見直したつもりだったのに、数字しか見ていなかった。
「もったいな」
七海に言われた。
「言うな」
「だってほんとにもったいないし」
「分かってる」
「次は書きなよ」
遼太は六十点で、なぜか誇らしげだった。
「俺、思ったより書けてた」
「空白が少ないだけじゃないのか」
「空白よりいいだろ」
「それはそう」
家に帰って答案を見せると、母さんは「いいじゃない」と言った。
父さんは夜、答案を見てから言った。
「計算は合ってるな」
「単位忘れた」
「次は最後まで書け」
答案を机に広げ、抜けていた単位を鉛筆で書き足した。ほかの答えも、数字の後ろまで確かめた。




