↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/102

閑話 午前中だけ【別視点・藤宮奈緒美】

 卒業式の翌朝、味噌汁の火を弱めながら、私は階段の上に向かって声をかけた。


「こういち、起きなさい。学校――」


 途中で言葉が止まった。


 二階から、少し遅れて返事がきた。


「今日、学校ないよ」

「分かってるわよ。朝ごはんはあるんだから、早く下りてきなさい」

「今行く」


 鍋のふたを開けると、湯気が顔に当たった。


 階段を下りる足音は、まだ聞こえなかった。


「早くしなさい」

「行くって」


 また二階から返ってきた。


 恒一は髪の後ろを立たせたまま、食卓へ来た。


「顔、洗った?」

「洗った」

「寝癖ついてるよ」

「今日はいい」

「よくないでしょ」


 椅子に座った恒一の前に、味噌汁とご飯を置いた。


 昨日持たせたハンカチは、洗濯かごの中に入っていた。上履き袋は見ていない。


「上履き、出した?」


 恒一が箸を止めた。


「もう履かないけど」

「履かなくても、袋に入れっぱなしはだめでしょ」

「あとで出す」

「今出しなさい。食べ終わったら忘れるから」

「食べてる途中なんだけど」

「じゃあ食べ終わったらすぐ」

「分かった」


 恒一は味噌汁を飲みながら答えた。


 食べ終わると、本当に二階から上履き袋を持ってきた。


「珍しい」

「出せって言ったの母さんだろ」


 袋を受け取ると、底に細かい砂がたまっていた。


 中の上履きは、つま先のゴムが灰色にくすみ、かかとに書いた名前も何度も洗ううちにかすれていた。


「これ、捨てる?」


 返事をする前に、かかとに残った名前をもう一度見た。


「まだ決めない。袋から出して、そこに置いといて」

「どこ?」

「洗面所の前」


 恒一は左右の上履きを片手で持っていった。


「床に砂こぼさないでよ」

「ちょっとこぼれた」

「もう」


 ほうきを取りに行くと、廊下に細かい砂が散っていた。


 恒一は先に拾おうとして、指で一粒ずつつまんでいる。


「それじゃ終わらないでしょ。どいて」


 ほうきを戻してから洗濯物を干し、恒一の部屋をのぞいた。


 机の横には、ランドセルが昨日のまま収まっていた。机の上の卒業証書の筒は、片端が本棚の縁に乗り、斜めになっていた。


「こういち、これ落ちるよ」

「あとで場所決める」

「あとでばっかりじゃない」


 筒だけまっすぐに置き直した。しまう場所までは決めなかった。


 十時前、牛乳と豆腐を買いに近所のスーパーへ行った。


 入口の横には、特売の紙と店からのお知らせが並んでいた。


 いつもなら特売の値段だけ見て通るところで、今日は足が止まった。


 白い紙の上に、太い字でパート募集と書かれていた。


 その下に、「午前中だけでも可」とあった。


 仕事内容はレジと品出しで、勤務は週に三日から、午前九時から十二時までと書かれていた。


 朝の片づけをしてからでも、間に合う時間だった。


「すみません、通ります」


 後ろから台車を押した店員に言われ、横へよけた。


「あ、ごめんなさい」


 紙から離れ、そのまま店の中へ入った。


 牛乳を一本かごに入れる。


 卵は昨日買った。昼はうどんにするつもりだから、ねぎもいる。真鈴があとで何か食べるかもしれないので、安くなっていたパンも一袋取った。


 買い物メモに線を引きながら、売り場を回った。


 会計を済ませ、袋に詰めて外へ出る。


 自転車のかごに袋を入れたところで、豆腐を買っていないことに気づいた。


 メモの一番上に書いてあったのに、線が引かれていない。


「もう」


 袋をかごから下ろし、もう一度自動ドアを通った。


 募集の紙は、さっきと同じ場所に貼られていた。


 今度は立ち止まらずに通り過ぎた。


 豆腐をかごに入れてから、曜日の欄を見てこなかったことに気づいた。

小学生編、ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回から中学生編が始まります。引き続き楽しんでいただければうれしいです。


評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります。

感想も気軽にいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。