第五十二話 五百円のプレゼント交換
「クリスマス、プレゼント交換しようぜ」
十二月に入って最初の休み時間、遼太が二組へ来て言った。
「急だな」
「今決めないと買う時間なくなるだろ」
「まだ三週間くらいあるよ」
悠斗が言うと、遼太は指を三本立てた。
「三週間しかない」
「まだ誰とやるかも決めてないよ」
「だから、それを今から決めるんだよ」
遼太は俺の机に紙を置いた。上には、クリスマス、とだけ大きく書いてある。
「いくらにする?」
「先に誰とやるか決めた方がよくない?」
七海が前の席から振り返った。
遼太は一度、俺と悠斗を見たあと、七海を見る。
「七海もやる?」
「私も入っていいの?」
「四人の方が多いし」
「一人増えただけじゃん」
「三人より四人の方がプレゼント交換っぽいだろ」
七海は少し考えてから、机の上の紙を自分の方へ引いた。
「やる。でも、高いのはなしね」
「じゃあ千円」
「高い」
「五百円」
悠斗が言った。
「そのくらいなら、自分のお小遣いで買える」
「五百円で何買えるんだよ」
「遼太、駄菓子屋ならいっぱい買えるっていつも言ってるじゃん」
七海に言われ、遼太は黙った。
「……五百円までな」
渡す相手は、四人で輪になった時の時計回りに決めた。
遼太から俺。俺から悠斗。悠斗から七海。七海から遼太。
「これなら同じ相手と交換にならないね」
七海が紙に矢印を書いた。
「当日、座る場所間違えたら変わるじゃん」
「紙の通りに渡せばいいだろ」
「じゃあ、これなくすなよ」
「遼太が持つの?」
「俺が言い出したから」
遼太は紙を四つに折り、ランドセルではなく上着のポケットに入れた。
「そこ、洗濯されたら終わりじゃない?」
七海が言うと、遼太は紙をポケットから出した。手に持ったまま一組へ戻っていった。
その週の日曜日、母さんと駅前へ行った。
文房具売り場には、赤や緑の紙で包まれた小物が並んでいた。五百円より少し高いものの方が、選べる種類は多かった。
悠斗は、絵を描いたり、何かを組み立てたりするのが好きだ。修学旅行でも、絵を描く時に見たいからと、写真の絵葉書を選んでいた。
小さい組み立て式の迷路が、四百五十円だった。
「これにするの?」
母さんが横から箱を見た。
「たぶん」
「相手は誰?」
「悠斗」
「悠斗くん、こういうの好きなの?」
「作るものは好きだと思う」
「なら、いいんじゃない」
母さんはそう言って、隣の棚へ目を移した。
一周目には、友達が何をしている時に楽しそうだったかまで考えて、贈る物を選んだ覚えがなかった。箱の裏の完成図を見ていると、部品を一つずつ確かめる悠斗の顔が浮かんだ。
箱を持ち直した。
「これにする」
レジで五百円玉を出すと、五十円玉が一枚返ってきた。
家に帰り、母さんに、家に余っていた包装紙を出してもらった。箱を包むと片側だけ紙が多くなり、折ったところが厚くなった。
「下手」
姉ちゃんが後ろから言った。
「見れば分かる」
「やり直す?」
「破れてないからいい」
「そこ、テープ見えてるよ」
「いいって」
姉ちゃんは手を出しかけたが、俺が箱を押さえると、そのまま引っ込めた。
「まあ、こういちが包んだって分かりやすいか」
「名前書くから分かるよ」
交換する日は、終業式の二日前になった。
場所は悠斗の家だった。
「うちなら、その日お母さんいるから」
悠斗が自分から言った。これまでは遼太か俺の家になることが多かったので、遼太は二回聞き返した。
「ほんとにいいの?」
「いいって言ってるだろ」
悠斗の部屋は、机の横に漫画が巻数順に並んでいた。床に座ると、悠斗のお母さんが麦茶と小さい菓子を持ってきてくれた。
窓際には、途中まで作った紙の模型が置かれていた。細い柱が一本だけ曲がり、横に使わなかった部品がまとめてある。
「これ、悠斗が作ったの?」
「夏休みの残り。途中で違うって気づいた」
「直さないの?」
遼太が指で触ろうとして、悠斗に手を払われた。
「そのうち直す。今触ったら倒れるから」
「じゃあ何でそんなとこ置いてるんだよ」
「遼太が触らなければ倒れないよ」
悠斗はそう言って、模型と遼太の間に自分の鞄を置いた。
「五百円より高そう」
遼太が皿を見て言う。
「これはプレゼントじゃないよ」
悠斗のお母さんが笑い、戸を閉めた。
四人で低い机を囲み、学校で決めた順番に座った。
「一回、全部真ん中に置かない?」
遼太が言った。
「混ざったら分かんなくなるよ」
「名前書いてあるから分かる」
「じゃあ置くだけね」
大きさの違う四つの包みが並んだ。
遼太の包みは、包装紙の角がきれいにそろっていた。
「それ、自分で包んだ?」
「母さん」
「やっぱり」
七海の包みには細い金色のリボンがかかっている。悠斗のは新聞の広告を裏返して包んであり、俺のはテープが見えていた。
「藤宮の、すぐ分かる」
「姉ちゃんにも言われた」
最初に、遼太が包みを俺へ渡した。
中に入っていたのは、ゲームのカセットを二つ入れられる透明なケースだった。
「この前、袋にそのまま入れてただろ」
「見てたの?」
「落としそうだったから」
「五百円で買えた?」
「四百八十円」
遼太は値段まで覚えていた。
次に、俺が悠斗へ迷路を渡した。悠斗は包装紙を破らないようにテープの端からはがし、箱の裏を先に読んだ。
「これ、自分で組むやつ?」
「そう」
「俺に?」
「作るの好きだろ」
悠斗はもう説明の一行目を見ていた。
悠斗から七海へは、青い表紙の小さなメモ帳と二色のペンだった。
「前から、文房具が好きそうだったし。この前も写真屋の袋に名前と枚数を書いてただろ」
「そんな前から見てたんだ」
「見えただけ」
七海はメモ帳の最後のページを開き、青と赤で短い線を一本ずつ引いた。
七海から遼太へは、指で球を弾く小さなサッカーゲームだった。
「お、これ知ってる」
「授業中にやったら没収されるからね」
「やらないって」
遼太は返事をしながら、もう箱を開けていた。
交換が終わると、四つの包み紙だけが机の端に寄せられた。
悠斗は迷路の部品を説明書の番号順に並べていた。七海は新しいメモ帳に今日の日付を書き、遼太は小さな球を三回続けて枠の外へ飛ばした。
「これ、床が悪い」
「さっき開けたばっかりなのに?」
七海が笑った。
俺は透明なケースを開き、持ってきていたカセットを一つ入れてみた。
ふたは、思ったより固かった。




