↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/100

第五十一話 写真ができた日

 放課後になるまで、遼太は写真を一枚も見せなかった。


 休み時間に俺たちが一組へ行っても、紙袋はランドセルの一番奥に入れた、としか言わない。


「一枚くらいいいだろ」

「出したら全部見たくなるだろ」

「遼太が見せたいだけじゃん」


 七海に言われても、遼太は否定しなかった。


 二組の帰りの会が終わると、ランドセルを持った遼太が教室の入口に立っていた。


「遅い」

「こっちは今終わったんだよ」


 窓際の机を二つ寄せた。


 教室には、係の仕事をしている子が何人か残っている。先生は廊下へ出る前に、帰る時は窓を閉めるよう言った。


 遼太は椅子に座ってから、ランドセルを膝に載せた。教科書の下から、朝に見せた紙袋を両手で取り出す。


 薄い緑色の袋には、写真屋の名前と電話番号が印刷されていた。裏側には小さな透明のポケットがあり、茶色い帯のようなものが入っている。


「それ何?」


 七海が指した。


「ネガ。ここ触るなって言われた」

「遼太が?」

「母さんと写真屋の人、両方」


 遼太はそこだけ避けて袋の口を開いた。


「いつ持っていったの?」


 悠斗が聞く。


「旅行から帰った次の日。写真は昨日できたから、また取りに行った」

「取りに行ったの、一人で?」

「母さんと」


 袋を傾けると、光沢のある写真が机の上に滑り出た。


 一番上は、バスの窓から撮ったらしい木の写真だった。近すぎた枝が横へ流れ、奥に屋根が少しだけ写っている。


「何撮ったの、これ」

「ちゃんと景色撮ったつもりだった」

「木しかないよ」


 七海が写真の端を持ち、次の一枚を見た。


 一組の男子が石段に並んでいる。遼太だけが写っていない。


「これ、遼太いないね」

「俺が撮ったから」

「代わってもらえばよかったのに」

「次のはいる」


 その次では、遼太が列の端に入り、代わりに別の男子がいなくなっていた。五人全員が入った写真はなかった。


 写真を一枚ずつ横へ移す。


 暗く写った建物。半分だけ切れた猿の彫刻。宿の窓から見た駐車場。夕食の膳は、撮る前に誰かが箸をつけたのか、端の皿だけ中身が減っていた。


「風呂は?」


 俺が聞くと、遼太は顔を上げた。


「持っていったら先生に取られるだろ」

「持っていこうとはしたんだ」

「してない。部屋に置いてった」


 答えるのが少し早かった。


 悠斗は笑いながら、写真の縁を両手で持った。


「これ、窓に遼太写ってる」


 駐車場の写真を戻して見ると、ガラスの端にカメラを構えた遼太の顔が薄く重なっていた。


「ほんとだ」

「どこ?」


 七海が顔を近づける。


 遼太は見つけられないまま、机の上の写真から次の一枚を抜き出した。


「先にこっち」


 四人で並んだ写真だった。


 遼太は真ん中から半歩ずれた姿勢のまま、片方の肩が少し下がっている。七海はカメラではなく、遼太の方へ顔を向けかけていた。悠斗が脇に下げた地図も、折った角だけ写真の下の方に写っている。


 俺だけが両腕をまっすぐ下ろし、証明写真みたいに立っていた。


「藤宮、固い」


 七海がすぐ言った。


「七海は横見てるだろ」

「遼太が動くの遅かったから」

「押したの七海じゃん」


 写真は少し右に傾いていた。後ろを歩く人の頭も、端に半分だけ入っている。


「撮ったやつ、下手だな」


 遼太が言った。


「でも、俺たちが来た道、三つとも後ろに写ってる」


 悠斗が写真の背景を指した。


 石の道が途中で分かれ、建物の陰と石段の方へ伸びている。撮った時には見ていなかった。


「地図も写ってるし」

「下げろって言われたから下げたよ」

「角が少しだけ写ってる」


 悠斗は自分の指が写真に触れないよう、少し浮かせたまま示していた。


 一周目にも、小学校の修学旅行はあった。


 けれど、この三人と並んで写真を撮った覚えはなかった。


 指先が汗ばんで、持っていた写真の縁に薄く跡がついた。袖で拭こうとすると、悠斗に、こすらない方がいいと言われた。


「これ、一枚だけ?」


 七海が聞いた。


「同じのは一枚。もう一枚って言ったら、班長に呼ばれたから」

「覚えてる」


 七海は傾いた写真をもう一度見た。


「私、これ欲しい」

「横向いてるのに?」

「ちゃんと顔は写ってるからいい」


 遼太は紙袋の透明なポケットを指でたたいた。


「このネガ持っていけば、同じの増やせるって。焼き増し」

「じゃあ三枚」

「何で七海が決めるんだよ」

「遼太は今のを持つでしょ。私と藤宮と悠斗で三枚」


 七海は筆箱から鉛筆を出した。


 写真屋の袋の空いているところに、四人の写真、三枚、と書く。その下に、恒一、悠斗、七海、と縦に並べた。


「名字で書けよ」

「誰が見るの?」

「写真屋の人」

「このまま渡さないでしょ」


「金、いるのかな」

「いるでしょ」

「いくら?」

「それも写真屋で聞いて」


 七海は金額、とだけ書き足した。


 悠斗はその文字を見てから、袋の横に並んだ写真へ目を戻した。


「この建物の、もう一回見ていい?」

「どれ?」

「暗くなってるやつ。屋根のところ」


 四人写真の隣で、また別の写真が回り始めた。


 窓の外は、もう少しで校庭の端まで日陰になるところだった。係の子たちも帰り、教室には俺たちの声と、写真を机に置く小さな音だけが残った。


 全部見終わると、遼太は写真を来た時と同じ順番には戻せなくなっていた。


「四人の写真、真ん中に入れとけば?」


 悠斗が言った。


「曲がらない?」

「ほかの写真の間なら平気」


 遼太は四人の写真を何枚かの間に入れた。ネガの入ったところを折らないよう、袋の口を両手で広げる。


 写真の角が一度だけ引っかかり、遼太は指で押し込まず、袋をもう一度開き直した。


 机を元の列に戻してから、窓際にいた俺が窓を閉めた。七海が戸締まりを確かめ、最後に出た悠斗が教室の戸を閉める。


 連休明け、遼太はまた同じ紙袋を持って二組へ来た。


「一枚四十円だって」

「いつ聞いたの?」

「昨日、母さんと写真屋行った。今日、帰りに頼んでくる」


 俺と悠斗と七海は、四十円ずつ遼太に渡した。遼太は硬貨を財布に入れ、鉛筆で書かれた三人の名前に丸をつけた。


 その次の週、遼太は焼き増しした写真を三枚持ってきた。


 遼太は一枚ずつ名前を確かめて、俺と悠斗と七海に渡した。どれも、最初の一枚と同じように少し右に傾き、悠斗の地図の角が下に写っていた。


「同じの、本当に増えるんだな」


 遼太は原版の入った紙袋と、俺たちの手元の三枚を見比べた。


「そういうものだから」


 七海は答えて、自分の一枚を連絡帳の間に挟んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。