↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/99

第四十一話 買った時より少ない

「買った時より減ってる」


 父さんがそう言ったのは、新しい靴を買う一週間前、九月最後の土曜日だった。証券会社から届いた紙を指で押さえていた。


 テレビは消えていて、食卓にはその紙と、それが入っていた封筒が並んでいた。


 マイクロ〇フトとアッ〇ル。


 一月に百万円ずつ買った二つの株は、合わせて二百万円だった。その下に印刷されている今の金額は、それより少ない。


 どちらも少しずつ下がっていた。


「驚いたか」

「少し」

「減ることもあるとは言ったぞ」

「分かってた」

「分かってるのと、実際に見るのは違うからな」


 父さんは紙を俺の方へ向けた。


 数字を見たまま、指先で紙の角を押さえる。


 この二つが、ずっとこのままではないことは知っている。けれど、いつから上がり始めて、途中でどれくらい下がるのかまでは覚えていなかった。


 未来で有名だった名前を知っているだけだ。


「売りたいか?」

「売らない」

「返事が早いな」

「だって、長く持つって決めたし」

「それで見ないふりをするのも違うぞ」


 父さんが、二つの会社名を順番に指した。


「パソコンは、これからもっと使うと思う。だからマイクロ〇フトはまだ持ってたい」


 父さんの指が、アッ〇ルのところで止まった。


 家のパソコンはウィンドウズだった。学校で触ったものもそうだ。アッ〇ルのパソコンは、電器店で見たことがあるくらいだった。


「こっちは、まだうまく言えない」

「なら、次までにもう少し見とけ」

「うん」

「下がったから見ない、はだめだぞ。届いたら、必ず一緒に見るぞ」

「分かった」


 父さんは紙を半分に折った。


「次に見た時、もっと減ってるかもしれないぞ」

「それでも、その時また考える」


 口に出してから、もう一度金額を見た。


 減った数字は、やっぱり小さくは見えなかった。


 居間の戸が開いて、姉ちゃんが顔を出した。


「何見てるの?」

「前に買った会社の紙」

「会社、届いたの?」

「会社が届くわけないだろ。紙だけだよ」


 姉ちゃんは父さんの横からのぞき込んだ。


「増えた?」

「今は少し減ってる」


 父さんが答えると、姉ちゃんは俺を見た。


「じゃあ買わなきゃよかったじゃん」

「まだ分かんないだろ」

「減ってるんでしょ?」

「今はな」

「ふうん」


 姉ちゃんは二つの会社名と減った数字をもう一度見たが、台所から母さんに呼ばれるとすぐにいなくなった。


「真鈴、みかん運んで」

「今行く」


 返事だけは早かった。


 しばらくして、みかんを一つ持ったまま戻ってくる。


「これ、こういちの分」

「運ぶんじゃなかったの?」

「運んだよ。ここまで」

「一個だけじゃん」

「残りはお父さん」


 父さんは黙って立ち上がった。


 姉ちゃんは俺の前にみかんを置くと、先に自分の分をむき始めた。


 証券会社の紙は、みかんの皮が飛ばないように父さんが封筒へ戻した。


 それから二か月ほどの間にも、紙が届くたび、父さんと金額を見た。


 十二月に入ると、朝の空気が急に冷たくなった。


 新しかった靴にはもう何本か細い傷がつき、銀色の線も最初ほど光らなくなった。毎日は拭かなくなったけど、泥がついた時だけは玄関に布を持っていった。


 教室では、冬休みに何をするかという話が増えた。


「俺、サンタに新しいゲーム頼んだ」


 遼太が休み時間に言った。


「もうもらえるって決まったの?」


 七海が聞くと、遼太は机の中から折り畳んだ紙を出した。


「ちゃんと書いたから」

「書いたら絶対もらえるの?」

「たぶん」

「たぶんじゃん」


 悠斗が紙を横から見た。


「第二希望まで書いてある」

「第一が無理だった時に困るだろ」

「第三は?」

「そこまでは決めてない」


 遼太は紙を取り返して、もう一度折った。


「もらったら、うちでやろうぜ」

「まだもらってないのに?」

「もらうからいいんだよ」

「藤宮は何か頼んだ?」


 悠斗に聞かれて、少し考えた。


「まだ、この前買ったゲームやってる」

「まだ終わってないの?」

「姉ちゃんが勝手に続きをやるから、話が飛ぶんだよ」

「一緒にやってるんじゃないの?」

「俺がいない時もやる」


 七海が笑った。


「それ、藤宮のゲームじゃなくなってるじゃん」

「だから困ってる」

「じゃあ新しいの買えば?」

「それとこれは別だろ」


 遼太が机に手をついた。


「じゃあ冬休みは俺んちな。第二希望でも面白いやつだから」

「何を頼んだの?」

「それは来てから」

「来なかったら?」

「その時考える」


 冬休みに入って、遼太の第一希望はちゃんと届いた。


 一度みんなで遊びに行ったけど、遼太は説明書を読む前に始めて、最初のところで何度も失敗した。悠斗が説明書を読み、七海が横から違うと言い、俺が代わった頃には、外が暗くなり始めていた。


 年が明けて、三学期が始まった。


 証券会社から次の紙が届いたのは、一月の終わりだった。


 父さんは九月に見た紙と新しい紙を並べた。


「最初に見た時より、かなり戻ったな」

「買った時より増えてる」

「そうだな」


 今度は、最初に見た時ほど指は止まらなかった。


「今度はどうする?」

「まだ持っておく。学校でも使い始めたし、これからパソコンを使う人は増えると思う」


 父さんはすぐには何も言わなかった。


 紙を見て、それから俺の顔を見る。


「だからって、この二つが上がるとは限らないぞ」

「うん。でも、今は売らない」

「そうか」


 父さんは赤いペンを俺へ渡した。


「日付を書いておけ」

「俺が?」

「自分の紙だろ」


 ノートを開いて、二つの会社名の横に二〇〇二年一月の日付を書いた。


 前は父さんが書いていた場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。