第三十六話 最初に開いたページ
画面の下に出た青い線が、途中で止まった。
「壊れた?」
隣の男子がマウスから手を離した。
「待てば出るだろ」
「さっきから待ってる」
教室のあちこちから、「まだ出ない」「白いまま」と声が上がった。
先生が言った。
「何回も押すと余計に時間がかかります。今はそのまま待ってください」
「押した?」
「二回だけ」
「押してるじゃん」
男子はマウスから手を離したまま、画面を見ていた。
しばらくすると、白かったところに学校の名前が出た。校舎の写真は上から少しずつ見えてきた。
「やっと出た」
「ほんとに遅いな」
写真の下には、青い字がいくつか並んでいた。
「今日は、インターネットでいろいろなページを見てみます。最初は、学校のページにある『学習リンク』を押してください」
先生が黒板に、押す場所を大きく書いた。
隣の男子がすぐにマウスを動かす。
「これ?」
「一個下」
「こっちか」
青い字を押すと、また画面が白くなった。
「また待つの?」
「たぶん」
男子は机に肘をつきそうになって、先生の方を見てからやめた。
次に開いたページには、天気、動物、地図、博物館と書かれていた。
「ゲームはないの?」
「学習リンクだからな」
「ゲームも勉強になるだろ」
「何の勉強だよ」
「いろいろ」
男子はそう言いながら、動物のところを押した。
犬の写真が出るまで、また少し待つ。
「これ、うちの犬に似てる」
「犬飼ってるの?」
「おばあちゃんち。すぐ吠える」
「似てるのは見た目だけだろ」
「こいつも吠えるかもしれないじゃん」
写真の犬は、口を閉じてこっちを見ていた。
後ろから「気持ち悪い」と声がして振り向くと、魚の写真が画面いっぱいに出ていた。
「海もあるかな」
隣の男子が聞いた。
「地図のところじゃない?」
「海って地図なの?」
「あるだろ」
戻る、と書かれたところを押して、地図のページを開く。
日本地図が出ると、男子はすぐに海の青いところへマウスを動かした。
「押せない」
「そこ、何も書いてないから」
「海なのに?」
「海だからじゃない?」
男子は海を何度か押してから、県の名前を押した。
先生が教室を一周してから、前に戻った。
「最後の十分は、調べたい言葉を一つ入れてみましょう」
先生が検索のページを開く順番を黒板に書いた。
教室のあちこちで、何を入れるか相談が始まった。
「ゲームって入れていい?」
隣の男子が小さな声で聞いた。
「先生に聞けば」
「聞いたらだめって言われそう」
「じゃあやめとけよ」
「でも入れる」
男子はローマ字表を見ながら、ゆっくりキーを押した。
俺は検索する欄に、アマ〇ン、と入れた。
結果が出るまでの間に、隣の画面にはゲームのページがいくつも並んだ。
「いっぱい出てきた」
「どれ見るの」
「分からない」
男子が迷っているうちに、俺の画面も変わった。
一番上に出た名前を押した。
本の表紙が並んだページが開いた。
「本?」
男子がこっちをのぞいた。
「本を売ってるところ」
「パソコンで買うの?」
「買えるみたいだな」
「買ったらどうなるの」
「家に届く」
「今日?」
「今日ではないだろ」
男子は自分の画面より、こっちの画面を見ていた。
「ゲームも売ってる?」
「あるんじゃない?」
「探して」
「自分ので探せよ」
言われてから、男子は自分の画面に戻った。
値段の横に、買い物かごに入れる、と書いてある。
先生が手をたたいた。
「今日はここまでです。開いているページを閉じてください」
「もう? ほとんど待ってただけじゃん」
「犬も見ただろ」
「犬と本だけ」
「ゲームも見てたじゃん」
「まだ開いてない」
男子の画面には、押したばかりのページが半分だけ出ていた。
「閉じるぞ」
「ちょっと待って」
先生にもう一度言われて、男子は諦めて画面を閉じた。
夕飯の時、学校でインターネットを使った話をした。
「何見たの?」
姉ちゃんがすぐに聞いた。
「本を売ってるところ」
「学校で本買ったの?」
「買ってない」
母さんが箸を止めて、こっちを見た。
「学校のパソコンで買い物しないでよ」
「しないって」
「間違えて押すかもしれないでしょ」
「押しただけで買えないよ」
父さんが箸を置いた。
「どこのページだ」
「アマ〇ン」
「前にノートに書いてた会社だな」
「うん」
「日本のページも見られたのか」
「本がいっぱい並んでた。家のパソコンでも見ていい?」
「いいぞ」
「じゃあ見たい」
「今度の休みにな。父さんも一緒に見る」
「今日じゃだめなの?」
姉ちゃんが聞いた。
「こういちが使ってる間、電話が使えなくなるぞ」
「じゃあ土曜でいい」
「姉ちゃんが決めるなよ」
「私も見るから」
「何を見るんだよ」
「それは土曜までに考える」
母さんが姉ちゃんの前に味噌汁を置いた。
「見るなら、その前に宿題を終わらせておきなさい」
「はーい」
姉ちゃんは返事をしてから、俺の方を見た。
「こういちもね」
「分かってる」




