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小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

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第三十五話 青い文字の「海」

 夕飯になっても、ローマ字表の「好きな言葉」の欄だけは空いていた。


「それ、まだ決まってないの?」


 姉ちゃんが箸を持ったまま言った。


「まだ」

「好きな言葉でしょ」

「ゲームでもサッカーでもいいけど、なんか違うんだよな」

「じゃあカレー」

「なんで」

「好きでしょ」


 母さんが味噌汁を置きながら言った。


「海とかは?」

「海?」

「この前行ったでしょ。短いし」


 俺はプリントの空いているところを見た。


「じゃあ、それにする」

「決めるの早いね」

「カレーよりは海の方がいいだろ」

「カレーでもいいじゃん」


 父さんが新聞をたたんで、こっちを見た。


「海なら、ローマ字で三文字か」

「うん、すぐ打てる」


 俺はプリントの端に、うみ、と書いた。


 その横に、U、M、I。


 学校に行くと、遼太は朝からサッカーの話をしていた。


 七海が筆箱を机に置きながら言った。


「遼太、まだクラブ始まったばっかりなのにうるさい」

「始まったからだろ」

「始まる前から言ってたよ」

「それは楽しみだったから」


 悠斗が教室の入口から顔を出した。


「藤宮、昨日のコンピュータどうだった?」

「名前打った」

「それだけ?」

「最初だからな」


 遼太がすぐに聞いた。


「悠斗、何クラブ?」

「図工」

「藤宮も第二希望に書いてた」

「そうなんだ」


 悠斗はそう言って、俺の机に置いてあるプリントを見た。


「それ、コンピュータの?」

「好きな言葉を考えてこいって」

「クラブなのに宿題あるんだ」

「サッカーでよかった」

「サッカーもそのうち何かあるかもよ」

「体動かすやつならいい」

「そこはいいんだ」


 七海が笑った。


「藤宮は何にしたの」


 俺はプリントを悠斗の方へ向けた。


「うみ。旅行で行ったし、短いから」


 遼太が少し身を乗り出した。


「ゲームの方が好きだろ」

「遼太はサッカーじゃないのかよ」

「俺はサッカーだけど、藤宮はゲームの方が好きだろ」

「まあ、それはそうだけど」


 チャイムが鳴って、悠斗は自分の教室へ戻っていった。


 プリントを連絡帳にはさみ直す。


 コンピュータクラブの日は、前より少しだけ早く廊下に出た。


 遼太は体育館の方へ走りかけて、先生に注意されていた。


「走るな」

「走ってないですー」


 俺は笑いそうになりながら、階段を上がった。


 コンピュータ室の扉は、まだ半分しか開いていなかった。


 中は少し暗くて、机の上のパソコンだけが先に見えた。


 前と同じ席に座ると、隣の男子がプリントを見せてきた。


「俺、ゲームにした」

「やっぱり?」

「だって好きな言葉だし」

「それはそうだな」

「藤宮は?」

「うみ」

「海か」

「短いから」

「短いのいいな」

「そこ?」


 先生が前に立って、手をたたいた。


「今日は、自分の名前と、考えてきた言葉を打ってみます」


 パソコンの電源を入れる。


 画面が明るくなるまでの間、隣の男子はキーボードの上を目で追っていた。


「Uってどこだっけ」

「このへん」


 男子がキーを押した。


「あれ、出ない」

「まだ画面ついてないだろ」

「あ、そっか」


 男子は指を浮かせたまま、画面が変わるのを待った。


 白い画面が出る。


 最初に、自分の名前を打った。


 ふじみやこういち。


 前よりは少し落ち着いて打てた。


 次に、好きな言葉を打つ。


 U、M、I。


 画面に、うみ、と出た。


 三文字だけなら、すぐに終わる。


「できた?」


 隣の男子が聞いた。


「できた」

「早いな」

「三文字だから」

「Gどこだっけ」


 男子はキーボードを見て、少し困った顔をした。


「ここ」

「ありがとう」


 先生が見回りながら、何人かの画面を確認していく。


「打てた人は、文字の色を変えてみましょう」


 先生の説明を聞いて、画面の文字を青にした。


 うみ。


「海だから青?」


 隣の男子が言った。


「まあ」

「俺も青にしようかな」

「ゲームなのに?」

「かっこいいから」


 男子は青にしようとして、別のところを押した。


 画面の文字が全部消えた。


「あ」

「戻せる?」

「分からない」


 男子はすぐに先生を呼んだ。


 クラブの終わりに、先生が黒板に次の予定を書いた。


「次は、インターネットを少し使ってみます」


 教室が少しざわついた。


「インターネットって何するの?」


 隣の男子が小さく言った。


「分からない」


 そう答えてから、俺は前を向いた。


 嘘ではない。


 この学校のパソコンで何を見るのかは、まだ分からない。


 でも、インターネットという言葉だけは、黒板から目を離しても頭に残っていた。

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