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小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

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第十八話 一時のインターホン

 一時になる少し前から、俺は何回も時計を見ていた。


 ゲームボーイカラーは机の上。


 攻略本はその横。


「こういち、落ち着きなさい」


 母さんが台所から言った。


「落ち着いてる」

「じゃあ、じっとしてなさい」

「してる」

「してない」


 リビングにいた姉ちゃんが笑った。


「来る前からうるさい」

「うるさくない」

「来たらもっとでしょ」


 言い返そうとしたところで、インターホンが鳴った。


 姉ちゃんがこっちを見て、にやっとする。


「早」

「一時前だし」


 玄関へ行くと、母さんが先にドアを開けていた。


「こんにちは」

「こんにちは」


 遼太と悠斗が、ほとんど同時に頭を下げる。


 遼太の手には、スーパーの袋みたいなものがあった。


「何それ」

「お菓子」

「持ってきたの?」

「母さんが持ってけって」


 悠斗は後ろで靴をそろえている。


 遼太の靴は、少し斜めになっていた。


「靴、端に寄せてね」


 母さんに言われて、遼太が慌てて直す。


「はい」


 部屋に入ると、遼太はすぐ机を見た。


「攻略本ある!」

「先にゲームだろ」

「攻略本見ながらやるんだろ」

「最初から見るな」


 悠斗が攻略本を持ち上げる。


「分厚い」

「昨日買った」

「いいな」

「見るのは今いるところだけな」

「細か」


 遼太がゲームボーイカラーに手を伸ばそうとして、俺は先に取った。


「順番決めるぞ」

「じゃんけん?」

「十分ずつ」

「短くね?」

「長くしたら回らないだろ」

「じゃあ十五分」

「間を取って十二分」

「測れないだろ」


 悠斗が笑った。


「じゃあ交代って言われたら交代」

「それが一番もめるやつだろ」


 結局、最初は俺が持つことになった。


 遼太が勝手に横に座り、悠斗が攻略本を膝に置く。


 窓から入る午後の光が画面に映り込み、俺は本体の角度を少し変えた。


 三人で画面をのぞき込むと、すぐ肩が当たった。遼太は「見えない」とさらに寄ってくるし、悠斗が攻略本を開くたびに、俺までそっちへ傾いた。


 静かになるどころか、声はさっきより大きくなった。


 交代の時間も、すぐ曖昧になった。


「もう俺の番だろ」

「まだ早い」

「けっこうやったって」

「時計見ろ」

「いつからやってるか覚えてない」

「じゃあだめだろ」


 母さんが一度、部屋の前を通った。


 遼太が急に背中を伸ばす。


「今だけちゃんとしても遅い」


 悠斗が小さく言って、遼太がにらんだ。


「してるし」


 母さんは中をのぞいて笑った。


「ドア、少し開けておいてね」

「はーい」


 返事をしたのは俺なのに、遼太まで「はい」と言った。


 遼太の番になると、すぐ騒がしくなった。


 遼太はボタンを押しながらしゃべり、道を一つ通り過ぎた。


「戻って。次の角、下」


 攻略本を机に広げた悠斗が言う。


「こっち?」

「反対」

「先に言えよ」

「さっきから言ってる」


 遼太はボタンを押すのをやめ、画面と攻略本を見比べた。


「藤宮、さっきここ通ったよな」

「通った。何もなかったけど」

「まだ下まで行ってないだろ」


 悠斗が本の絵を指でたどった。俺も膝をずらしてのぞき込む。


「ここ、行けるの?」

「行けるって。ほら、この下」


 俺は画面に目を戻した。


「あ、そこか。遼太、もうちょっと下」


 言われた通りに進むと、画面の端に落ちている道具が見つかった。


「ほんとにあった」

「だから言ったじゃん」


 悠斗は攻略本の同じ場所を指で押さえたまま笑った。


「俺、さっきそのまま行っちゃった」

「藤宮、見るの早すぎなんだよ」

「お前も今、通り過ぎただろ」


 遼太が口を開けたまま俺を見た。悠斗が吹き出したので、俺も笑ってしまった。


 道具を拾ったのを見届けてから、俺は攻略本へ顔を向けた。


「ほかにもある?」

「待って、今見る」


 悠斗がページの下の方へ目を移す。


「俺にも見せて」


 遼太がのぞこうとして、ゲームの画面まで横を向いた。


「画面、こっち向けてくれよ」

「じゃあ本もこっち」


 悠斗が攻略本を三人の真ん中へずらした。俺は閉じかけたページを手で押さえ、遼太がボタンを押すのを待った。


 途中で、遼太が袋からお菓子を出そうとした。


「まだ早い」

「なんで」

「手、汚れるだろ」

「じゃああとで」


 遼太は袋を机の端に置いた。


 その袋が攻略本に当たって、ページがめくれた。


「あ」


 悠斗がページを押さえた。


「通信ケーブルのとこ」


 遼太がすぐに身を乗り出した。


「あとで見るから、そこ開いといて」


 悠斗は折れかけたページの角を直し、攻略本を机へ戻した。


「休憩しなさい」


 母さんがおやつを持ってきた。


 皿にはビスケットと小さいチョコがのっている。


「今いいところ」


 遼太が言ってから、すぐ母さんを見た。


「あ、すみません」


 母さんは笑った。


「いいところでも、食べながらはだめ」

「はい」


 ゲームボーイカラーを机に置いても、遼太の目はまだ画面の方に向いていた。


 遼太はビスケットを一枚取った。


「これ、うまいよな。うちにもある」

「うまい」

「こうやって食うと、なんか余計うまいよな」


 俺と悠斗がうなずいた。


 遼太はビスケットを食べ終わると、すぐゲームボーイカラーを見た。


「続きやろ」

「手、拭いた?」

「拭いたって」

「ほんとに?」

「ほら」


 遼太が手のひらを見せる。


 別に見せられても分からなかった。


 夕方になるころには、攻略本の角が曲がっていた。


 誰が曲げたのかは分からない。


「そろそろ片づけてね」


 母さんが部屋をのぞいた。


「えー」


 遼太が一番大きい声を出す。


「五時までって言ったでしょ」

「まだ四時五十分」

「片づける時間も入れて五時」

「きびしい」


 悠斗が笑いながら、攻略本を開いたまま机の端へ寄せた。


「また今度やろ」

「じゃあ、来ていい日分かったら教えて」

「分かったから、靴履けよ」


 玄関まで送ると、遼太は靴を履きながら振り返った。


「通信ケーブル、調べといて」

「何を?」

「どこに売ってるか」

「店にあるかだけな」

「分かってるって」


 二人が帰ったあと、部屋に戻ると、攻略本が開いたままになっていた。


 通信ケーブルのページの端に、浅い折れ筋がついている。

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