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小学四年生に戻った俺の、あの頃から始める人生やり直し  作者: HATENA 
第一章 平成十二年、四年生の春
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第二話 四年二組

 体育館の床は、思っていたより固かった。


 始業式の話は長い。校長先生が何を言っているのか、途中からほとんど入ってこなくなる。会社の朝礼や会議なら、もう少し我慢できた気がするのに、体育座りの足はすぐ痛くなった。


「藤宮、動きすぎ」


 隣から小声がした。


 田辺悠斗だった。朝、校門まで一緒に来た時と同じ顔で、でも体育館の中だから声だけ少し小さい。


「足痛い」

「分かる」

「分かるなら言うなよ」

「まあ、俺も動いてるけど」


 前の列で三浦遼太が振り返った。


「あとで何組か見るやつ、先に行こうぜ」

「先に行けるのか?」

「行けるだろ。走れば」

「廊下走るなって言われるだろ」

「じゃあ早歩き。すごい早歩き」


 遼太は笑って、また前を向いた。


 そういうやり取りに、返事をするのが少し遅れた。


 懐かしいのに、まだうまく混ざれない。


 始業式が終わると、廊下は子供の声と上履きの音でいっぱいになった。前の子のランドセルが揺れて、誰かの手提げ袋が足に当たる。床のワックスの匂いがして、ああ、こんな感じだったなと思った。


 先生が「走らない」と言っている横を、走ってないふりをして早歩きで何人も抜けていった。


 クラス表の前には、もう人だかりができていた。


「俺、二組!」


 遼太が先に言った。


「俺も二組」


 悠斗が横で少し背伸びをする。


 俺は紙の中から自分の名前を探した。


 四年二組。


 藤宮恒一。


「藤宮も二組じゃん」

「……だな」

「じゃあ放課後、ほんとに遊べるな」


 遼太は当たり前みたいに言った。


 一周目の俺は、こういう誘いをよく断っていた。宿題があるとか、今日はいいとか、一人でゲームしたいとか。大きな理由なんてなかった。ただ、何となく面倒で、そういうのが何回も続いていた。


 教室に入ると、机の高さが妙に中途半端だった。低いはずなのに、今の俺にはちょうどいい。机の中には前の人の消しゴムのカスが残っていて、黒板の横には給食当番の表が貼られている。


 椅子を引く音や、筆箱を落とした音などがあちこちからしていた。


 席は、真ん中より少し前だった。


「微妙」


 思わず言うと、後ろから声がした。


「何が?」


 宮下七海だった。


 よく笑って、よくしゃべる子だった。名前を思い出すより先に、そういう感じの方が出てきた。


「席。先生から見えやすい」

「いいじゃん。黒板も見えるし」

「見えすぎるんだよ」

「それは藤宮が悪いことしようとしてるからでしょ」

「してない」

「じゃあいいじゃん」


 七海はそう言って、自分の席へ行った。


 先生が入ってきた。


「はーい、座って。始業式終わったばかりだけど、先に出席取るぞ」


 名前を呼ばれるたびに、誰かが返事をする。


「藤宮恒一」

「はい」


 声が少し裏返った。


 後ろで七海が笑った気がしたけれど、振り返らなかった。


 授業らしい授業はほとんどなかった。配られたプリント、連絡帳、教科書。机の上に置かれるたび、家に持って帰るものが増えていく。


「連絡帳はちゃんと家で見せること。明日の持ち物も忘れるなよ」


 先生が黒板に書く。


 国語。


 算数。


 雑巾一枚。


 鉛筆を持つと、思ったより手が遅かった。字が小さくなる。消しゴムで直そうとして、黒板が消されそうになって、慌てて続きを書いた。


 スマホに連絡が来るわけじゃない。黒板を写して、家で見せて、自分で準備する。忘れたら普通に困る。


 放課後、靴箱で靴を履いていると、遼太が言った。


「三時な」

「三時にどこ?」

「俺んち。ランドセル置いたら来いよ。だめだったら公園」

「だめだったらって、遼太んちなのに」

「母さんが掃除してたら無理かも」

「先に聞いとけよ」

「帰ったら聞く」


 適当だった。


 でも、こういう約束は昔なら普通だった。家に電話するより、行った方が早い。いなかったら公園へ行く。それでも会えなかったら、その日は遊べなくて終わる。


「藤宮、来る?」


 悠斗が聞いた。


 俺は少しだけ迷ってから言った。


「行く」


 遼太が笑う。


「じゃあ遅れんなよ」

「お前もな」

「俺んちだから俺はいるだろ」

「親が掃除してたらいないんだろ」


 悠斗が横で笑った。


 学校の門を出ると、ランドセルが背中で揺れた。


 まだ何も大きく変えていない。


 でも、三時になったら行く場所がある。

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