↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学四年生に戻った俺の、あの頃からのやり直し  作者: HATENA 
第二章 四億円の使い道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/104

第十三話 次の日も学校

 朝、目が覚めても、頭が重かった。


 布団から出て、しばらく机の前に立っていた。


「こういちー、朝ごはん冷めるよー」


 母さんの声がした。


 俺は返事をして、ランドセルの横に置いてある連絡帳を見た。


 国語。


 算数。


 漢字ドリル。


 昨日の夜に入れたはずなのに、もう一度見ないと安心できなかった。


 台所へ行くと、父さんはもう食卓に座っていた。


 新聞は広げていない。


 いつもならテレビの横で新聞を開いているのに、今日は畳んだまま横に置いてある。


 母さんは味噌汁をよそっていた。


 姉ちゃんは髪をタオルで拭きながら、遅れて入ってきた。


「おはよ」

「おはよう」

「こういち、まだ眠いの?」

「寝不足」

「また?」


 また、と言われて、返事に詰まった。


 姉ちゃんは椅子に座りながら、父さんと母さんを見た。


「なんか今日、静かじゃない?」


 母さんの手が一瞬だけ止まった。


 父さんは味噌汁を持ったまま、一拍遅れて言った。


「朝だからだろ」

「朝でもいつももうちょっと何か言うじゃん」

「食べろ。遅れるぞ」

「はいはい」


 姉ちゃんは深く考えた様子もなく、箸を取った。


「こういち」


 父さんが小さく言った。


 姉ちゃんが味噌汁を飲んでいる隙だった。


「昨日のことは、いいな」

「うん」

「学校でその話はするな」

「しない」


 姉ちゃんがこっちを見た。


「昨日のことって何?」


 俺は箸を止めかけた。


 父さんより先に、母さんが言った。


「宿題のこと」

「また宿題?」

「またって言うな」


 姉ちゃんが笑った。


「最近まじめじゃん」

「昨日も言われた」

「誰に?」

「遼太」

「ああ、あの元気な子」


 それで話は流れた。


 母さんは味噌汁を飲んで、何も言わなかった。


 父さんも新聞を開かない。


 食卓の空気だけが、いつもより重かった。


 登校する前、父さんが玄関まで来た。


 いつもなら会社へ行く準備で忙しい時間だった。


「今日は父さん、遅く出る」

「会社は?」

「半休を取る」

「半休?」

「用事がある」


 何の用事かは、聞かなくても分かった。


 銀行と、宝くじ売り場。


 昨日の封筒。


 俺はうなずいた。


「いってきます」

「いってらっしゃい。寄り道するなよ」

「しない」


 玄関で靴を履いて、ランドセルを背負い直した。


 肩ひもが食い込む。


 ドアを開けると、朝の空気が冷たかった。


 父さんはまだ家の中にいる。


 俺だけが、いつもの時間に外へ出た。


 学校に着くと、教室はいつもの感じでうるさかった。


 廊下側の戸が開くたび、冷たい空気が入ってきた。


 遼太が椅子を後ろ向きにして、悠斗の机に肘をついている。


 七海は連絡帳を開きながら、後ろの子と話していた。


「藤宮、今日うち来る?」


 ランドセルを置く前に、遼太が言った。


「今日は無理」

「なんで」

「家の用事」

「じゃあ公園は?」

「それもたぶん無理」

「全部無理じゃん」

「今日はな」

「藤宮、今日つまんない」


 七海が横から言った。


「藤宮、今日あんましゃべらないね」

「朝からうるさいよりいいだろ」

「それはそう」

「そこは納得するなよ」


 俺は筆箱を出した。


 鉛筆を削っていないことに気づいた。


 昨日の夜は、そこまで見ていなかった。


 俺は鉛筆を一本選んで、芯の先を見た。


 短い。


 使えなくはない。


 削るかどうかで、手が止まった。


「藤宮、何笑ってんの」


 七海に見られていた。


「笑ってない」

「今ちょっと笑った」

「鉛筆見てただけ」

「鉛筆で笑う?」

「笑ってないって」


 遼太が横からのぞく。


「それ短いな」

「まだ書ける」

「短いと持ちにくいだろ」

「まあ」

「俺のいる?」


 遼太が筆箱から鉛筆を一本出した。


 思っていたより、ちゃんと削れている。


「珍しいな」

「何が」

「鉛筆」

「俺だって削るし」


 俺は迷ってから、受け取った。


「借りる」

「返せよ」

「返す」


 俺は借りた鉛筆を机に置いた。


 授業が始まると、先生が黒板に漢字を書いた。


 俺は遼太の鉛筆でノートに写した。


 一画目。


 二画目。


 字は曲がった。


 でも、昨日よりは落ち着いていた。


 休み時間になっても、俺はすぐ席を立たなかった。


 遼太と悠斗が廊下へ出ていく。


 七海が横を通る時、俺の机の鉛筆を見た。


「それ、遼太の?」

「借りた」

「返すの忘れそう」

「忘れない」

「今日眠そうだし」

「それはちょっとある」


 七海は少し首をかしげた。


「保健室行く?」

「行かない。そこまでじゃない」

「倒れたら言って」

「倒れたら言えないだろ」

「あ、そっか」


 七海は笑って、「ふうん」と言って教室を出ていった。


 俺は窓の外を見た。


 校庭では、誰かがサッカーボールを蹴っている。


 昼休み、遼太と悠斗が放課後の相談をしていた。


「今日、悠斗んち行くか」

「俺、今日お母さんいるか分からない」

「じゃあ公園」

「結局公園じゃん」


 二人の話は、いつもの調子で進んでいく。


 放課後になって、借りていた鉛筆を遼太に返した。


「お、覚えてた」

「返すって言っただろ」


 俺はランドセルを背負った。


「藤宮、ほんとに帰るの?」


 遼太が言った。


「帰る」

「じゃあ明日な」

「明日も分からない」

「なんでだよ」

「家の用事」

「用事多いな」

「たまにはあるだろ」


 遼太は不満そうだったけれど、すぐに悠斗と走っていった。


 俺は靴を履いて、校門を出た。


 いつもの道を歩いた。


 早く家に着きたかった。


 家の前まで来ると、父さんの車があった。


 まだ夕方にもなっていない。


 父さんがこの時間に家にいることは、あまりなかった。


 玄関を開ける前に、息を吸った。


「ただいま」


 家の中は、妙に静かだった。


 母さんが、廊下の奥から出てくる。


「おかえり」


 いつもの母さんの声なのに、どこか硬かった。


 俺はランドセルを下ろす前に聞いた。


「父さんは?」


 母さんは台所の方を見た。


「居間にいるよ」


 それだけで、息が詰まった。


 居間に入ると、父さんはテーブルの前に座っていた。


 封筒がある。


 昨日の封筒とは別に、銀行の名前が入った紙も置かれていた。


 父さんが俺を見た。


「こういち」


 昨日より、ずっと疲れた声だった。


「銀行と売り場で確認してきた」


 俺は返事をしようとして、うまくできなかった。


 父さんは封筒の上に手を置いた。


「本当に、四億だった」


 母さんが、俺の後ろで小さく息を吐いた。


「受け取りのことも聞いてきた。これから、ちゃんと話すぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。